試合の論点
レスター vs アーセナルのトーキングポインツ。
ウィリアンとぺぺがシャイン。その意義
この試合は、チーム全体の攻撃の歯車が噛み合っていたように見えた。危険なエリアで少ないタッチのパス交換をやるし、悪いときの近視眼的アーセナルに比べて、非常に視野が広かった。メリハリがあった。試合のあいだ、自分たちが終始主導権を握っているという感覚があったんじゃないだろうか。
7分にいきなり何でもないところから失点したことはすぐ忘れたみたいに、とてもナイスなフットボールをやっていた。失点の5分後には、ボックス際の連携からぺぺがペナルティをもらうほどで(※VARでFKに変更)、もはや1失点したくらいでは大きなダメッジを受けないチームのレジリエンスを感じたものだ。いかにも自分たちのやりたいプレイをしているという感じで、アルテタが「彼らはアーセナルであろうとした」と云っていた意味がよく理解できる。
チーム全員がすばらしくよかったが、なかでも、特筆すべきはやはりウィリアンとぺぺ。ぼくはアーセナルのMOTMアンケートではウィリアンに投票したが、投票数ではぺぺに決まった(50%)。Sky SportsもぺぺをMOTMに選んだ。異論はない。
ウィリアンは、チェルシーのウィリアンだった。彼がAFCに来てからあんなパフォーマンスは観たことがない。ちゃんとアシスト2という結果も出し、£220kpwの価値を示した。※追記:公式記録はアシスト1のようである
またぺぺはちゃんと£72Mのぺぺだった。彼はずっと27Mの選手という感じだったが、今回は72Mだろう。ゴール1。タッチも多く(71)個人クオリティの見せ場もあったし、しっかりチームプレイにも関与していた。
クラブが最高レヴェルの投資しているふたりが、ようやくがっかり評価を払拭してくれた。とくにウィリアンのあのパフォーマンスに一番喜んだのはアルテタに違いない。彼はこういう未来を信じてずっと待っていたのだろうから。
ふたりともいったいどうしてしまったのか。
ぺぺはいいときの彼だったのでそれはいいとして(ふだんよりももっとシンプルなパスをしていた?)、ウィリアンはアーセナルではあんなプレイはまったく初めて観た。とにかく生き生きとしていて、積極的で、まるでふっきれたように動く。少なくともこれまでのプレイのように他人事感は全然なかった。もしかして催眠術?
Willian vs Leicester:
94% pass accuracy
2/4 dribbles completed
4/5 accurate long passes
6/9 accurate crosses
3 chances created
2 assistshttps://t.co/Hd29AzYFs1— Arsenal FC News (@ArsenalFC_fl) February 28, 2021
ドリブルは成功はともかく4つのアテンプツというのが重要。彼のアーセナルに来てからの平均よりだいぶ多いはず。それだけこの試合の彼は積極的だったということ。もちろん今回はアシストも。チャンスクリエイトやアシストは彼にもっとも期待されているタスクのひとつ。彼はベンフィカで初アシストを決めたばかりで、それまでの停滞っぷりを思うとケチャどばの感がある。まさにきっかけを掴んだのかもしれない。
ところで、ぼくはここしばらくのアーセナルのひとつの問題点として、スクワッドデプスならぬ「クオリティデプス」について何度か書いた。
オーバ、サカ、パーティ、KTといったレギュラーチームの選手はたしかにクオリティが高い。間違いなくCLレヴェル。だが、ひとたび彼らが変わってしまうと、途端にチームのクオリティが落ちてしまう層の薄さ。人数が揃っていないわけではなく、基準以上のクオリティが揃っていないという。これではシーズンを通してハイレヴェルの試合に勝ちつづけることはできない。
そのクオリティを落としてしまう選手の筆頭がウィリアンであり、悪いときのぺぺだった。
ぺぺはずっと悪かったというのはフェアではないが、いいときと悪いときの落差が激しく、一貫性は彼にとってはずっと解決すべきメインテーマだった。いまもそうだろう。2月からオーデガードがプレイするようになり彼のプレイタイムが減ってしまったのは、悪いタイミングだった。ちょうどぺぺがチームのなか(左サイド)で活き始めたときだったから。
彼らが復調してくれることには何重もの意味がある。チーム強化はもちろん、投資回収という意味でもそう。投資を回収するどころか、あのままでは不良債権になりかねなかったのだから、喜びは大きい。
またアルテタにしてみれば、自分の信念が報われたときでもある。
ただし、喜ぶのはまだ早いかもしれない。一貫性あるパフォーマンスをつづけることの難しさは、わかっているのだから。
その意味で、ウィリアンとぺぺの復調の秘密は興味深いところ。
ウィリアンは正直どういうきっかけで自分のプレイを取り戻したのかよくわからないが、この試合のぺぺについては、とある理由の指摘もある。
セドリックがぺぺをアンロック。RBのファーストオプション?
