試合の論点
アーセナル vs モルダのトーキングポインツ。
ウィロックにPLでもチャンスを
先週のELダンドークにつづいて、またしてもJWが活躍してしまったということで、試合後には彼にPLでもチャンスを与えるべきではないかという議論が盛り上がっている。
たしかに。
彼がこの2試合で見せたのは、ロウブロックをやってくる相手に対してポケットに入ってプレイできること。エジル以降のアーセナルにはそのようにプレイする選手がいないため、彼のように相手の隙間でプレイできる選手が入れば、アーセナルの攻撃はより活性化するのではないかという期待が高まっている。
それとゴールとアシスト両方に貢献できることも指摘せねばならない。2試合連続のG1 A1。2試合で4得点に貢献している。AMとしてゴールを脅かすプレイをしている証拠だ。
昨シーズンのアーセナルの大きな問題点のひとつは、MFがなかなか得点に関与できないことだった。ジャカ、ゲンドゥージ、トレイラ、セバーヨス、あと一応エジルも……これはラムジー以降のMFと云ってもいいかもしれない。それがアーセナルの競争力にもダイレクトに影響を及ぼしていたことは間違いない。もしいまのチームに全盛期の(いま?)ラムジーがいたらとつい想像してしまうようなひとにとっては、ウィロックのプレイには励まされたことだろう。
またラムジーついでにもうひとつポジティヴなポイントを加えるなら、やはり彼の献身的なプレイ。
Joe Willock made the most tackles (4), contested the most duels (17) and had the joint most shots (4) in the game.
He also completed 93% of his passes, scored one goal and forced two others through his persistence
— Orbinho (@Orbinho) November 6, 2020
Joe Willock made 27 pressures against Molde last night, 10 in the opposition final third, and had 9 pressure regains, 3 blocked passes, 2 tackles and 1 interception.
Not only did he score a goal and create two own goals, he was huge leading the Arsenal forward press. pic.twitter.com/hLLI7Eg9nX
— 7amkickoff #blacklivesmatter (@7amkickoff) November 6, 2020
守備でファイトしなければならないのは、アルテタのチームでプレイするには最低限必要なことだが、そういった意味で彼のメンタリティにはまったく問題がないように思える。
ちなみに前半終了間際にオウンゴールを誘ったカウンターアタックでのプレイも、ゴール前までDFと並走しつづけた彼のハードワークが強いたようなものだ。
もちろんELのグループステイジはPLとは難しさのレヴェルもまったく違うだろう。ELで何試合か活躍したからといって、PLでの成功を完全に信じられるとはならない。が、それでも彼をトライしてみてほしい。ロウブロック対策という、いま取り組んでいる課題に対する解決策になるかもしれないじゃないか。
ではここで一曲お聴きください。甘く切なくやるせなく。The Whatnautsで“Try Me”。ぼくを試してみてよ。終盤のコーラスの掛け合いがもうね。Flying Lotusがこれサンプルしてるってどの曲だろ。
またしてもぺぺのパフォーマンスに疑問。ぺぺの正しい使い方
ウィロックがまたなら、ぺぺもまた。
前回のELと同じようにG1 A1と結果は残した。だが、おおむね残念パフォーマンスを見せてしまったのも前回どおりだったという。
試合後のプレス会見でもツッコまれているように、アーセナルに来てからの彼の進歩にはいまだに少なくない疑念が持たれている。その部分では一貫性がある(笑い)。
アルテタが彼について一所懸命考えていることに疑いを持たれているわけではないが、少なくともここまでなかなかうまくいっていない。もうこのクラブに来てから1.5シーズンが経過しようとしているのだから、さすがにこの適応の進捗は遅いと云わざるを得ないか。
おかしいのは、それでも彼がそれなりに結果を出していることだ。ふつう結果はパフォーマンスに導かれるものだろうが、あんなに観ていてストレスフルなパフォーマンスでも、結局この試合もゴールもアシストもしている。とくに69分のゴールはファインゴールだった。(※WhoScoredやSofaScoreのようなスタッツサイトでは彼が最高レイティング)
ぼくがこの試合で感じたのは、やはり彼の使い方の問題だ。ポジションや動かし方に問題があるように思えてならない。
最初は定位置の右ワイドでスタートし、前半途中にはウィリアンとポジションを変えて左でプレイしていた時間もあった。ヒートマップを観ると、全体では右でのプレイが多かったようだけれど。
ぼくはこの試合でぺぺのプレイ場所を観ていてとくに疑問に思えたのが、彼が左のインサイドFWでプレイしているように見えたときだ。下図の「2」。
