しばらくまえから書こうと思っていたエントリ。
ライスもティンバーも週末にアーセナル加入の発表を予定している前夜ということで、ちょうど隙間に書いておきたい。
以前このブログでもすこし触れたし、多くのアーセナルファンはすでにご存知と思うが、移籍スタッツ情報における事実上の標準的リファレンスサイトである『TransferMarkt』(以下TM)の最新アップデイトで、アーセナルFCのスクワッドのマーケットヴァリュ=市場価値(以下MV)が、かなり高評価になっている。初めて総額€1bn(=€1,000m)を超えた。
ちなみにアルテタがクラブに来たときのAFCスクワッドのMVは€691mだったという。ほとんど300mも増えてしまった。アルテタ効果と云ってもいいかもしれない。この一年では、ほとんど2倍に。
Arsenal’s total squad market value has seen a dramatic change over the past 12 months 😳 pic.twitter.com/Uwc4yDPVfH
— Transfermarkt.co.uk (@TMuk_news) June 20, 2023
世界一タフなリーグと云われるPLで、2位フィニッシュした2022-23アーセナルのパフォーマンスの躍進は誰の目にもあきらかだったが、それがマーケットにも認められたかたちであり。
そして後述するように、この高い値はアーセナルFCの将来に向けられた「期待値」のあらわれでもある。
今回は、それについてすこし。
2023夏のTMアップデイトでアーセナルのMVが過去最高の1bn超え
その価値、€1.09bnなり。
この金額は、イングランドではマンシティ(€1.19bn)につぐ2位の大きさで、トップ5リーグスなどを含めたワールドワイドのランキングでも同じ。
アーセナルFCは、いま世界で2番めに価値の高いスクワッドを持つチームになった。
現時点でのワールドワイドのMVトップ10は以下。アーセナルは22-23シーズンを終えた評価で、世界のフットボールジャイアントたち、レアル、バイエルン、PSG、バルサのスクワッドよりも市場価値が高くなってしまった。もちろんマンUよりも。
PLとCLを取って、わが世の春を謳歌するマンシティが文句なしにこの世界のトップなのはいいとして、アーセナルがそれに次ぐ評価とは。UCLに出てすらいなかったクラブが。
アーセナルスクワッドのMVトップ10
アーセナルのMVの合計が極めて高くなっているということは、それだけアーセナルの選手たちそれぞれが現在高く評価されていること。
(※これはクラブの売買のときに言及されるような、いわゆる「クラブ価値」とは別物。ちなみに現在のAFCのクラブとしての市場価値は『Forbes』によると£1.8B($2.263B)2023年5月時点)
以下、チームのなかのトップ10人のMV。€50m超えが8人もいて、正直、数年前を思い返すだけでも隔世の感がある。
トップは、スターボーイことブカヨ・サカ。サカの€120m評価はそれだけでニュースになっていた。当然だろう。
サカのMVは、今回のアップデイトでイングランドではトップタイ(Jude Bellinghamと同じく)、ワールドワイドでは4位タイとなっている。彼のうえには、ハーランド、キリエンバッペ、ヴィニシウスJRのようなモンスターしかいない。なんてことでしょう。
もちろん云うまでもなく、サカはAFCアカデミー出身の生え抜きであることが重要。獲得コストはゼロ。どんなフットボールクラブだって夢に見るであろうユースシステムの成功例が、ブカヨ・サカ。
2位は、オーデガードの€90m。こちらもすごい。
オーデガードは、前回(€60m)から今回のアップデイトの伸び幅ランキングでも8位に入っていた(€30m+/50%+)。あらためて、彼をすんなり手放してくれたレアル・マドリッドに感謝しなければなるまい。昨日レアル行きが決まったと報道されていたArda Gülerという18才も、数年後にはアーセナルにローンしてもらえるだろうか。
3位はガビ・マルティネリ。€80m。4年まえにブラジルの4部チームから€7mで買った無名の少年が。
この3人に合わせてかかった獲得コストは€42m。それがいま€290mに化けた。というか、サカとネリのふたりでカウントしたら、7mが200m。30倍である。
3位以下では、個人的にはビッグガビが若干過小評価な感じがしている。PLのトップDFとして、€55mは決して高くない。つぎのアップデイトではもっと上がってもよさそう。きっとそのうちセレソンにも選ばれるだろう。サリバももっと高くていい。
それと、AFCのなかでは10位のラムズデイルに注目したい。
彼のMVである€40mは、ゴールキーパーとしてはイングランドでトップタイ(エデルソンと同じく)だったりする。ワールドワイドでも5位タイとなっている。トップは€45mなので、今後ラムズデイルが22-23と同じように活躍をつづけていくと、もっとランクが上がっていく可能性は十分ある。
