試合の論点
クリスタル・パレス vs アーセナルのトーキングポインツ。
✊ Success at Selhurst Park
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— Arsenal (@Arsenal) August 21, 2023
アーセナルはタフなファイトで2連勝。PLではすでに全勝は3チームしかおらず
たった2試合めで、ポインツを落としていないチームが3つしかないというシーズンは、PLではあんまりないんじゃないか。調べてないのでわからないが、どうだろう。
上から、ブライトン、シティ、アーセナル。
シーズン前の下馬評でも2強に近い評価だったシティとアーセナルはともかく、ブライトンはけっこうすごい。あれだけ毎シーズンでメイン選手を放出しながらクオリティをキープして、しかも今年は2試合で7ゴールもぶっこんでいる。ミトマは、冗談抜きでワールドクラスになりつつある。
アーセナルはこの2試合、あまりきれいに勝ったとは云えず、しかしそれでもちゃんと最後には3ポインツを得ているというのが、素晴らしい。前回は、鋭いカウンターのゴールで息を吹き返したフォレストに対し、今回はひとり少なくなって30分もの時間であれだけ劣勢になりながらも、なんだかんだでしぶとく勝っている。それはまさにレジリエンスだし、長いシーズンを戦ううえでは、こうしたキツい試合で勝てていることはなによりもポジティヴに思える。絶好調じゃなくても最後は勝つ。タイトルを取るようなチームには、それが必要。
新加入のライスもハヴァーツも、まだ完全にチームにフィットしたとは云えないだろうが(ライスはこの試合でかなり前進したのかも)、それでもこの2試合で見せたチームのスタンダードはかなり高い。
今回、最初からそれなりにパレスにボールを持たれることも覚悟せねばならないと思って試合を観ていたが、まさかあそこまでわれらがボールを支配して試合を進めるとは思わなかった。相手ハーフでボールを奪われず、ずっとボールを回しつづけるさまは、ちょっとシティみたいだった(自分で書いていて気分が悪くなった笑)。
これからの伸びしろを感じさせつつ、未完成でも結果は残していく。いくら綱渡りでも、いまは勝てばよし。そして試合ごとに、さらにチームがまとまっていく。
アーセナルはここまでは、それなりに楽観的になれるシーズンスタートになっているように観える。
ちなみに、今回はマンデイナイトの試合で、じつはアーセナルは月曜夜に行われたPLアウェイ4試合すべてで敗けていたらしい。この勝利でついにマンデイナイトの呪いを解いた。
それと今回の勝利でアーセナルはロンドンダービーで13試合敗けなしになり(W11 D2 L0)、2001から2005までロンドンダービー35試合無敗(!)をやって以来の記録に。
毎回のようにポジティヴな記録が生まれるのは、このチームが過渡期だから。いい時期にアーセナルのファンをやっててよかったなあ。
トミヤスのレッドカードがすべてを変える。レフの一貫性に疑問
とはいえ、この試合はひどかった。なにがひどかったかといえばトミヤスの2枚のカード&セントオフ。とくに、二枚目はトミーもびっくりしてた。試合に決定的な影響を与えたその判定は、果たして正しかったのか?
いや、その判定には大いに異議を唱えたい。レッドカードをもらってしまうような選手は、不当なジャッジのときでも、どこかネガティヴポインツが少しでもあるものだが、今回のトミーはほんとうにほとんど非がなかったように思える。※彼のスロウインがいつも遅いってのはあるか
そしてまたお前らなのか。PGMOLよ。ハワード・ウェブよ。ウェブといえば、コミュニティ・シールドのときにウェンブリーで試合中に彼の姿がカメラに抜かれて、スタジアムのモニタに映し出されただけでスタンドからブーイングが巻き起こるという一幕もあった。いまや嫌われ者。
それはともかく、この試合のレフェリーは、David Coote。顔と名前をおぼえておかねばならぬ。なんてアマチュアなのか。
まず、トミヤスの一枚目のカードは58分。アーセナルは1-0でリードしている状況で、マルティネリ、ハヴァーツ、トミヤスとタッチラインでボールの受け渡しがありつつ、スロウインにやや時間がかかってスタンドから大ブーイング、そこでいわゆるtime wasting(時間稼ぎ)として取られたファウル。
ぼくは今回もヘッドフォンで試合を観ていたから、会場のインテンスな雰囲気もよくわかったが(※前にも書いたかもだけど、日本の中継より向こうの中継のほうが現場音のバランスが大きいと感じる。向こうの中継=Arsenal公式のライヴオーディオ。SPOTVの映像に音声だけ被せて観ている)、レフェリーは完全にホームスタンドのブーイングの勢いにつられていただろう。大きい音量でもう一度映像を確認してもらえればそれがよくわかる。レフが雰囲気に流されちゃいけない。PGMOLの<マッチオフィシャルべからず集>にはそう書いてないのか??
