試合前には一時代の終焉を感じさせるセレモニーがあった。
試合前、ダグアウトから姿を見せたヴェンゲルに気付いたオールド・トラフォードのファンがスタンディングオベーションで温かく迎える。さざなみのように拍手の輪が拡がるなか、ヴェンゲルはモウリーニョと握手をするとそのまま誘うように手をひかれ、ファーガソンの待つもとへ。サー・アレックスじきじきにヴェンゲルに記念品が贈られるという一幕。サプライズ演出だったようだが、ヴェンゲル監督のおだやかな笑顔が印象的だった。
贈られた記念品(シルバーのカップ?)に刻まれていたのはこんな文句だったようだ。
アーセン・ヴェンゲルへ贈る
サー・アレックス・ファーガソンCBEとジョゼモウリーニョが、マンチェスター・ユナイテッドFCを代表し、1996から2018、アーセナルFCを率いた貢献と偉業を讃えて
このセレモニーのせいか、ちょっとしたフレンドリーマッチのような落ち着いた雰囲気で始まったこの試合。全体的にお互いに攻め合う観ていて楽しいものとなった。結果は同点で迎えた終盤、クロス攻撃に活路を見出したマンUに最後の最後91分にアフロヘアに勝ち越しのヘッダーをぶちこまれるという、これもまたじつにヴェンゲル・アーセナルらしい幕切れとなった。
これでアーセナルは今年に入ってからアウェイで6連敗&0ポイントという不名誉なクラブ記録をまた塗り替えた。
Man Utd 2-1 Arsenal: Marouane Fellaini scores injury-time winner to secure top-four finish
結果に驚きはないが、もしかしたら一番落胆しているのはファンでもヴェンゲルや何人かのシニア選手たちでもなく、この日に大挙して出場した若い選手たちかもしれない。それほど彼らのパフォーマンスは素晴らしく、0ポイントで終えるにふさわしくなかった。
アーセナルのスターティングイレヴン
SKYですら選手グラフィックの用意が間に合っていないという。
ミキタリアンとマヴロパノスが出てくるとは思わなかった。とくにCBのマヴロパノスは、ベンチにホールディングが入っていたので彼に優先して使われたことになる。常々クラブが若い選手への信頼を示すことの重要性について述べてきたヴェンゲル監督。この試合は、試合の重要度やスタジアムの雰囲気など、若い選手に経験を積ませるのにちょうどいい機会だと思ったのかもしれない。
結局、負けはしたもののアーセナル・ボーイズたちがこのレベルのフットボールに接して、自信をつけたことは未来のアーセナルにとって非常に大きい。
ボスの試合後のみことば
(今日のパフォーマンスについて……)
ヴェンゲル:ポジティブなパフォーマンスだった。全体的には、われわれのアウェイの調子が少し影響してしまった。チャンスをいくつもつくった。とくに今日はカウンターで。いつもうまくやれているわけではなかったものだ。こんな若いチームにしてはポジティブなパフォーマンスだった。とてもね。ドレッシングルームでは落ち込んでいたよ。すべてを出し切ったからね。最後の20分、あのインテンシティとペイスにはまだ慣れていない選手もいた。キツいプレッシャーを受けていた。それまでの70分はわれわれにとって脅威はまったくなかったよ。
(このチームセレクションはリスクがあったんじゃ……)
もちろん。だが、この強い雰囲気のなかで彼らを見られるのはいいことだし、誰が勇気を出してプレイするのか、誰がチャレンジに打ち勝つのか見られた。彼らのレベルはわかっているよ。しかしこんな試合で彼らがどの程度やれるか確認することは興味深かったよ。
(マヴロパノスとメイトランド・ナイルズについて……)
ふたりはかなりよくやった。こういわなければならないね。今日われわれのチームに悪いパフォーマンスは見られなかった。ただ悪い結果があっただけだ。
(サー・アレックス・ファーガソンからのプレゼンテーションがありました……)
ナイスだね。クラッシーだ。楽しんだよ。わたしもここには何度も何度も来ているからね。来年は誰か別の人間がベンチにいるが、また敵意のあるリアクションを受けるんだろう。気にする必要もないがね。
(モウリーニョとサー・アレックスが両脇にいました……)
想像もしてなかったから驚いた。それでも人生は続くし、ときにはいいこともある。そんな感じがしたね。
論点
2018年のアーセナル、アウェイ6連敗で0ポイント
