hotいま読まれているエントリ

Arsenal, Behind The Scene, Misc, Transfer

COVID-19パンデミックによる英国フットボールクラブの財政的損失

フットボールファイナンスの解説でおなじみの@SwissRamble氏が、昨日表題のようなテーマで連続Tweetsをしていた。

このブログでも先日コロナヴァイラスによるPL中止の現実味という記事を書いたところだけど、財政的な事情がそこにどう関わってくるのかについてはあまり触れていなかった。いろんな決断のなかには当然お金が絡んでくるよねという。

今回は、英国フットボールにこれから訪れる財政への影響についてSR先生のTweetsからざっくり書いてみたい。



「コロナヴァイラスのパンデミックが引き起こす英国フットボールクラブ財政への影響」Swiss Rambleのツイーツざっくり訳

※スレッド以下は貼らない。※数字はクラブ会計が明らかになっている18-19シーズンのものがほとんど。

  • コロナヴァイラスのパンデミックで英国フットボールは最短でも4月末まで中止。これがクラブに財政的なインパクトを引き起こす。とくに下部リーグ。
  • これは未曾有の事態で財政的影響を完全に測ることはできない。だが直近ではないにせよある程度は正確に見積もれるだけの十分なデータ(※18-19シーズンの決算)はある。
  • じつはこの騒ぎの前ですら英国フットボールは健全なビジネスをしていなかった。
  • PLクラブは年間で£5.2bnも稼いでいるが、純損失(Net loss)は計£160m。クラブ平均では£8mの損失。20クラブのうち半分は赤字経営である(※アーセナルは£32mの赤字)。
  • チャンピオンシップ(※英2部)はさらに悪く、オーナー投資が決定的になるリーグ。リーグワン(※英3部)も似たようなもの。
  • PLと下部リーグでは収益構造がだいぶ異なる。
  • PLではすべての収入におけるマッチデイの割合が13%と低く、60%が放映権、27%がコマーシャルとなっている。
AFCの収入割合はマッチデイ(24%)、TVが46%、コマーシャルが28%。マッチデイ収入の割合がトップで平均より突出している。
  • 一方チャンピオンシップのマッチデイ収入の割合は29%(PL昇格分を除いて)、リーグワンは35%。下部リーグになるほど入場料収入が重要になる。
  • 試合ごとのマッチデイ収入から残りのリーグ試合での収入が計算できる。PLは計£117m。バーンリーらの£1mからマンUの£17mまで幅がある(※アーセナルは£12.8m)。
  • マンUのマッチデイ収入はほかの収入源に比べて大きくはないが(18%)、それでも£17mは大きな額である。
  • チャンピオンシップは計£28m、リーグワンは計£10.5m。これが損失になりうる。
  • クラブがシーズンチケットホルダーに払い戻しをするかどうかは定かではないが、来シーズンの開始も遅れるとなればクラブのキャッシュフロウに影響を及ぼす。
  • PLが今シーズンの残りを完了できなければ、放映権料で£750mもの違約金が発生するという報道があった。

