試合の論点
モルダ vs アーセナルのトーキングポインツ。
攻撃バランスの改善とリスクをかける意義
試合後のちまたの反応を見るに、近頃のアーセナルでは最大の課題となっている攻撃におけるバランスが改善されていると感じているひとが多いようである。ぼくもそれは大いに感じた。
アルテタもコメントしていたように「ヴァーティカルな」ネルソン、それにカットインサイドしがたるぺぺ、今回プレイした両ウィングは、ウィリアンやオバメヤンがワイドでプレイするときよりももっとバランスがよく見えた。
また、この試合のアーセナルはヴェンゲルさん時代を彷彿とさせるような積極的なハイラインで、天地を圧縮した守備ではハイプレッシングから相手の苦し紛れのロングボールをミドルサードで回収してリサイクル。また攻撃では、珍しくミドフィールドをちゃんと使って効果的にボールを回した印象がある。
とくにラカゼットが低いポジションを保ってミドフィールドに参加した効果と(左チャネル)、ウィロックが右チャンネルにいる効果で、彼らとジャカと3人のパートナーシップでいつも以上に選手間の距離が近くピッチの中央が生きたことが、今回の攻撃フォームが改善されたように見えた最大のポイントではないかと思う。
そして、云うまでもなく、左はネルソンが(AMNのコンビネイションもあり)つねに相手の脅威になり、そして右はぺぺがアーセナルでついぞ観せたことがないようなハイパフォーマンスを繰り広げたという。
もちろん相手のクオリティを考慮する必要はあるが、この試合でどちらのワイドも活性化したのは、ピッチの中央エリアが活きたからだとぼくには思えてならない。中央を活かした(活かそうとした)チームプレイは、最近のアーセナルではほとんど観られなかったものである。この試合のアーセナルのパスマップはまだ見ていないが、PLなど普段の試合のUシェイプとは大いに違っていても驚かない。
ハイラインもピッチ中央を使うことも、ボールを失ったときのことを考えれば、大きなリスクだろう。
アーセナルがボールを持って攻めているとき、いつも以上にプッシュアップして、CBふたりを含めて全員がハーフウェイラインを越えていた(ように見えた)。相手の拙攻に助けられたが、そのせいで何度かカウンターで危険に陥いる場面はあった。いつものアルテタのチームのように、攻撃のときでも十分に守備の保険をかけているときとは違う対応をディフェンダーたちは要求されたはずである。いつもはかなりカウンターに対して強固なストラクチャがある。
また中央でボールを失ったとき、やはり一気に形勢逆転でピンチになったシーンもあった。
だが、それがどうしたというのか。それがリスクをかけるということだろう。
今回の試合についてチームの攻撃の歯車がうまく回ったと多くのひとが感じた。この試合が観ていてとても面白かったのは反撃されるリスクを恐れず、攻撃でより積極的になろうとしていたからだと思う。
もちろん調整は今後も必要だろうし、もっともっとレヴェルの高いPLクラブ相手なら同じように戦って勝てるほど甘くはない。だが、ピッチ中央を使い全体をプッシュアップするという、いつも以上に攻撃にリスクをかけるという意味では、今後の戦いかたに大いなるヒントになったのではあるまいか。いやそうなってほしい。
結局プロフットボールはエンタテインメントである。敗けないプレイよりも、勝つためにプレイするほうが観ていて面白いに決まってるのだ。ぼくは今後PLでもアルテタには今回のように、存分に攻撃にリスクをかけてもらいたい。このチームだって絶対にもっともっと面白いフットボールができるはずだから。
このチームは、楽しいエキサイティングなフットボールでこそフォームを取り戻せると信じている。
ぺぺのレデンプション
先日のリーズでのヘッドバットでストレイトレッドカード。PLで3試合のバンになったばかりのニコラス・ぺぺ。
イングランドに来てから1年以上たっても彼のフォームはなかなか安定せず、そこからのアレだったために、一部にはアーセナルでのキャリアを危ぶむ声すらあった。が、その後アルテタが彼をフルサポートすると云っていたように、この試合でもスタートした。そして、期待以上のパフォーマンスを見せることに。この試合は彼がAFCに来てから何度かベストゲイムっぽい試合をやっているが、そのなかでもベストゲイムだったと思う。ちゃんと£72Mのクオリティだった。
Nicolas Pepe vs Molde:
* Shots 6 (1st)
* Goals 1 (1st)
* Key passes 4 (1st)
* Passes in opp half 28 (1st)
* Crosses 12 (1st)
* Touches 80 (1st)
* Duels 20 (1st)The perfect response 👇https://t.co/BZAz6yXf3A
— Charles Watts (@charles_watts) November 26, 2020