この試合は現地で12:00キックオフということで、日差しのおかげでピッチ上の明るさのコントラストがひどく、映像がシャドウ部に明るさをあわせたときはピッチの日が差した明るい部分がかなり見にくくなっていた。
そのおかげで前半はTVではアーセナルの右サイドで選手のことがよく見えなかったのだけど、ぺぺと連携してえらいいい動きをしている選手がいるなと思っていたら、どうもそれはセドリックだった。
試合後にはかなり称賛されるんじゃないかと思ったが、ウィリアン・ぺぺ・ジャカの影に隠れてしまって、それほどでもない様子。この試合の彼のパフォーマンスはもっと褒めてもよさそうに思えるがどうだろうか。
守っても攻めてもソリッドで、ボールを持ってもなかなか失わず。わりと理想に近いRBだったように見えた。とくに攻撃では、かなり積極的に前に出ようとしていたのが印象的だった。
(※たしかにSofaScoreなどを観るに、アーセナルのチームのなかでは最低レイティングで、ポゼッションロストが24などスコアはよくはない。だがこれは効果がスタッツに現れない典型的な試合だったかも)
そして、セドリックがぺぺの本来の能力を引き出しているんじゃないかという説もあり。
In the first half Nicolas Pepe had more touches in the Leicester third (25) than Leicester had in the Arsenal third (23)
— James Benge (@jamesbenge) February 28, 2021
前半のぺぺはレスター全体をあわせたよりも、ファイナルサードでタッチが多く。
Nicolas Pépé wanted to play with “a RB who constantly overlaps,drawing players so he has room to operate”
•Cédric & Pépé found each other 31 times vs Leicester
•Compared to 7 passes between Pépé & Bellerín vs Man CityPépé’s performance today was one of his best for Arsenal. pic.twitter.com/14Ey0h159z
— Premier League Panel (@PremLeaguePanel) February 28, 2021
セドリックがコンスタントに右サイドをオーヴァーラップするおかげで、相手選手をひきつけてぺぺにスペイスを与えたと。今回ふたりのパスのやりとりは31。まあここでシティでのベレリンとぺぺ(パス7)を引き合いに出すのは少しアンフェアに思えるが。
アルテタが来てからはとくに、アーセナルでは右サイドが若干弱点のようになっていて、誰が入っても(※サカ以外)なかなか活性化することができていなかった。そのおかげで右サイドでメインにプレイしていたぺぺは孤立してしまうことも多く、宝の持ち腐れのようになっていた側面はある。
しかし、今回ぺぺがアーセナルに来てからベスト級のパフォーマンスを見せたことは、セドリックにとっても、とても励まされることだと思える。彼は今回もまたジャカにつぐタッチ(83)で、チームのなかで確実に重要な役割を担っている。
退団が噂されるベレリンとのRB競争においては、また一歩彼のポジションに近づいたかもしれない。
彼のようなバックアップと思われていた選手が、こうしてプレイでブレイクスルーしようとするのを観るのは、とてもいいものだ。
鉄人ジャカ
一部のかたからジャカの活躍を認めない認定されているっぽい当ブログ(笑い)。んなこたーない。
この試合のジャカはすごくよかった。彼はピッチのあらゆるところに顔を出すみたいな感じで、まさにミドフィールドを制圧していた。パーティの不在も全然感じさせなかったと思う。温存していたはずのパーティをあそこで出してきたことには少し驚いたくらいだ。
いきなり失点の起点になってしまったことはたしかに残念だったものの、失点そのものでの彼の過失はさほど大きいものではないだろう。あれは彼の小さなミステイクをカヴァできなかったほうが問題に思える。エルネニーもマリーもティーレマンスのパス先を意識しすぎて、彼をそのままゴールまで一直線に前進することを許してしまった。あんなイージーなゴールはPLではなかなか観られないのでは。
Granit Xhaka for Arsenal vs. Leicester:
◉ Most touches (85)
◉ Most passes (70)
◉ Most duels won (9)
◉ Most ball recoveries (6)
◉ Most tackles made (3)
◎ 2nd-most fouls won (4)
◎ 2nd-most interceptions (2)That’s why he was given the keys. 🗝 pic.twitter.com/4OMbSLJNtx