これについて、Scott Willisが興味深いtwをしていた。
Willis:ボールがアウトオブプレイになってから、トミヤスにカードが提示されるまでの合計は「24秒」だった。
この試合におけるスロウインの平均時間は19秒で、トミヤスがカードを受けたときより長いスロウインは6つあった。
ゴールの前、クリスタル・パレスは27秒、25秒、22秒、それと22秒のスロウインがあった。
アーセナルは44秒かけたスロウインもあったが、それは罰せられることはなかった。
つまり、あのシーンはカードで罰せなければならないほど突出して長い時間をかけたわけでもなく、もしそれをカードで罰するなら、ほかのケイスだって同様に罰しなければならないはず。
まあ、アーセナルはリードしていたし、トミヤスの前にハヴァーツが長くボールに触っていたりで印象が悪かったのもあるだろうし、そもそもアウェイ試合とはそういうものだという理屈もわかるけれど、time wastingと云いながら実際のtimeを顧みないレフの一貫性のなさには疑問が残る。
それともっとひどいのがトミヤスに提示された二枚目のカード。カードが出るとわかったときは「トミーやっちまったかー」と頭を抱えたものだが、試合中に何度も流れたリプレイ映像を観る限りではトミヤスはAyewをつかんでもいないし(シャツをつかんでいるように観えたのは手の甲でつかみようがない)、後ろからのプレッシャーに相手がころんだだけ。
そのプレイに対しレフェリーが迷いなくカード。セントオフ。
いや、一瞬のできごとだし、レフにだってとっさの判断が難しいというのは理解できる。だが、あんなふうに試合に決定的に影響を与えるような判定ならば、せめてVARで確認はできなかったのか。映像で確認してもらえれば、カードに値するようなファウルではなかったことがわかっただろうし、あるいはファウルですらなかったかもしれない。
百歩譲ってDavid Cooteがあの判断を下したとして、VARレフはモニタルームでなにしてんだという。彼らは、いろんなアングルであの映像を観ていたはずで、メインレフにVAR確認を進言するのも仕事じゃないの?
いや、わかった。千歩譲ってトミヤスが2枚のカードでの退場が正当な判定だったとしようか。もしかしたら、うしろから足がかかっていたのかもしれないからね。
じゃあ、こっちはどうなんだ。Ayewはカードを一枚もらっている状態で、サカに対し、トミヤスよりもっとはっきりとファウルとわかるレスリングをやっているが、そちらはカードなし。ここだってサカが抜け出せばチャンスになっていた状況で、こっちのほうがファウルとしてはもっとclear and obviousでしょうに。これで彼が退場になっていれば、その後のトミヤスとのインシデントも当然なかった。
Compare and contrast, both players on a yellow. Who got/most deserved a 2nd yellow? pic.twitter.com/Vz4OK5qmwd
— Benjamin (@benvenceremos) August 21, 2023
もしエミレーツなら、逆の判定だった? そうかもしれない。でも、仮にそれでアーセナルのほうが有利になったとしても、試合がつまらなくなることには変わりない。いずれにせよ興ざめ。
ちょっとこの試合から離れるが、この件でぼくが繰り返し述べておきたいのは、レッドカード(退場)という制度自体が、フットボールの競技としての魅力をいちじるしく損ねているということ。
フットボールにおける退場処分というのは、あまりにも競技に与える影響が大きすぎて、極端にゲイムバランスを崩してしまうルールとしか思えない。一定のバランスのうえに成立しているからエンタテインメントである試合が、事実上そこで終わってしまうのだ。
今年もあったように毎年ルールをレヴューしているなかで、レッドカードの制度自体が疑われないということのほうがぼくは驚く。まあ、時間限定で退場になる「オレンジカード」みたいなアイディアは聞いたことはあるので、完全に見過ごされているというわけでもないのだろうけど。
相手に意図的に危害を加えようとするようなプレイなどならともかく、今回のような、あまりに微妙なファウルとも云えないようなプレイであんなふうに「試合を終わらせてしまう」なんて、ほんとうに愚かしい。
レッドカードはほんとにどうにかしてほしいし、フットボールの未来のためにどうにかしたほうがよい。
※このエントリを書きながら、たまたまArseblogのマッチレヴューを読んでいたら、レッドカードについてまったく同じことが書かれていた。シンクロニシティ。
ペナルティテイカーの責任をサカから解くこと
この試合の唯一のゴールはペナルティだった。
このチームのなかでペナルティを蹴る担当は、ブカヨ・サカということで決まっていたにもかかわらず、今回はオーデガードが蹴っていた。キャプテンは、以前には「自分は責任もプレッシャーも楽しめるからペナルティテイカーになる準備はできている」と語っていたそうな。
これについてはアルテタも試合後に、それはマネジャーの指示ではなく、選手たちがチームの決まり事を現場で変えてしまったことを認めていた。選手はピッチ上でいろいろなことを決断するのだから、それもとくに問題ないとも。
そしてもちろんキャプテンMØは、冷静にこれをネットに沈める。
今回のことを観ていて思ったのは、もうサカをペナルティの責任から解放してもいんじゃないかということ。
彼はイングランドNTの一員として、EUROでの失敗がトラウマのようになっただろう。批判や中傷、あるいは支援もあったが、あれだけ国中から注目を浴びてしまうことも若い彼にはなかなかない経験だった。
アーセナルで彼がペナルティ担当になった経緯は、それを乗り越えさせようとする意味もあったはずで、チームとして彼を励まし、サポートし、自信を取り戻させる意図があった。そして、みごとに彼はその期待に応えてきた。昨シーズンはWHUの重要な場面でひとつミスをやってしまったが、まあそれでも全体的には。(プリシーズンのバルサでのペナルティミスはカウントしないでおきたいが、それも今回の決断に影響を与えたのかも?)