9 – Nicolas Pépé has been directly involved in nine goals in his 10 UEFA Europa League games for Arsenal (5 goals & 4 assists), netting in each of his last three appearances in the competition. Redemption. #MOLARS pic.twitter.com/Wy2HWDPkrB
— OptaJoe (@OptaJoe) November 26, 2020
😬 Sent off against Leeds on Sunday…
🤩 Perfect 10 rating four days later
👏 The perfect response from Nicolas Pepe pic.twitter.com/Vxv9q7bDRK
— WhoScored.com (@WhoScored) November 26, 2020
フースコレイティングではなかなか出ない満点。
全体的なパフォーマンスも素晴らしかったが、今回は得点に非常に貪欲だった。1得点。
これまで試合のなかで彼がどんなに残念なパフォーマンスを見せたとしても、彼のシュートを見るたびフィニッシュ能力だけは卓越していると毎度思っていたが、今回もそのことを証明した。彼は抜群にシュートがうまい。50分のゴールの前にはバーに当てたシュートもあり、得点の臭いはプンプンさせていた。この日はよくシュートを打つなあと思っていたが、結局ショッツは6でトップ。
そして、彼がこの試合で残したスタッツのなかでもっとも印象的なのがタッチだろう。80でトップ。
ぺぺといえば、アルテタが来てからもっぱら過疎化した右サイドで試合から消えてしまうことのほうが多く、なかなかパスが回ってこないし、たまにボールが来ても無謀なチャレンジでがっかり……という印象が強いが、今回はタッチが最多ということは彼にそれだけボールが集まっていたということでもある。おそらくはそのことも、彼がメンタリーに波に乗った理由でもあるだろう。
以前のエントリでヴェンゲルさんのことばを紹介したように、彼らのようなドリブルを得意とするタイプの選手は繊細で、精神的に自信をつけることが重要であり。そういう意味では今回は彼にとって非常に意味のある試合となった。これ以上自信のつく内容もなかなかなかったと思う。
アルテタは彼の能力をわかっていると云う。あとはそれを一貫性をもって発揮するだけと。今回はそのことばどおり、彼は自分のストロングポイントをしっかり発揮した。ボールも持って奪われず、ファイナルサードでシュートもパスもクロスもあって予測ができず。いつでも相手の脅威になる。
もし継続してこのようなパフォーマンスを続けられるなら、彼はアレクシス・サンチェス以来のゴールを脅かせるワイドアタッカーとして、アーセナルの大きな武器になるはずである。
彼はこのあとのELでまたプレイすることになるはずなので、たとえレヴェルの低い試合であっても、思い切り自信をつけまくってもらいたい。
レッドカードはがっかりだったが、あれはむしろ彼に必要な期間だったと、いつか思い返す日が来るといいですね。
ヘイル・エンド産
この試合のスクワッドは、あらためて現在のアーセナルアカデミー(ヘイル・エンド)のポテンシャルを際立たせるものでもあった。
アカデミーの目標は云うまでもなくファーストチームでプレイできる選手をいかに多く輩出するかである。なんと今回はスクワッドのなかに8人ものヘイル・エンド産の選手がいた。それでいてこの試合でプレイするにふさわしくない選手などいなかったのもすごいことだ。
Arsenal have eight Hale End academy graduates in their #UEL squad tonight:
Willock (joined aged 4)
Azeez (joined aged 5)
Maitland-Niles (joined aged 6)
Balogun (joined aged 8)
Cottrell (joined aged 9)
Nelson (joined aged 9)
Smith Rowe (joined aged 10)
Nketiah (joined aged 15) pic.twitter.com/zmXXMuVMns— Chris Wheatley (@ChrisWheatley_) November 26, 2020
4才からって。どんだけ。
バロガンの入っていきなりのゴール(37秒)はもちろんすごかったけれど、アレの何がうれしかったって、あの流れでしょう。セバーヨスのロングレンジのパスから、KT→ESR→バロガンだったのだ。まさしく未来を観た気がしたものだ。(KTはもちろんアカデミーから来た選手ではないが、なんとなくここで一緒くたにうれしがりたい存在である)
このブログで以前に「5年後のアーセナル」というエントリを書いたことがあるが、今回アップデートしてみよう。
なんとこのうち、ベレリン、ガブリエル、サリバ、レノ以外はみんなこの試合でプレイしているという事実。Future is now.
