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オーナーシップ、キャッシュフロウ、設備投資。プレミアリーグ10年のファイナンスを俯瞰する

フットボールビジネスを語るブログとして知られるSwiss Ramble(@SwissRamble)が、お正月の1/3にプレミアリーグの10年のファイナンスを分析した興味深い連続ツイートをしていて、アーセナル界隈でもだいぶ話題になっていた。

ニュースとしての旬は少し過ぎてしまったが、アーセナルにとってこの10年はどのような経済的状況下で運営をされてきたか、プレミアリーグのなかではどのように位置づけられるか、確かめるうえでフォローしておきたい。

なおこのエントリはSR氏のツイートを埋め込んでいくので、なんらかの理由で埋め込みツイート(図表入り)が見られないという方は不便をあらかじめご了承くださいますよう。



以下、単位はすべてポンド(※1ポンド=約138円)ってGBPすげえ下がってんな。。

Swiss Rambleによるプレミアリーグの10年ファイナンス分析

プレミアリーグクラブはオーナーの投資で成立している?

2008年から2017年のプレミアリーグクラブは、およそ8ビリオンポンド(8000ミリオン=1兆1040億円)のキャッシュを保有し、そのうちの半分を少し超える金額(4.3ビリオン)が、自らのオペレイティング・アクティヴィティーズから生み出されたもので、残りをオーナーからの投資(3.4ビリオン=貸付金1.8ビリオン+株式1.6ビリオン)、外部からの貸付金0.3ビリオンが占める。

54%のキャッシュがクラブの業務(運転資本のうち経費による収入の上下はある)からで、その他は42%がオーナー投資で3%が外部からのローン。PLクラブが金を生み出すには、選手の売却や既存のキャッシュバランスに手を出す必要がない。

トップ6のオーナー投資

とくに驚きもないが、ビッグ6クラブははるかにたくさんのキャッシュを持っている。マンUが1.6ビリオン、マンシティが1.4ビリオン、ToTが837ミリオン、アーセナルが754ミリオン、リヴァプールが645ミリオン、チェルシーが607ミリオン。しかしながら、それぞれのクラブはとても異なるビジネスモデルを持っている。たとえば、マンUは1.3ビリオンがクラブ業務からで、マンシティは1.3ビリオンがオーナーからだ。

ビッグ6クラブのうち3クラブは、(オーナー投資でなく)クラブ業務で多くのキャッシュを生み出してきている。アーセナルが100%、ToTが81%、マンUが80%。対象的に、ほかのビッグ6クラブはオーナー投資により依存している。マンシティが90%、チェルシーが86%。リヴァプールはバランスが取れていて、クラブ業務で53%、オーナー投資で40%。

(※図はクラブ業務による収入)マンUの自らキャッシュを生み出す能力は素晴らしい。彼らのこの10年で生み出したキャッシュ1.3ビリオンという数字は、2番めに高いアーセナルの754ミリオンのほとんど2倍に近い。これにToTの675ミリオン、さらに離れてリヴァプールの341ミリオンとつづく。PLクラブの大部分が自ら稼いだ金は、60~150ミリオンのあいだにある。

(※図はオーナーによる投資額)対象的に、マンシティの1.3ビリオンはオーナー投資によるもので、2番めのチェルシー0.5ビリオンよりもかなり多い。注目したいのは、いくつかの中小クラブにとってもオーナーの投資がいかに重要であるかということだ。レスターが257ミリオン(収入全体の71%)、サンダランドが189ミリオン(同66%)、ストークが106ミリオン(同50%)、そしてボーンマスが73ミリオン(93%)。

PLクラブのローン事情

(※図は外部からの貸付金)わずかなPLクラブは、ステディアムの建設や拡張など例外的な理由で銀行からの借入を必要としている。たとえば、ToTの148ミリオンとリヴァプールの48ミリオン。このつぎで一番大きいのはサンダランドの33ミリオン。これは(元オーナー)エリス・ショートの投資がなくなった影響。

