1月にミキタリアンとオバメヤンを獲得し、まずはエヴァートンに快勝。やっとアーセナルがワールドクラスを手に入れたと、意気揚々ウェンブリーに乗り込んでみれば結果はご存知のとおり。守備の問題を放置したままの根拠なき楽観主義をあざ笑うかのようなみごとな返り討ち。ぎゃふん。
戦後のArseblogのBy Numbersエントリによれば89分までアーセナルのxG(期待ゴール)が0.09なのに対しToTのxGは3.55ということで、失点1で済んだだけマシというレベル、1-0という点差以上のズタボロのボロクソ負けだったのである。
ところでギャリー・ネヴィルが以前にこんなことをいった。「移籍市場を制すものがゲームを制す」
それは一理ある。よそのクラブで選手補強がいかにチーム強化につながっているかをわれわれは毎年目の当たりにしている。
今季最大のヒットといえば、リヴァプールのサラー。すでに20点以上得点しており(アーセナルのトップスコアはラカゼットの9点)ケインとゴールデンブーツを争っている。2015年からシティでプレイしているデ・ブライネも今季バロンドール級の活躍といわれている。ここ数年のアーセナルでこのレベルでヒットした選手といえそうなのはサンチェスただひとりだが、すでに彼も「アーセナルでは勝ち取れない」とたった一度の契約更新もすることなくクラブを去っていった。
たしかに近年のアーセナルの移籍市場での立ち回りを振り返れば、とにかく消極的のひとことで、スアレスやカンテの例を出すまでもなく大物を逃す失策も続いているという印象がある。また新規獲得した選手がなかなか活躍できずにおり、それがまたリクルーティングの失敗を強く印象づける。リヴァプールやシティといった新規獲得選手が期待通りに活躍しているようなクラブを見ていると、移籍市場での低迷がそのまま成績の低迷につながっているような気もしてくるというものだ。
ということで、ToTにいいところなく負けて早くも今季のトップ4フィニッシュは絶望的といわれるアーセナルについて、今回は近年の移籍市場の低迷について考えたい。
NLD直前の記事だが、ESPNにアーセナルの近年の選手獲得に疑問を呈す記事があって、これが今回のエントリの元ネタである。「アーセナルの1月のサインが目立たせる過去の移籍ウインドウでの数々の失敗を」
Arsenal’s January signings highlight failures of past windows
アーセナルの獲得選手を振り返る(過去5年間+今季)
12/13シーズンから始めよう。このとき最後にタイトルを獲ってからすでに9シーズンを経過していたという事実と合わせて考えるとさらに味わい深いぞ。
※すべてTransferMarkt(Arsenal All Transfers)より。ローンから戻った選手やアカデミーからの昇格は省略してある。獲得選手のみ。水色のハイライトは1月の獲得。
12/13シーズンの獲得
いま振り返れば、このシーズンはなかなか悪くなかったかもしれない。ポドルスキはまああれだったけど、カソルラはもちろんヒットだった。
モンレアルは獲得当初こそキーラン・ギブスの控え扱いだったが、じわじわと出場機会を増やしていき結局レギュラーを奪い取ってしまった。31才となった現在も(今月32才)LB、LWB、CBのファーストチョイスと選手として息の長さを見せている。が、逆にいえば彼のポジションを脅かす選手が出てきていないということが問題でもある。
このなかで長期に渡りもっともアーセナルを傷つけたのは、間違いなくジルーだろう。RVPをマンUに放出したのと入れ替わりで獲得された彼は、ウォルコットやサンチェスとのポジション争いもあったものの、なんだかんだラカゼットが来るまでは実質的にCFのファーストチョイスであり続けた。その間、数多くの批判を浴びたことはまだ記憶に新しい。もっと痛烈なものでは同郷のティエリ・アンリが「ジルーではタイトルは獲れない」とコメント。結局5年の在籍中にアーセナルのCFに期待された成績、つまりRVP同程度の成績を残すことはできなかった。
もっともぼく個人はこのブログでもたびたび書いているとおり、どちらかといえばジルー擁護派である(正確にいえば擁護派になった)。彼の長身やフィジカルを活かさず、最後までジルーを正しく使うことができなかったのはチームの責任だと思っている。チームの責任ということはつまりヴェンゲルの責任である。ラカゼットのプレイスタイルをわかっていながら、彼をいつまでも活用できないこととみごとに相似型だと思っている。彼らのプレイスタイルとかストロングポイントが戦術的に十分に活かされていない。
ジルーのナショナルチームでの活躍やラカゼットのリヨンでの実績を見れば、いかにアーセナルが彼らの使い方を間違えていたかがわかる。
13/14シーズンの獲得
ちょっと意味がよくわからないシェルストロームの獲得で「パニックバイ」ということばがしきりに騒がれたシーズンだった。
このシーズンにエジルをレアル・マドリッドからクラブ史上最高額で獲得。そして現在はそのエジルしか残っていない。
彼のアーセナルでの4年の足跡を振り返るに、彼の獲得を大ヒットといっていいかどうかは迷うところだ。彼はプレミアリーグでもアシストやチャンスクリエイトなどトップクラスの成績を残している生粋のクリエイターだが、彼の存在がどれだけチームを助けただろうか。守備は期待できないし、一時改善の兆しも見せたものの彼の前掛かりのポジショニングからすると得点力が物足りなさすぎる。