もちろんまだここに、サカやエンケティア、ガビ・マルチネーリだっている。今回ベンチにいたコトレルやアズィーズも入ってくるかもしれないし、今シーズンにローンでたくさん出ている将来有望なU23プレイヤーズだってたくさんいる。
5年後このなかで最高齢は33才のレノ。半分以上がそこからいわゆるプライムイヤーズ(25才~)に差し掛かろうという年齢だ。アーセナルFCの未来はいま希望に満ちあふれていると云わざるを得ない。
ラカゼットとモダンフォルス9について
こんなにいい試合でもネガティヴなことはある。
この試合でたったひとり残念だったのはラカゼットだろう。皮肉なことに彼はこの試合のキャプテンで、観ていて気の毒になってしまった。
2ストライカーでスタートしながらも、彼がいつもどおりフォルス9としてミドフィールドに落ちてビルドアップを大いに助けたし、ウィンガーにもカットインするスペイスをもたらした。4231のかたちでまさにNo.10ポジション(3の真ん中)でプレイしているように見えた時間もあった。
彼のプレイは結果的にアーセナルの攻撃全体の活性化に貢献したと思われるが、いつも以上に彼自身のストライカーとしてのパフォーマンスは落ちていた。激落ちだった。前述したように、このレヴェルの相手との試合でシュートが「1」は、ストライカーにとってシリアス以外の何者でもない(その71分のシュートはいいチャンスだったのでアレが入っていればまた印象は違ったろうが)。
彼のフォルス9ロールはいつもどおりだが、今回はいつも以上にストライカー役以外を求められたのか、そのあたりはわからない。とにかくシュート1のスタットが示しているとおり、ゴールスコアラーとしての仕事はほぼできなかった。
フィールドではチームで全員が楽しそうに遊んでいるのに、ひとりだけ仲間はずれのような感覚に陥ったのではないか。あれでは、あまりにもかわいそうだった。彼はバロガンのゴールをどんな気持ちで観ただろうか。
ぼくは試合前にラカゼットには彼自身のフォームとセルフコンフィデンスを取り戻す試合になってほしいと書いたけれど、この試合でさらに自信レヴェルは落ちたかもしれない。いくら役割を与えられようとも、彼が自信を取り戻せる仕事は結局得点を取ることなのだから。そういう意味ではチャンスをつくることですらない。ボックス内でいいチャンスをつくったシーンもあったが、仮にあれが誰かの得点につながっていたとしても、彼は自分がフィニッシャーでないことに不満だったろう。
下がる前の終盤の彼はパスのミステイクも何度かやっていて、まるで彼のフラストレイションが目に見えるようであった。
思うのだが、トッティやメッシのようなAMがデコイをやる古典的フォルス9はともかくとして、ハードワーキンなストライカーがやるいわゆる「モダンフォルス9」というのは、実際フットボール上の戦術システムとしてどうなんだろうか。フィルミーノも今シーズンはあまりうまくいっていないようだし。ぼく自身はラカゼットを観ていて、ますますこのプレイスタイルに懐疑的になっている。
そもそもストライカーにMFをやらせるくらいならふつうにMF(=AM。今回ならESRがいた)を使ったほうが良さそうに思える(ことが多い)し、何よりもこのシステムはラカゼット自身のパフォーマンスに悪影響を与えているように見える。彼のストライカーとしての天性は、明らかにこのシステムの犠牲になっている。AFCに来る前の彼がOLでどれだけゴールを量産してきたか。
これを書き始めると長くなりそうなのでこれ以上は書かないが、端的に云えば、総合的に見ていまのアーセナルのフォルス9システムは、チームにあまりいい効果をもたらさないと思っている。少なくとも最☆高ではない。