PLクラブの資金の使いみち

(※図は資金の用途)2008年から2017年までのPLクラブが保有するキャッシュ8.1ビリオンのうち、およそ半分の3.8ビリオンが選手獲得に使われている。そしてそれは総売上高。さらに1.6ビリオンは設備投資で、多くはステディアムとトレイニンググラウンドのために使われており、1.7ビリオンは借入金の返済と利子の支払いに当てられている。

(※図は資金の用途割合)加えて、785ミリオンというとてつもない金(※紫部分)がただキャッシュバランスを増やすために使われてきた。割合の小さなところでは、配当金が92ミリオン、税金に87ミリオン、買収や投資に51ミリオンがあるが、これらは全体の支出の3%にも満たない。

どんなクラブであっても、使った金の量は持っている金に等しい(キャッシュバランスでの増加も含め)。だからビッグ6クラブはまたここでも支出でリードすることになる。マンUがエヴァートンの8倍の火力を持っていることなどからも、フットボールにおけるファイナンスの重要性が示されている。

多くのPLクラブにとって支出の大きな要素は選手への投資である。しかしいくつかの注目すべき例外もある。マンUとアーセナルは、それよりも借金返済と利子の支払いが多い。ToTはより多くをインフラ整備に投資している。

マンシティは906ミリオンと選手獲得にもっとも多くの金を使っていて、2位はマンUの528ミリオン。ついでチェルシーの393ミリオン、リヴァプールの351ミリオン、アーセナルの236ミリオン。ToTは98ミリオンしかスクワッドのために使っていない。ストークに関しては、190ミリオン(6位)も投資しているのにがっかりなリターンしかなかった。

(※図は設備投資額)一方で、ToTは0.5ビリオン近くを新ステディアムとトレイニンググラウンドに投資している。マンシティの333ミリオンやリヴァプールの209ミリオン、アーセナルの104ミリオン、チェルシーの103ミリオン、マンUの98ミリオンより多い。そのほかのPLクラブは総じてインフラへの投資は比較的少ない。

(※図は借金返済と利子支払額)これはもしかしたらリーグ全体にとっては幸運なことかもしれない。マンUはこの10年、グレイザーのオーナーシップで0.8ビリオンもの巨額を借入金返済と利子のために支払っている。2位のアーセナルよりも500ミリオンも多い。もっともアーセナルも278ミリオンもの金額をエミレイツのために支払わなければならなかったが。

(※図は配当金支払額)加えてマンUは53ミリオンの配当金(2018年には追加で22ミリオン)を支払った。ウェストブロムウィッチは、2016年に親会社に27ミリオン支払った。この期間に配当金を支払ったPLクラブはToTの7ミリオンとスウォンジーの4ミリオン。

ほとんどのPLクラブは税金を払っていない。しかし国税にとって一番喜ばしい存在はノースロンドンにある。最大の支払いはアーセナルの30ミリオンとToTの24ミリオン。

収入が大きく増加するPL

(※図はキャッシュの増加)巨額のTV放映権料と給与管理の組み合わせ、これは多くのPLクラブが銀行預金残高をこの10年で劇的に増やすことになった。マンUの131ミリオン、アーセナルの106ミリオン。ToTの172ミリオンはミスリーディングで、彼らの金額が大きな理由は新ステディアムのための借入金のためだ。

分析のまとめ

この分析にはいくつかの注意事項がある。

(a)この期間に渡りすべてのクラブが多くのキャッシュを生み出したというわけではない。

(b)このなかのいくつかのクラブはチャンピオンシップにいたこともある(すべてがPLだけの数字だけではない)。

(c)キャッシュフロウのフォーマットはクラブによって違うことがあり、数字の解釈には幅を持たすべき。

それでもこの分析のメインの結論は明快だ。すなわちプレミアリーグは金を生み出す場所だということ。これがたくさんの海外からの投資をひきつけている理由だ。これはイングランドのリーグでも下のリーグになればまたかなり違った話しになってくるだろう。