おそらくこの「2インサイドレフト」はぺぺのような左脚専のアタッカーにとってはもっとも中途半端なポジションで、フィニッシュするには角度がなく、ワイドのようにクリエイト(DFをかわしてクロス)できるようなスペイスもない。
一方で「1」でプレイするときはもっとシンプルで、DFを縦にかわして得意の左脚でクロス。ネルソンが右でやるのと同じ。古典的ウィンガー仕草で、それはそれで悪くないと思う。
現状ぺぺの定位置は「4」であり、彼のプレイを観ているとどうもアルテタからは、オバメヤンが右でやっているようにカットインサイドするよりは、むしろライン際のワイドエリアでDFと1 v 1で勝負することを求められているようにも見える。そしてそれは彼がやりたいこと(得意なこと)とズレがあるんじゃないか。だからいつもボールが来てから考えるみたいになり、そのあいだにもDFのヘルプが来て1 v 2になって結局バックパス。しゃっちょこばったプレイになる。本能的にプレイできない。そんなふうに見えてしまっている。
ボールを持ったときの彼のプレイにはいつも迷いがあるように見えるのはそのせいなんじゃないかと。好きなようにやらせてもらっていないから。
繰り返し各所で指摘されているように、ぺぺの得意なプレイは右からインサイドに入っていき、左脚で巻いたシュートを打つロッベン方式で、うえの4つのポジションで彼に適しているのは「4」からのカットインサイド、あるいは最初から「3」にいることだろう。
ぼくはこの前も書いたように彼はフィニッシングのセンスがかなりあるので、クリエイターというよりより中央に近いポジションでフィニッシャーとしてプレイしたほうが脅威になれると、最近はますます感じている。この試合のゴールも素晴らしかった。だから「3」が一押しなのだけれど、現状はそうなっていない。
いま最大の問題は彼が毎試合のプレイで自信を失っていることだ。PLではもうしばらくスタートから使われなくなってしまった。いまプレイを進歩させるためには自信をつけていかねばならないフェイズなのに、実際はその逆になってしまっている。
これはぼくにはわりと衝撃のデータなんだが、ぺぺの過去3シーズン(18/19リール、19/20アーセナル、20/21アーセナル)のパフォーマンスの比較を見ていただきたい。
Incredibly small sample size but Pepe’s dribbling has gone way down. Could be down to system, or confidence with Wenger saying “to dribble..these kinds of players are most vulnerable when they have no confidence, because their game is based on feeling free to take initiative..” pic.twitter.com/afijTBS2J9
— Arsenal Column (@ArsenalColumn) November 5, 2020
とくに注目すべきはドリブル成功率。劇的に下がっている。3シーズンで60.2%、54.4%、ことしはなんと26.7%である。今シーズンはまだ序盤なのでサンプル数は少ないが、でも今回の試合のようなあんなふうなプレイではこのようなスタットでもやむを得ないかと思う。
Arsenal Column氏は、ぺぺの自信喪失についてAWのことばを引用している。
アーセン・ヴェンゲル:ドリブルをするタイプの選手というのは、自信を失っているときは、たいてい繊細(vulnerable)になってしまうものだよ。だって彼らの試合というのは、自分が主導権を握っていると感じられることに基づいているのだから……
ヴェンゲルさんの下でならいまごろぺぺもブレイクしていたんだろうか。
ぼくはアルテタにはぺぺを諦めないでほしい。このチームにだって必ず解決策はある。そう信じているよ。
Nicolas Pepe: “I have to adapt.” [SKY] #AFC #Arsenal pic.twitter.com/U6zHlde1UE
— AFCMikel (@AFCPW) November 6, 2020
本人はちゃんと前を向いてる。
その他試合について
気づいたことなど。
- モルダはかなり強い。得点でこちらが先行したために最後はかなりオープンになったが、アウェイでは同じ展開を期待しないほうがよさげ
- エンケティアの幻ゴール。キャリアでゴールがひとつ減った。許さん
- オウンゴール先輩。今シーズン3つめでオバメヤンにつぐ2位(タイ)
- セバーヨスが効いてた。ああいう相手だと、パスばかりじゃなくドリブルなんかを織り交ぜてくれると緩急がついてつぎが予測できず。すごくいい
- 88分のJWのゴール。エルネニー→ぺぺ→JWで、エルネニーのパスが気が利いていた。エルネニーはまた前方にパスした! べつの人間がなかに入っているのかも
- コラシナツのビッグチャンス。でも右足ですし
- CKのルーティーン。相手GKの周りに選手を集めるというやつ。今回もやっていた
試合については以上。
毎度おせわになっております。
UEFA.TVではExtended highlightが見られるはず?!