2021年に彼をシェフUから€28mで買ったときは、「高すぎる」「3つのチームを降格させた」とかなり懐疑的な見方をされたものだが、結局その投資はいま報われている。
ラムズデイルの発見も、いまではアルテタのタレントIDを支持できる大きな理由のひとつになっている。一見、疑われそうな案件でも蓋を開ければ……という。
ハヴァーツ? もちろん期待してる。彼のMVはアーセナル加入時点ではやや落ちているが、ここからV字で回復しようものなら、痛快このうえなしである。チェルシーにぐぬぬと云わせたいじゃないか。
WHUから来るデクラン・ライスの現在のMVは€90m。このレンジからすると伸びしろはさほど大きくないだろうが、ティンバーの€42mは、アーセナルでのパフォーマンスによってさらに伸びる可能性はありそうだ。
アーセナルのMVは、これからも上がりつづけていきそうな予感しかない。
TransferMarktのMarket Valueについて。MVは期待値
ところで、話が前後するようで恐縮ながら、TMのMVについてはすこし補足の説明が必要だろうと思う。とくに評価基準。どうやってそれを算出しているのか。
TMによると、まず彼らのMVアップデイトは、基本的に年に2回行われる。シーズン終了後とシーズン中。TMの各選手のMVの変遷で、それがどのタイミングの評価が確認できるが、選手によってわりとばらつきがある。だいたいシーズン終了後の6月と11月か12月の年末で、はっきり決まった日というのはないようだ。
今回のTMのMV更新は、アーセナルのファンにはかなり注目されていたので、つぎのタイミング(年末)も注目を集めそうだ。マイチームの評価が高くなれば、それだけでうれしいものだし。悪い評価のときは観ない(笑)。
それと、評価基準について。
このエントリの冒頭に「マーケットに認められた」というような書き方をしたが、このMVはあくまでTransferMarktの中の人たちが自分たちの判断基準にもとづいて算出した数値であり、それにどこまで信頼を置くかは議論の余地はある。現在、多くのメディアやファンに参照されるスタンダードなメディアであるから、ここではそのような書き方をしたに過ぎない。
同じように、MVを発表している信頼できるメディアとしては、CIES Football Observatoryのような機関があり、TMのMVとは金額がそれなりに違っていたりもする。
Most expensive players 🗺️ as per exclusive @CIES_Football ⚽ statistical model
🥇 @ErlingHaaland 🇳🇴 (@mancity)
🥈 @vinijr 🇧🇷 (@realmadrid)
🥉 @BukayoSaka87 🏴 (@Arsenal)
Top 💯 👉 https://t.co/ISlPAFha0X pic.twitter.com/CpD2E9Rzu5— CIES Football Obs (@CIES_Football) June 6, 2023
TMのMV計算のHow it worksはこちらで確認できる。彼らのMVを算出するための参照要素についてちょっと長いが引用しよう。
Most important factors:(最重要な要素)
– Future prospects(将来性)
– Age(年齢)
– Performance at the club and national team(クラブとNTでのパフォーマンス)
– Level and status of the league, both in sporting and financial terms(スポーツ面、財政面におけるリーグのレヴェルとステイタス)
– Reputation/prestige(評判/信用)
– Development potential(今後の成長の余地)
– League-specific features(リーグの特性)
– Marketing value(マーケティング的な価値)
– Number & reputation of interested clubs(興味を持たれているクラブの数とその評判)
– Performance potential(パフォーマンスのポテンシャル)
– Experience level(経験のレヴェル)
– Injury susceptibility(ケガのしやすさ)
– Different financial conditions of clubs and leagues(クラブとリーグの財政状況の違い)
– General demand and “trends” on the market(市場における一般的な引き合いと「トレンド」)
– General development of transfer fees(一般的な移籍金の増減)