0 – Arsenal are the only side in the top four tiers of English football yet to win a single point in an away league game in 2018 (P6 W0 D0 L6). Zilch. pic.twitter.com/tPYoquJ6Uk
— OptaJoe (@OptaJoe) 2018年4月29日
2018年でイングランドのトップ4つのリーグでアウェイポイントが1つもないのはアーセナルのみ。
なんかもう結果とかどうでもいいみたいな雰囲気もある気がしないでもないが、アウェイでまったく勝てていないということは、いくらなんでもネガティブすぎるだろう。アトレチコ戦はアウェイなんだし。
ボスのコメントにしてもあまり反省の色がないのが気になる。
ヴェンゲルのオールド・トラフォード
BBC SPORTSより。
- エミレーツとハイベリー以外では、オールド・トラフォードがヴェンゲルがもっとも負けたスタジアム
- ユナイテッドがアーセナルにプレミアリーグダブルをかますのは11/12シーズン以来
- フェライニのゴールはユナイテッドにとってプレミアリーグのアーセナル戦で初めての90分決勝ゴール
ですって。
ちなみにもいっちょOptaJoeのツイートを紹介すると、今回の若いチームは8-2で負けた11/12シーズンのときに継ぐ若さだとか。平均年齢24才。
24y 67d – The average age of Arsenal’s starting XI (24y 67d) is their youngest for a Premier League game since August 2011, which was also at Old Trafford against Manchester United (24y 65d) when they lost 8-2. Inexperience. pic.twitter.com/gQ3SETeKlO
— OptaJoe (@OptaJoe) 2018年4月29日
ヤングガナーズの起用と期待に応えたボーイズその1:マヴロパノス
負けたけれどポジティブなのは若いのががんばったから。
AMNとマヴロパノスの活躍が話題ながら、やはりCBでいきなり起用されたマヴロパノスだろう。
彼はまさか今季自分がファーストチームでスタートに入る機会があるとは思っていなかったのではないだろうか。入団当初はすぐにローンに出すといわれていたくらいなんだから。しかもオールド・トラフォード。そして望外のチャンスにしっかりパフォーマンスで応えた。たったの1試合とはいえ、これはディフェンス陣に大きな問題を抱えるアーセナルにとって非常にうれしい誤算だ。
スピード、フィジカル、高さ。プレッシャーのなかでボールをキープできる落ち着き。うわさに聞いていたロングボールの精度も高い。ライナー性の強いロングパスをバシッと決めたのにはしびれた。大げさにいうとぼくは少し興奮している。なぜなら彼が来季ファーストチームのCBに名前を連ねることは間違いなさそうだから。
Konstantinos Mavropanos vs Manchester United (2017/18) pic.twitter.com/Rp3H9Gex3d
— Declan (@dribblatore) 2018年4月29日
身体はコシエルニやムスタフィよりもひとまわり大きいらしい。空中戦も強いはずだ。new BFG。
Mavropanos height 6’4” , koscielny height 6′ 1″ , Mustafi height 6′ 0″ .
Mavropanos weight 88 kg , Koscielny weight 75 kg , Mustafi weight 82 kg .
Mavropanos is a better passer than Kosc and Mus . He’s better than Mus and Kosc in the air and he has more composure than them .— #MerciArsène (@MagicalAuba) 2018年4月29日
マノラスや最近話題になっているBVBのパパスタソプーロスなど、ギリシャ人のDFというのは優秀な選手が多いんだろうか。そういえばEUROを優勝したギリシャもディフェンスのチームだった。
ところで彼がどうもDinosと呼ばれていることに気付いた。インスタのアカウントもdinos_mavropanosだ。ニックネーム? 恐竜?