いずれにせよ今後、本番のPLでオバメヤンをCFで使うのならば、アルテタのフォルス9はオプションのひとつに格下げになるのだろうが、個人的にはできれば早くそうしてもらいたいと思う。
絶対やらないでほしいとまでは思わないが、それにこだわって最適なオプションを見逃すようなことはやめてほしい。
その他試合について
- 人工芝は怖い。ずるずる滑ってたし。ひどいケガをしなくてよかった
- ルナーソンは若干不安定なプレイ。それでも彼にはいい経験になったか。バックからのプレイではさすがに落ち着いていて、脚でのパスには自信がありそうである
- ラカゼットもエンケティアも入れなきゃいけないシュートがあった。アルテタはプレス会見でストライカーのゴール(質問の文脈ではPEAのゴール)に頼れるなら頼らねばならないと云っていたが、そうじゃなくて並のCVでもちゃんと必要なだけの数のゴールができるよう、たくさんのチャンスをつくれるようなチームにしなければないんじゃなかろうか。と試合を観ていて思った
- ESRを出してくれたのはうれしいが、残り15分だけがちと不満。もっと早く出してくれてよかった
試合については以上。
5年後のチーム展望、涎がでますね。(о´∀`о)
ペペ、よかったっすね。
バロガンのあの面構え、大物感はんぱないっすね。
マルティネリやマリももどると、どうなるのでしょう。見ていて楽しい試合がやっぱいいっすね。
プレミアでもこの調子でやってほしい。
更新ありがとうございます!
ELとPLの差をなくしていただき、ファイナルサードでのあの頃の輝きに期待したいと思います!
COYG
ウィロックが輝くためには、ネルソン、エンケティア、AMN、サカのうち最低2人は必要のだな、と。スミスロウもっと見たかったですね。スミスロウ→ラカだけでもがんがん崩せそうな気がするんですが。そう、点とらないと勝てないですし、なにより見ていて面白くない。日曜もリスクを取った試合がみたい。COYG
アーセナルFCの未来はいま希望に満ちあふれていると云わざるを得ない。
草
グループリーグだからかもしれませんが、魅力がある若手が居て、そういう選手を試せる場があるのはいいことですね
ラカゼットはフラストレーションというか疲労のように感じました 守備のタスクが普段とは違って、下がって対応してましたし、時にはジャカ、ウィロックのカバーしたり 惜しかったシュートのシーンは、エンケティアがゴールの確率が高いと判断してラカゼットにパス出したのがラカゼットへの信頼の高さを感じましたし、そこで相手キーパーがコースを読んで先に飛ぶタイプだと分かったことが、バロガンが真ん中にシュートするゴールにも繋がったんじゃないかな だといいな
ぺぺはホント強豪相手で今回のパフォーマンスが出せたら嬉しい限りです。
氏も以前語られていたように、フットボールにおいてドリブルは浪漫ですから、、、
人生が少しだけ豊かに。
ぼくも同じ気分でした。(というか良い試合の後はいつも)
COYG
だからウィロックはCMでとあれほど・・・って試合見てないですけど(笑)
そしてラカをトップ下の役割にするくらいならエンケティアにそれやらせてやってよと相変わらず個人的には思いました。
現時点ではボールを収める能力はラカより低いだろうけど。
エンケティアはCFで使うとやっぱり悪い癖が抜けないしなんならちょっと最近酷い。アルテタちゃんと指導して欲しい(笑)まぁ役割をそうしない時点でそうは思ってないんだろうけど。
ハイライトですらもどかしい場面あったからフルで見てももどかしいんだろうなぁ。いい試合だったみたいなので見たいですけど。