— Squawka Football (@Squawka) February 28, 2021
今回のジャカのハイライトは、52分のぺぺのゴールか。得点の起点。
ジャカがセンターサークルの少し後ろにいたラカゼットに軽く浮き球のパスを出すと、すぐに相手選手に囲まれ団子状態に。ラカがキープしようと相手ともみ合っているところを後ろから来たジャカが間に入ってひょいっとボールを奪ってしまう。そこがトランジションの始まりだった。
そのままボールを持って前進すると、右のぺぺに展開。カウンター気味に。そこからぺぺがカットインサイドし、ゴール前のオーデガード、小さくパスを出した左のスペイスにウィリアンが走り込み、寄せられるも技ありのパスで無人ゴール前へ。ぺぺゴール。ごっちゃん。
ジャカ・ラカ・ジャカ・ぺぺ・オーデガード・ウィリアン・ぺぺと、ボールが何人もの選手を経由して生まれたアーセナルっぽいゴールだった。
アルテタが称賛しているように最近のジャカのパフォーマンスはずっと安定しているように見える。彼のプレイタイムを考慮すればなおすごいことだし、彼がずっとフィットしていることによるチームへの貢献も非常に高い。
TMであらためてプレイ記録を確認すると、今シーズンは序盤こそ途中交代の試合も多いが、バーンリーのレッドカードで3試合サスペンションからの復帰後となるボクシングデイから、PLは1試合たりとて休んでいない。12試合連続で90分プレイ。それでいて、とくに疲れた様子もない(実際はしらんけど)。鉄人である。AFCの衣笠祥雄である。
疲労度はともかく、彼がこれほどまでに長い時間プレイしているのはマネジャーからの信頼度を表しているのと同時に、彼の類まれな身体的タフさを示している。去年の1月に6日離脱して以降ではまったくケガもしていない。
ジャカはおそらくいまがキャリアのピークという感じがする。今年の9月に29才、アスリートとしてもプライムイヤーズに入っているだろう。
アルテタからはパフォーマンスだけでなく、リーダーシップも期待されているジャカ。現在の過渡期のチームで彼のいろんな意味での安定感はますます貴重なものになっている。
不用意な失点がつづく
アーセナルはPLの直近4試合のうち3試合で6分以内に失点している。
Arsenal have conceded inside six minutes in three of their last four Premier League games.
Basically giving teams a goal start
— Orbinho (@Orbinho) February 28, 2021
1点を競うような試合で、これで勝つのは難しい。
どうしてこういうことが起きるのか?
VAR, you did it again?
今回は、VARでひとつはファウルがボックス内でなかったとペナルティ判定が覆って(アーセナルはまたあらたなVAR記録を増やした)、もうひとつのVARではハンドボール判定でペナルティを得た。W1 L1。一応ファウルにはなったからW1 D1か。
だが、あの覆ったペナルティ判定はじつはミステイクだったのではないかという指摘。またか。毎度おなじみAFCの社カメ、マクファーレン氏。
Trip on Nicolas Pepe looks inside the penalty area to me, no penalty given. Maybe the camera does lie 😂📷 #arsenal #VAR pic.twitter.com/PADM0B8arR
— Stuart MacFarlane 🎗📷 (@Stuart_PhotoAFC) February 28, 2021
完全にボックスの内側。
まあもっとも、ティーレマンスの接触でファウルを取ったんじゃなく、この前のエンディディの接触でファウルを取ったのかもしれんけどね。
VARさんがまたやらかしたんじゃなかったらよかった!
ではここで一曲お聴きください。Soft Machineで“We did it again”
その他試合について
コーナーFKからダヴィド・ルイスのゴール。レスターの誰もルイスの動きに気がついてなかった。最高に気持ちいいやつ。ウィリアンの配球もヘッダーも完璧で、まさにしてやったり。セットピースからの得点も久しぶり?- ウィリアンとルイス(元チェルシー)でゴール。アーセナルでは、ジョン・ハートソンとイアン・ライト(元WHU)以来の他PLクラブゴールコンビだそう
- ラカゼットのペナルティはスーパークール。久しぶりのスタートで結果を出した。ラカはPL直近アウェイ6試合でG5 A2と絶好調
- ぺぺのごっちゃんゴールを祝うパーティ・オーバ・サカ。プライスレス
試合については以上。
セドリックのランが欲しかったやつで素晴らしかったッス…T^T
いつもお疲れ様です
失点シーン、水沼さんはマリが下がりすぎと言ってましたが、僕はエルネニーが行くべきシーンではないかと思いました。エルネニーがマークしてる選手はいなかったので。
とにかく、不調と言われてる選手が活躍して、勝ったのは気分が良いですね
何度も大声が出るゲームでした。
つまりグッドゲーム。