A busy introduction to @premierleague football for Dinos…
How would you assess his #MUFCvAFC performance so far? pic.twitter.com/yOYN8KIy2x
— Arsenal FC (@Arsenal) 2018年4月29日
この試合でヴェンゲルのもとでデビューした200人めの選手に。これは吉兆。
Our 200th player to be handed a debut by Arsène Wenger…
We’re all right behind you, Dinos 👏#MUFCvAFC pic.twitter.com/mqYXIY4T77
— Arsenal FC (@Arsenal) 2018年4月29日
ボーイズその2:メイトランド・ナイルズ
SKY SPORTSが選出するこの試合のMOMは、エインズリー・メイトランド・ナイルズ(BBC SPORTSはヤング)。納得すぎる。ヤングとかいうクロスマシーンを選ぶBBCのセンスなさよ。
片方が極端に守るようなこともないオープンな試合で、マンUの守り方だとセンターサークルあたりには比較的プレッシャーがゆるかったとはいえ、彼のパフォーマンスも本当に素晴らしかった。OTのピッチの中央であれだけ落ち着いてプレイできる20才。守ってもよし、攻めてもよし。パスも優秀。視野が広く、ドリブルもイケてる。
この試合ではとくにワンタッチでのパスが印象に残っている。足の振り幅は狭いのにボールが鋭いのは、インサイドで足の真芯にミートさせる技術があるからだろう。試合後はポグバと何を。。
Ainsley Maitland-Niles vs Manchester United (2017/18) pic.twitter.com/DNQ9FmV89j
— Declan (@dribblatore) 2018年4月29日
彼は今シーズン、コラシナツと争うかたちでLBとしてファーストチームに入ってきた。またベレリンのかわりにRBに入ることもあったりと多芸なところを見せていたが、本職のCMでここまでうまくハマるとは思わなかった。これまで彼が見せてきたいいところがすべて出ていた。
一説に、もうジャックの代わりはAMNでいんじゃね?というのがある。この試合を見たあとにそういわれると、うーんそうかもといってしまいそうで怖い。
その他のボーイズ
この試合のAMNやマヴロパノスに比べてはかわいそうなのが、ネルソン。
彼も何度かシュートもしたし決して悪くはなかったが、やはり本領を発揮するところまではいっていない。このレベルだと、スピードとフィジカルがまだ足りないという感じがする。あと自信レベル。相手と対峙したときにチャレンジよりも無難なパスを選ぶシーンが何度かあった。安全なプレイを選ぶことはもちろん悪くはないが、彼のいいところはもちろん相手を出し抜くプレイである。次に期待したい。
といっても、ネルソンや出番のなかったエンケティアは来シーズンどうするのか、とても悩ましい。まだファーストチームでレギュラーで出られるレベルではないし、かといって毎試合ベンチに置いておくのも成長を阻害してしまう。残すかローンか。難しい。
ジャカという諸刃の剣
初めてゲームキャプテンに任命されたジャカはこの試合、チンカスのような前半とそうでもない後半というふたつの側面を見せた。
前半の失点はジャカの不用意なタックルと、それをあっさり交わされたあとにポグバのカバーを怠ったことが非難の的になっている。まったくプロとは思えないプレイだったといわれればそのとおりだろう。とくにあのタックル。なんだよあれ。ズザーって(笑い)。あんなみっともないタックル初めて見た。
さらに前半には、2枚めのイエローカードが出る可能性があった。リプレイで見ると角度によっては胸でトラップしているが、角度によってはハンドボールに見えたと思う。すでに1枚もらっていたと考えると不用意すぎる。
そして後半は大きなミスもなくいつものように中距離パスをバシバシ決めてアーセナルの攻撃に貢献し、ミキタリアンの得点もお膳立てした。
今回もまた非常にムラのあるパフォーマンスに終始した彼である。彼のような選手をどう使うべきか。監督はもっと最適解を探して頭を悩ませるべきだと思う。
ところでその後redditを見ていたら、ジャカのキャプテンシーについて高評価なのが意外だった。試合中、声もよく出ていたし、カバーの指示も頻繁に行っていたと。そのあたりは中継ではわからなかったので、恐らくスタジアムにいた人の意見だと思われる。彼はもともと以前のクラブで若くしてキャプテンも務めており、そういったリーダーシップはあるタイプなんだろう。
また彼がキャプテンをすることでパフォーマンスも向上するのではないかというやや楽観的な意見もあるが、そのようなことが起こるならぜひともにキャプテンをやってほしい。
ミキタリアンとコラシナツ、イウォビ、オスピナが負傷か
ミキタリアンは負傷していた同じ膝をやってしまったとのこと。現時点では木曜の起用は絶望的のようだ。ただ、ボスのブラフということもある。彼がケロッと木曜にいることを祈りたい。
しかしその他メンバーはともかく、ミキタリアンの負傷は痛すぎる。この試合でもかなりいいところを見せていて、得点もお膳立てはあったとはいえ彼の個人技によるところが大きい。アトレチコのファーストレグでの戦い方を見る限り、彼のような選手が攻撃で使えないのはアーセナルにとって大きなマイナスだ。
この試合については以上。
アトレチコ戦に向けて
この試合をドローで終えたかどうかでは木曜日に向けてだいぶ気持ちも変わっただろう。結局アウェイではまったくいいところがないという気分を引きずったまま、マドリッドに乗り込むことになる。
唯一ポジティブなのは、同じく鉄壁のマンUから1点を取ったということだ。だから余計にミキタリアンの離脱が痛い。
以上。