EPLではドイツでのプレイやレアル・マドリッドにいた頃よりは随分と辛辣に批判を受けている。とくにOBや批評家からの評判は悪く、敗戦時には「ファイトできない選手」「ゲームを変えられない」「ビッグマッチで行方不明」といったレッテルを貼られることもしばしばだ。
ただ、活躍するときはMOM級のパフォーマンスを連発することもあったりと、プレイにムラのある、ある意味非常にアーセナルの選手らしい選手になったんじゃないだろうか(褒めてない)。
エジルは2021年まで巨額の条件でアーセナルとの契約に合意した。これはもう一蓮托生である。
14/15シーズンの獲得
サンチェスを獲得したシーズン。いま考えるとよく彼をこの金額で獲得できたな。
サンチェスを失ってなおアーセナルにポジティブなことがあったとすれば、彼のような選手を非常に安価に獲得して、非常に安価な週給でばっちり3年間(2.5年間)も使い倒せたということではないだろうか。ミキタリアンというおまけもついた。
サンチェス以外では、マンUの生え抜きであるウェルベックを筆頭に、残念ながらどの選手もパッとしない。14/15シーズンに入団した選手で現在のファーストチョイスはゼロだ。
オスピナもセカンドでいてくれるからありがたい気持ちになっているけど、考えてみれば本来は彼がチェフのポジションを脅かす立場にいなければおかしい。しかしそれが彼のパーソナリティなんだろうか、そんな気配は一切ない。
15/16シーズンの獲得
なんとシーズンを通して獲得は2名。まじか。
チェフは獲得当初は間違いなくヒットだったが、すでに選手としてのピークはだいぶ過ぎていて現在は不安要因になりつつある(クリンシート200試合がかかった試合で9連続失点は自身のキャリア初らしい。そしてペナルティストップ失敗は連続15という)。賞味期限が短すぎた。
チェフの獲得で、イタリアNo.1 GKといわれたチェズニーを失ったことを考えると、その選択が正しかったのかはいまだに疑問が残る。アーセナルで10年過ごしたチェズニーは来季から世界最強クラブ、あのユヴェントスでファーストGKを務めることが決まっている(ブッフォンが引退)。おれたちはいったい何をやってんだ?
エルネニーについては、残念ながらアーセナルでプレイするレベルの選手ではないという印象だ。彼は先日のNLDの前半ではアーセナルのベスト選手だといわれていたが(by AFTVロビー)、NLDという特殊な試合でかなりディフェンシブに戦ったからで、本来アーセナルのCM/DMに要求したいのは「中盤の制圧」である。皮肉なことにNLDではToTのムサ・デンベレが明らかにミッドフィールドのボスだった。
16/17シーズンの獲得
タクマ・アサノというミステリー・ディール。いったい誰が何のために? 月刊ムーあたりで特集してもらいたい。
このシーズンはもちろん、ジャカとムスタフィ。ふたりが巨額(ふたり合わせて約77Mポンド)で入団している。そして現在どちらも不安定なパフォーマンスを繰り返し、多くの批判を受けているのはご存知のとおり。
とくにジャカ。彼はエルネニーとともに、この5年でアーセナルが獲得した唯一のホールディング・ミッドフィルダーだが(フラミニもいたが彼はバックアッパー)、そのポジションの選手でありながら肝心のディフェンス力が非常に乏しいといわざるを得ない。また集中力の欠如もたびたび指摘されている課題だ。
考えてみれば、アーセナルはだいぶ長期間に渡り中盤守備について指摘をされ続けていて、もちろんクラブだって看過できない問題として気付いているはずだが、この5年の間にジャカとエルネニーしか獲っていないのだ。このパスしか能がないゴミクズどもパスマスターたちを。これは狂気の沙汰ではないだろうか。
今のアーセナルのCMに必要なのはパスマスターではなく、ボールを狩るハンター、CB前を身体を張ってフィルターするファイターではないか。
その結果アーセナルは相変わらず守備の問題を抱えており、その問題を放置して飽和状態の攻撃陣を補強し、結局負けている。ヴェンゲル監督のやりたいことが理解できないだけでなく、おそらくやりたいであろうこともことごとく失敗している。ばかなの?
ジャカもムスタフィもレギュラーメンバーとしてアーセナルで2シーズン目を過ごしているが、アーセナルでの将来は決して明るくはない。ぼくは、いないほうがマシだったかもしれないという意味において、ジャカの獲得ははっきりミスだったと指摘しておきたい。
17/18シーズンの獲得
名前のリストだけを見ると突然豪華になった。ラカゼットとオバメヤンふたりだけで100Mポンドを超えた。
まず最初はコラシナツだ。彼は前シーズン、ブンデスリーガの年間ベスト11に入った選手である。予算のないアーセナルにとってはフリーで獲得できたのも大きかった。そしてアーセナル入団当初こそ目覚ましい活躍を見せたが、すぐに色あせてしまった。モンレアルの後継問題が完全に解決した、しかもアップグレードだと喜んだのもつかの間。理由はなんだろう? ちょっとわからない。今では出場してもパスミスを繰り返し、ラカゼットと同じくかなり自信レベルの低下が見られる。このままフェードアウトしてしまうんだろうか?