スミスローはつらいですが、さわって出たあの11番の存在感とフィット感はかなりヤバイ。もうずっといてほしい。てかレアルはなぜうちの2人を使わないのでしょうね。
レスターは間違いなく強い。たしかにキーマンが数名いなかったですが。
そこにきっちり勝った。久しぶりに強いアーセナルを見ました。こんな試合をずっとすれば今の順位なんて考えられません。
一貫性。次もよろしくお願いいたしますm(__)m
最初の失点以外はナイスゲームでした。
やっぱりバログンは引き止められなかったですねー。
正直身体能力考えると、エンケティアよりはプレミア向きだと思ってたんですが…。
ユースの成績はエンケティアが上ですが、彼は上にあがるとフィジカル面で苦しんでましたし。
レスターはキーマンを欠いていて、イヘアナチョのヘボさに助けられた面は多分にある。
そしてティーレマンスの得点ではパブロ・マリを心のなかでバンバンに罵った。
デュエルを避やがるCBなんてクソだ!って。
でも、ペペがサイドで優位性をもたらし(マンCのマフレズやスターリングのように)、ジャカは試合を通じて素晴らしかった。サカというキーマンを欠いてもチャンスメイク、ビルドアップが出来てよかった。
セドリックもベジェリンのようにフラフラ上がっていくこともなく、良かった。
余談だけど、ベジェリンの特に足元もうまくなくてオンザボールで突破できるわけでもないのに
「ここまで上がっちゃったから、このまま前でパス出てくるの待ってみよっかな。戻るのも大変だしさ」
的なポジショニングは困りすぎる。周りの味方が。
たぶんアレがあるからアルテタとギクシャクしているのだろうと妄想する。
失点後のVARは、NDIDIと接触、と試合会場のスクリーンに表示されてましたよ。ティーレマンスとは接触しておらず、その前にNDIDIと接触したお蔭で、ペペはバランスを崩した、という判定。ウィリアンとペペ、良かったですね。何より、プレスも怠らず、運動量も豊富で1~2枚は引きはがす、という。無論、相手にマディソンがいたら全く別な気がするのですが、ヴァーディ―に仕事をさせなかったこと、これが何よりスバラシイ。交代ではいる選手がこのラインナップだと、レスターから見たら悪夢・・・でしょうね。1週間は浸れそうです。COYG
ありゃ気づかなかった。いや思い出した。たしかにありましたな。
失点シーンは、誰が悪いかとか別にしてもジャカの判断は悪いと思う。LBが上がった状態で、あんな苦し紛れの雑なパスを出す時点で良くない。
あれ以外はジャカは良かったけど、伸びしろとしてはもっとやれる気がする。
ラカやウィリアンを追い越してリターンを受けるチャンスは、3点目のあれ以外にもたくさんあった。
その多くで、ジャカはまだ止まってボールを受けてる。
僕はジャカのキックの質はウーデゴーアに匹敵すると思うけど、ウーデゴーアと違って足技がないので自力でマークをはがせない。そういう尖った選手が前を向いてパスを出そうとするなら、引いてきた前の選手を追い越してリターンを受けるしかないと思う。
今まで4年間ジャカはそういうプレーを全くしてないから、これが最初の成功体験かも。チーム事情があったにせよ、ほとんど犯罪的な才能の浪費だと思う。
僕はジャカのキックの価値をウーデゴーアやESRと同じくらい高いと思ってるので、まだこれでは満足できない。もっとやれる余地があるし、まだスタートラインに立ったばかりだと思う。
ウィリアンはコンディション的にまだ万全でない印象。あって6~7割くらいな。ドリブルのいいシーンもありましたけどまだ体力的に足りてない感じ。守備は最低限の仕事を優先的にしている分攻撃に割く体力がなくて常には攻撃で力を出せてない感じ。それでも以前より少しは戻ってきた感じはしますね。その兆候があるだけでもよかったかと。
ペペが活躍できた要因は色々あるように感じます。相手SBのクオリティ、高い位置でボールを奪うことが多くショートカウンター的な場面を作り出せた、オーデガードがこの試合はペペの近くでプレイする意識をしていたという印象。
オーデガードのこれまでの個人的な印象はボールを持った時のクオリティは高いですが、ボールを受ける、リンクアップの為のポジショニングをあまりしない感じ。あまり動き回らない。それが徐々に良くなってきているのかシティ戦の時に比べるとペペとの距離を近く取ろうという意図があったように感じました。
そしてペペの守備の意識は素晴らしかったように感じます。高い位置でボールを奪えると自分の得意なシチュエーションに持っていける(スペースがある状態になりやすい)というのを実感してからでしょうけど、最近ではプレスの意識が一番高いし効果的になっているように思います。
でもこの試合は全員がプレスを適切にほぼ試合を通してやれていたと思います。チームワークというか一丸というかそういう意味でいい勝利でしたね。
押し込まれることも少なく奪いたい場所でボールを奪えた。それが攻撃にもいい影響を与えた印象。プレスをかける瞬間は体力使うけど上手くボールを奪えることが続いたら楽、なんならプレスに楽しみや意義を実感している、ペペやウィリアンにもそんな表情を見れたような気も、というくらいプレスが機能していた気がします。