以上。長い。

※ご注意:ブログ主は経済のことがまるでわかっておらず、訳も理解もちょっと自信がない部分もある。おかしいと感じたところは各自チェックしてくだされば幸い。

アーセナル的注目ポイントは「オーナー投資ゼロ」

選手への投資の割合が低いアーセナル

冬の移籍市場の真っ只中でアーセナルのファンとして、まず注目すべきなのは持っているキャッシュと選手への投資だろうか。

自己資本やオーナー投資などすべてを含めた保有キャッシュではアーセナルはリーグで4位。リヴァプールやチェルシーよりも多い。

にも関わらずアーセナルが彼らより高い選手を買っているという印象はまるでなく、実際選手獲得にかける金額の割合はかなり低い。

PL平均でキャッシュ全体の46%を選手補強に使っているというのに(リヴァプールは54%、チェルシーにいたっては65%)、アーセナルはたった31%。

この10年ではエミレイツステディアムの借金返済がかなり比重を占めていたせいだとも思われるが、それにしても借金を返済し終わっているはずの現在においても、ここからその比率が上がっていく気配があるように思えないのは気のせいだろうか。

クロンキからの投資はゼロ

この一連のツイートで、アーセナルのファンベイスをもっとも刺激したのは、オーナー投資の部分だ。

アーセナルにはオーナーの投資がないということはもちろん(薄々は)知っていたけれど、この10年でまさかの0%。驚きのオールフリー。

PLクラブのオーナー投資が保有キャッシュ全体の平均42%だというのだから、それがごっそり抜けているアーセナルなら、毎度の移籍市場でライヴァルクラブに比べて大きな補強ができない説明もつこうというものだ。

現状のスクワッドの危機的な状況にも関わらず、この冬の予算だってないというのだから徹底している。

またこのことは同時に、この現在のプレミアリーグクラブのファイナンスパワーが「オーナー企業」の財力に依存していることも示している。

ツイートのなかでオーナー投資を打ち切られたサンダランドにも触れられているように、そういったクラブの持続可能性は脆弱だと云わねばならないだろう。

だって、オーナーが変われば状況が一変してしまう可能性があるのだから。中位~下位のクラブなどはとくにそうだ。

いまシティがKSE(Kroenke Sports & Entertainment)に買われたらどうなるか見ものじゃないか。

そういう意味では、アーセナルはたしかにそういったオーナー依存の不安定な状態からは一線を画している健全なクラブだといえるかもしれない。

しかし一方、プレミアリーグのようなプロスポーツの世界で、財政的な健全さにどれだけ価値があるというのかという問いもまた、ファンの心のなかに深く根ざしている。

ぼくは金満だとか油だとかよく云っているが、じつはオーナーの投資があるクラブがうらやましいと思うときがある。

ファンみんなが憧れるような選手を実際に獲得できるということがどれだけ素晴らしいか。いまクリバリやターが現実的なターゲットになると考えてみてほしい。

アーセナルの不幸は、投資でチームをサポートしさらに儲けようという、ビジネスマンが持つべきモチヴェイションすらオーナー企業が持っていないということである。ファンにはクソったれビジネスマンと悪態をつかれながら、ビジネス案件としてのふさわしい投資もしようとしない。

これは本当に不幸なことだ。

アーセナルはPLのクラブのなかでも明らかに財政的強者だが、いつも苦しい苦しいと云っている。

いつもながら、それを嘆いたところで仕方のないことだが、仮にこの清貧アーセナルでそれなりの成功を収めたとして、そのことがまたオーナーを喜ばせることになるのはどうも納得がいかないという気がしている。

おまけ:アーセナルのマネジメントの失敗

年末に見かけたツイートでは、近年のアーセナルの選手契約におけるマネジメントのおそまつさが数字で指摘されていた。

これは選手の獲得と売却の収支をまとめたもので、注目すべきは緑字の「Recieved」の部分。これは選手売却による収入で、アーセナルはこの6年トップ6で最小の収入である。