ぺぺの伸び悩みに関する主さんの考察は、最近自分も思っていたところとドンピシャで興味深かったです。ぺぺは、今任されているような大外で相手を剥がすドリブラーではなく、本来エリア内でのフィニッシャー・ストライカー気質なんだと思います。そこの彼自身の資質とクラブが求める役割の乖離による伸び悩みではないかと。
そうなると、同じインサイドウイングで外せないオーバとはタスク被りで併用が難しいのが中々悩ましいところなんですよねぇ…。打開策としては、オーバをCFに回し、今のオーバのタスクをぺぺにやらせることかもですね。
かつてユーベ時代にWGで伸び悩んでたアンリがストライカーとして花開いたように、ぺぺも才能が開花してくれることを願うばかりです。
ぺぺの状況は同じリールから移籍してきて、活かせなかったジェルビーニョが思い出されますね。
サイドは違いますが、彼も1対1で釘付けになっていた印象です。
ワイドはスペースが少ないので、おっしゃるとおりインサイド気味にプレーさせてほしいですね。ワイドに張るなら利き足サイドにすべきかと。
ザハの代わりのウイングとして高額の移籍金で獲得した選手だからその分の価値があって欲しいですよね
フィニッシュが優れてるのは同意ですが、ドリブルについては加入当初の比較的自由にやれていたエメリの時もサイドで一対一仕掛けてディフェンダーをかわすなんてことは殆ど無かった訳ですから、ドリブルで仕掛けなくなったのは戦術のせいというよりもリールの頃に多用してた大きなフェイントのドリブルがPLで思ったほど通用しなかっただけなんじゃないでしょうか?
シェフィールドU戦ではスピードに乗ったドリブルからそのままゴール決めてますしドリブラーとして通用する部分もあるはずなので、手薄な右サイドのポジションで頑張って欲しいです
全然関係ないんですが、ホールディング彼女別れたっぽいですね……
ペペはボールもらったら一旦止まって緩急つけようとして、流れを切っちゃうんですよね。ネルソンやアレクとかは流動性の中で加速するのだけれども、ペペはどうしても一旦そこで相手側の状況を整えさせてしまうという。わたしは絶対③で生きるタイプで、ライン際ではこねこねして終わっちゃうと思います。もっと引き出し増やすか、それこそCFで使うほうがいいかもしれないと思います。ウィリアンのほうが、守備にも局面打開でも上な気がしますよね。JWはシニアでラカやオーバと組むと通じないのか、そこまで奔放なプレーができていない気がしますよね。こういう風に話していると、サカってやっぱり際立っているな、と思います。週末はAMNにグリーリッシュをマンマークさせてほしい。COYG
しかし③とか②のポジションはこのチームだとオーバの仕事で、しかもエースにもかかわらず特別扱いはされずにハードワークしてる。
ぺぺにあのレベルのハードワークがあるかと言うと。。。
ベンゲル式に「主導権ありき」のサッカーをしてれば、ぺぺのプレーはもっと良いのかも。
トランジションとかビルドアップを助けることを意識せず、得意なプレーに専念させて。
しかしそれだと勝てないだろうしなあ。面白いけど。
結局のところ、ぺぺが時代(というか新しいストラクチャ)のほうに譲歩して適応するしかないかなと。
言うほど簡単ではないと思うけど、トップレベルのウイングはおそらく全員が直面してるハードルなわけだし。