– External factors such as the coronavirus pandemic and its consequences(コロナヴァイラスのような外部要因と結果)Individual transfer modalities:(個人の移籍モダリティ)
– Transfers via an option to buy/obligation to buy(買取オプション/買取義務を通した移籍)
– Loan fee(ローンフィ)
– Only part of transfer rights acquired(移籍権利の一部のみ)
– Exit clause(退団条項)
– Buyback option(買い戻しオプション)
– Player swap deal(スワップで取り引きされた選手)
– Contract length(契約の長さ)
– Resale participation(リセイルのあるなし)
– Bonus payments(ボーナスの支払い)
– Improvement of financial balance(財政バランスの進歩)Situational conditions:(状況的コンディション)
– Pressure situations such as competitive, success or financial pressure, etc.(競争、成功、財政などのプレッシャーがかかった状況)
– Will/desire/interests of the player(選手の意志、希望、興味)
– Club does not sell to highest bidder(クラブが最高値で売らない場合)
– Player goes on strike or similar(選手によるストライキまたそれに似たもの)
– High salary(高いサラリー)
– Club wants to sell player(クラブが選手の売却を希望している)
ここで注目すべき重要な部分は、MVの評価においては、現時点でのパフォーマンスやスタッツと同時に、将来性や年齢に重きをおいているところだろうと思う。TMのMVには、今後の伸びしろに対する期待が大きく反映されている。
アーセナルの22-23シーズンは、今後のさらなる躍進を期待させるものだったが、いっぽうで不本意にシーズンを終えたリヴァプールのようなチームは、この数年の躍進を支えたメインの選手たちのMVが今回のアップデイトで軒並み下落に転じていて(VVD、TAA、サラー、ファビーニョら)、アーセナルとは好対照となっている。これは、クラブの成長フェイズの違いでもある。
それと、これは最重要の判断要素ではないということながら、契約期間が反映されていることにも注目したい。たとえば、今回のアップデイトでウィリアム・サリバの評価が低いというファンの声がかなりあったが、彼は新契約にサインする間近であり、それが済むとMVに反映される可能性がある。サカの高額なMVについても、新契約にサインした直後であることは考慮する必要があるのかもしれない。
PSGとおおいに揉めていて(笑)いま話題のキリエンバッペは、PSGと新契約を結ぶにせよレアルが買うにせよ、このあと去就が決まったら彼のMVはその影響を受けることになりそうだ。
もちろん、この夏アーセナルが彼を買ったらMVはかなり上がるに違いない!
22-23アーセナルはなにも失敗していない。Trust the process.
22-23シーズン、失速した終盤からシーズン終了後にかけては、とくにPLのライヴァルクラブのファンから、アーセナルは失敗の烙印を押されることが少なくなかっただろう。
シーズンのほとんどをトップで過ごし、一時期は2位に8ポインツも差をつけながら、最後はシティにタイトルを譲ることになったのは、ありえない失態だと。
まあ憎きチームに、m9(^Д^)プギャーしたくなる彼らの気持ちもわからないでもない。
だが、より長い目、大きな絵図で観れば、22-23はアーセナルには大満足のシーズンだった。なにより、自分たちのやっていることに自信を持てた。正しい方向に向かっていると、チームとクラブの全体が認識を共有することができた。
そして、このTMのMVにおける非常に高い評価も、それはつまりアーセナルの将来性が高く評価されているということなのだろう。このクラブは、これから近い将来にかならず成功に近づいていくと思われている。目標に向かって正しく運営されていると評価されている。
どんなにほかのクラブのファンが否定し、揶揄しようが、アーセナルが着実に前進していることは揺るぎない事実だ。
それをさらに証明する23-24シーズン。
楽しみしかない。
おわり
ここまで高揚感のあるプリシーズンを迎えることになるとは!COYG!
ヴェンゲル末期の我スカから、ウーナイのU字戦略まで、いろいろありましたがようやくここまで来たか!という感じです。ぜひPLCLを戴冠する姿がみたいです