Premier League clubs told to pay back £762m if they fail to…

  • その報道が正しければ、PLクラブはTV収入から平均で£38mを減額されることになる。もっとも多いのはシティとリヴァプールで£49m(※アーセナルは£45m)。
  • いずれにせよTV収入が、クラブが無観客でも試合を開催する動機になりうる。
  • CLに参加しているPLクラブは今シーズンすでにかなり稼いでいる。たとえばシティは€86m。
  • コマーシャル収入にどういう影響があるかは個別の契約内容がわからないので不明。ただし影響を受けるのは必至。試合がなければパフォーマンスに応じたボーナスもないし、プリシーズンツアーも危機。
  • クラブのビジネスモデルによっては選手売却の利益が重要になる。もし移籍ウィンドウが遅れたり、選手価値が下がったりすれば問題に(これはありえそう)。
  • 収入がなければ、多くのクラブで選手給与の支払いにも困難をもたらす。Macclesfield、Southend、Oldhamといったクラブはすでに給与の遅配をやっている。
  • PLの選手給与はおよそ年に£3bnと巨額で、週に£59m。PLクラブ平均は週£3m(※アーセナルは£4.5m)。
  • チャンピオンシップは年に£800m(週£15m)、クラブ平均で週£650k。リーグワンでは多くのクラブが会計を公表していないため不明だが、多く見積もっても週に£100kといったところ。
  • 政府はスモールビジネスを支援するとしているが、クラブによっては給与カット(ハーツで50%カット)やスタッフの解雇(バーネット)などが起きている。
  • 下部リーグでも多くの選手が6月末で契約が切れるため、シーズン延期がトリッキーになる。
  • キャッシュフロウがタイトになれば、負債や利子の支払いも問題に。
  • PLクラブは£3bnもの負債がある(※アーセナルは£209m)。チャンピオンシップは£1.1bn、リーグワンも£217mの負債。
  • さらに移籍の負債も(※アーセナルは£77m)。
  • このような状況下ではキャッシュが強い。PLクラブは計£1bn以上のキャッシュを保有しているが、その7割を4クラブで占める(※アーセナルは4クラブに含まれる。£167m)。
PLクラブの保有キャッシュ。
  • チャンピオンシップクラブの保有キャッシュは£90m、リーグワンは£28m。ただしリーグワンクラブの保有キャッシュのうち40%はサンダランド。
  • EFLは下部リーグクラブに対し、TV収入の先払いや無利子ローンなど総額£50mの融資を発表した。
  • フットボールリーグ/団体からの資金調達の可能性もあるがキャッシュが乏しいところもある。PL自体もそうで、報告ではPLのキャッシュは£1.6bnだが、残りの2ステイジ分のTV収入がその多くを占める。
  • FAはたったの£41mしかキャッシュがなく、しかもEURO2020の延期に直面している。
  • £2.2bnのキャッシュを持つFIFAがもっとも支援を期待できる(彼らにその気があれば)が、政府の緊急ローンに頼ることができるかもしれない。
  • 財政で苦しむ多くのクラブは下部リーグで、ひとつの可能性としてPLクラブがこれを支援する案もある。リーグ1と2の48クラブに£500kづつ配ると総額で£24mになるが、PLの年間TV収入の1%にも満たない。
  • いくつかのクラブは入場料収入について保険をかけているが、現在の状況が“force majeure(不可抗力条項)”でカヴァされるかどうかは大きな疑問も残る。いずれにせよトップクラブの話である。
  • UEFAがFFPレギュレイションズを緩和するが、オーナー支援や損失の規模についても柔軟に対応するいい機会になる。
  • もちろん全員にとり理想的なシナリオは通常どおりの試合開催だが、それがかなわない以上、入場料収入がなくても無観客でプレイすればTV収入は得られる。
  • もしシーズンが無効になるようなことがあれば、地雷原への道が開けることになる。
  • 結論:ストークのチェアマンであるピーター・コーツ「これは深刻な財政的影響を引き起こし、いくつかのクラブは資金が尽きる可能性もある」。率直に云って、財政支援なしでは破産するクラブも出てきそうである。

以上。

PLとその下のディヴィジョンでかなりの経済格差があり、今回の件でより深刻なのは下部リーグクラブの財政状況であるということ。大企業より体力のない中小企業のほうが危機時に弱いのは一般企業と同じである。

キャッシュが少ない(事業規模に比べて)というのは、当然こういった突発的な危機への対応ができないということで、今回はまさにそれが浮き彫りになったかたちかもしれない。シーズンの1/4が止まっただけで、選手給与すらも支払えないクラブが出てくるとか。

TV収入の巨額の払い戻しについて、保険でカヴァーできないのか?ということがThe Athleticの記事コメンツなんかでもユーザ同士の議論になっていたが、“force majeure(不可抗力条項)”で想定されているのはおもに天災や戦争・デモなどで、どうもヴァイラスのパンデミックは一般的にもそれに必ず含まれているわけではないようである。カヴァーできる派とできない派がいる。

実際のところは不明だが、保険でカヴァされるくらいならそもそもこんなふうに騒ぎになっていないとも云える。

これは要するに契約の問題だから、これ以降は必ず契約のなかに「疫病の流行」だとかそういう内容が含まれるのであろう。

東京オリンピックのような巨大イヴェントでも今回のようなケイスは想定されていなかったというのだから、大きな教訓になったに違いない。まさに歴史を変えるパンデミック。

※コメントくださるかたにお願い
プレヴューエントリでは、試合の結果がわかるようなコメントはお控えください
お互いリスペクトしあって楽しく使いましょう

5 Comments on “COVID-19パンデミックによる英国フットボールクラブの財政的損失

  1. 各クラブの給与カットや解雇などの動きあるなかイングランドに対する詳細なアプローチは面白いですねー
    (こんな一方的なタイミングの解雇って違約金発生せんの?とは思ってる)

    アーセナル自身キャッシュあるが負債も。
    なにより高額なチケットによる入場料収入がある分なかなかどうして。
    移籍に関しても今夏ボスマンプレーヤーどうなるのか。
    ズレこんだら超短期契約を結ばんとやったりなんやり。。

    あまりにも状況がカオスなので推して知ることも難しいですがーー
    うーん、どうなるのか。

    ちなみに自分はサッカーソシャゲに手を出してしまいましたw
    延期すればするほどゲームに課金しそうw

  2. セスクのインタビューもブログに是非お願いいたします。

    1. 需要あれば書きましょうか。さすがに70分リスニング&TXT起こしはキツいけど、キーコメンツはわりとメディアやその他で書き起こされているので。

Leave a Reply

Your email address will not be published. Required fields are marked *