別にアーセナルには価値の低い選手しかいなかったわけではない。それよりもトッププレイヤーを適切なタイミングで売却することにことごとく失敗しているということ。

たとえばラムジーについては、それなりに活躍しているとはいえ、今季はスタートから使う選手でもなくここまでの重要度なら残り契約1年を切る前に売るべきだったのではないか。

去年の夏に売っていれば、アーセナルはおそらく40Mオーヴァーは得ていたはずで(※チェンバレンが残り1年で40M)、その予算があれば今頃は十分有望な選手を獲得できていた。

またエジルの件では、残り契約1年を切りアーセナルは交渉で不利な立場に立たされた挙げ句に、30才になろうという選手に巨額の契約を与えることになった。

アーセナルはただでさえ少ない資金の効果を最大化するどころか、つまらないマネジメントのミスで浪費していたのだ。

サンレヒは、もう残り契約1年未満の選手はキープしないと明言しているし、ガジディスがいなくなったいまではそういう拙いマネジメントの反省もしていることだろう。

プレミアリーグのドルトムントになるために、アーセナルが正しい道を進んでいると信じたい。



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3 Comments on “オーナーシップ、キャッシュフロウ、設備投資。プレミアリーグ10年のファイナンスを俯瞰する

  1. 今でこそクロエンケの持ち物ですけどつい最近までワンマンオーナーで無かったからオーナーサイドからの投資が0なのは当然でしょう。出資しようとしても持株比率が変わる可能性があるため否決されますし、ただで提供したらそれこそ無償資金提供ですから。
    このオーナーサイドファイナンスの問題がでかすぎてベンゲルはずっと苦言を言っていました。フェアではないと。気持ちはすごくわかるのですがむしろアーセナルが希少なので世界的には解決しづらいですね。

    1. ワンマンオーナーじゃなきゃ投資ゼロが当然?

      PLクラブのオーナーリスト見ると、ワンマンのほうがむしろ少ないのだけども。
      https://en.wikipedia.org/wiki/List_of_owners_of_English_football_clubs

      ていうかKSEは70%という過半数を大きく超えるAFC株式を持ってた時点で、筆頭株主としてかなり自分の好きなようにできたのだと思ってました。

      だからファンはずっと怒っていたのではないかと。

      > 出資しようとしても持株比率が変わる

      ここで云ってる「オーナー投資」は株式(資本金)の増資とは別なのでは?

      オーナー投資のリターンは持っているクラブの価値が上がること。ゆえにみんなこぞって金をぶっこんでる。という認識ですが違うのかな。

      ぼくも金融も経済もまったくわからないドアホなんでアレですが、投資ゼロが当然てとこだけ引っかかりました。

      そりゃないっすよー。

  2. 興味深いエントリをありがとうございます。
    マンシティへの資金注入の群の抜きっぷりは、さすがというか、ええ、さすがですね。
    マンシティは横浜Fマリノスやニューヨークシティ?などと提携関係にあったと思いますが、
    その辺ひっくるめた場合の収支がどんなものなのか、気になるところです。
    (提携関係がうまくいっているのか、そもそもよく知らないのですが・・・)

    オーナーの投資への賛否についてですが、私はchanさんのご見解に同意です。
    マンシティのようなチームに対してYou can’t buy history、という煽りがあるのかもしれませんが、
    アーセナルに関しては逆に、20年近く前の栄光に乗っかり過ぎと思うことがあります。
    今の20代の選手はまだ「インビンシブルズを見ていた」、と言ってくれますが、
    今のクラブの力関係が続くと、10年後には「マンシティに憧れた」という選手が多くなりそうで・・・

    遅ればせながら、本年もよろしくお願いいたします。更新を楽しみにしています。
    クラブも新章に突入したばかり、と自分に言い聞かせ、今年も応援していこうと思います。

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