そしてもちろん渦中の人、ラカゼット。ToT戦でも終盤のビッグチャンスを逃しほとんど戦犯扱い。アーセナルではここ13試合でたった1得点という実績だが、彼はフランスで3シーズン連続で20-30ゴールぶち込んでいたヨーロッパでも指折りのストライカーである。アーセナルのファンの誰もが救世主だと彼をもてはやしたのもたった半年前の出来事だ。何がどこで間違ってしまったのか。
そして決定打がオバメヤンの獲得だ。ラカゼットに匹敵する実績のストライカー。ふたりを2トップで同時にプレイさせるつもりも毛頭ないし(NLD終盤のスクランブル時でさえオバメヤンを左ウイングにした)、ラカゼットに満足していれば必要のない補強。たった半年でそれがされた。もしこのままラカゼットが大した数字も残さずにアーセナルを去るようなことがあれば、費用対効果でもクラブ史上最悪のサインになりかねない。それは果たして彼だけのせいなんだろうか。
12/13~17/18シーズン移籍まとめ。ヒット or ミス
ブログ主の主観による。17/18シーズンは2月の現時点までとする。
大ヒット
- サンチェス
ヒット
- カソルラ (怪我さえなければ違う未来もあったのか)
- モンレアル
- エジル
- チェフ
- ミキタリアン (期待が半分である)
ミス
- サノゴ
- チェンバース
- ガブリエル
- オスピナ
- ジャカ
- ペレス
- アサノ
- ホールディング
- ブラモール
- コラシナツ
- ラカゼット
オバメヤンはさすがに2試合じゃまだわからない。
こうしてみると、個人的には16/17夏冬と17/18夏の補強はほぼ失敗していることになった。大金遣ってなにしてるんだろう。あとやっぱり全体的にヒット率を上げていかないとと思う。この5年で大ヒットがひとり。
アーセナルの先行者利益はとっくに終わっている
アーセナル(ヴェンゲル)がすごいスカウト網を持っていて、世界中からまだ知られていない若いタレントを連れてきて、みんなをあっといわせるみたいな時代からはだいぶ時間がたった。いまは、インターネットで世界中の試合も観られるし、Optaのようなスタッツデータも非常に詳細に整備されている。それである程度は誰でも同じ条件で選手を探すことができるような時代になったのだ。もちろん、逸材を見つけたって獲得するには交渉術が必要だし選手を魅了するクラブの魅力も必要なのだからすべてが公平になったとはいわないが。
アーセナルが他クラブに先んじてそういうことができた時代があったというのは、要するにいわゆるブルーオーシャン(未開拓領域)があって、そこにいち早く参入したアーセナルに先行者利益があったということではないだろうか。先日『マネー・ボール』とアーセナルに関するエントリを書いたが、それと同じような話しである。
そして、改めてクラブ間でそういった格差がなくなっていった時期と、アーセナルの凋落はリンクしているんだと思う。つまり情報格差を利用して得た先行者利益がどんどんなくなっていってしまったのだ。
いまではアーセナルと同じ選手を追っているクラブなんてたくさんあるし、なんなら、いつも青田買いをしていたアーセナルが、いまが最高潮の選手を最高値で獲るなんていうかつては考えられなかったリクルーティングを行うようにもなった。成功の確度が高いという意味ではエンドプロダクトに手を出すのも悪くはないし、そういういかにもビッグクラブらしいコストをかけた補強ができるようになったと喜ぶべきなのかもしれないが、いつまでも特別なクラブであってほしいと願うアーセナルがこうして並のクラブになっていく姿を見るのはファンには寂しくもある。
ポスト・ヴェンゲルのリクルーティング
ぼくはもしかしたら、ミズリンタットやサンレヒというのは、ヴェンゲル監督の意向に反して連れてこられた人材なのではないかと思う。ヴェンゲルというひとはなんでも自分でやりたがる監督で、スポーツ・ディレクターなんかと仕事をするのは死んでもいやだという人間だ。きっと選手スカウトにもかなり口を出していただろう。
しかし、蛇の道は蛇。ヴェンゲル政権の前半には有効だったリクルーティング・メソッドが通用しなくなったいま、そこはやはりプロフェッショナルの手に委ねなければならないとボードが判断した。そんなところではないだろうか。一説によると、ミズリンタットもサンレヒもアーセナルのボードがポスト・ヴェンゲルを見越して連れてきたスタッフともいわれている。
もし彼らの手腕で今後アーセナルのスカウト活動がうまく回り始めるようになると、またヴェンゲルの退任が近づくのかもしれない。