だが、今回の試合でポール・マーソンの記録に並んだように(※アーセナルでリーグ82試合連続出場)、サカがみるみる成長をつづけるなかで、ただでさえ彼には精神的・肉体的な重圧がかかっていて、それは今後もましていくいっぽうなのは間違いない。であれば、少しでも彼の負担をすくなくするために、いま彼が担っている責任を分担するというのは、むしろチームとして積極的にやっていくべきことのように思えるのだ。
ペナルティ担当が今後はどうなるのかわからないが、もちろんチームのエースである彼がひきつづき蹴ってもいいし、今回のようにキャプテンが蹴ってもいい。ペナルティというのは、メンタルの強さが問われるから、ライスもいいかもしれない。ジョルジーニョのようなスペシャリストもいる。
サカにとって救済の意味でのペナルティ義務は、もう役目を終えてもいいように思う。
ライスに合った役割
アルテタは、この試合のライスはフォレストのときと変えたと述べていた。おそらく、基本的には「単独6」で、パーティと役割を交換したりふたり並んだり、B2Bとして攻撃に参加したりという感じで、フォレストのときの前めでプレイする8とは、たしかに違っていた。
そして、多くのメディアが彼をこの試合のMOTMに認定する大活躍。
試合後のジェイミー・キャラガーのライス評がちょっと興味深かったので、それをここでご紹介しよう。『Sky Sports』より。
キャラガー:わたしは、デクラン・ライスがピッチ上のベストプレイヤーだったと思う。
わたしは、彼がライン間でプレイするより、今夜彼がプレイしたロールのほうが好きだね。彼の初期ポジションは深くでスタートすることで、そこから前へドライヴしていく。あそこが彼がベストになれる場所だろう。
彼はマネジャーから学んでいると話していて、それは前めでプレイすることであり、あるいはポケッツでプレイすることかもしれない。だが、それは完全に彼に合っているとは思えないんだ。今夜の彼はとてもよかった。
まるで、すべてが彼を通して行われるみたいに感じた。彼はピッチの中央にいて、ボールに触り、スウィッチングプレイをする。グレイトな50-60ヤードパスもいくつかあった。加えて、あのランだ。エンケティアへの短いパス。彼がピッチのベストプレイヤーで、際立っていたと思う。
ライスの使い方は、アルテタも相手によって変えているというよりは、まだ試行錯誤している段階なんじゃないかと思うが、この試合はそういう意味で大きなヒントになったかもしれない。
基本はNo.6で、RBからインヴァートするパーティが近くにいる関係。ある程度ポジショニングの自由もある。キャラガーが指摘するようにピッチ中央でたくさんボールに触って、機を見て前に出ていくという、おそらくWHUでのプレイと近いやりかた。これが今後しばらく基本になりそうな予感がする。あのポジションだと、周囲へのコーチングも活きる。
それと興味深いのはジンチェンコの復帰で、とくにトミヤスがつぎの試合がサスペンションなので、ジンチェンコがそのままLCBにすんなり入るのかどうかが気になる。パーティのRBを継続するなら、もしかしたらジンチェンコはベンチに置いて、キヴィオールかガブリエルがそこに入る可能性もありそうに思える。
いずれにせよ、ジンチェンコの復帰はあらたな変化をもたらしそうで、それも楽しみだ。ライスとジンチェンコがいっしょにプレイするところは、われわれはまだほとんど目撃していないから。
この試合については以上。
A big win for Jurrien 💛 pic.twitter.com/xZkjQoWGOl
— Arsenal (@Arsenal) August 21, 2023
ライスはアンカーでも結構広範囲に動き回りますよね。ライス単体ではいいのかもしれないけどチーム全体としてはどうなんだろう。直近2試合は適切な位置にコンダクターがおらず、そのせいで最終ラインと前線が分離してしまっているように見えました。相手も間延びしないし、釣り出されることもないから、なかなか崩せない。
ライスの守備は素晴らしいですね。
ただ動きすぎてビルドアップを停滞させていませんかね。後ろ3枚で回している時に下に降りてくる動きが無意味に感じます。
右は昨シーズンウーデ、サカ、ホワイトで崩していましたが今はトーマスが合流しないので昨シーズンほど脅威になっていないように感じます。それでもサカがスーパーすぎてなんとかなっていますが、、、
いつも楽しく読ませてもらっています。
レッドカードについて同感です。1人減ると試合がつまらなくなってしまいますよね。罰が大きすぎると私も常々思っていました。
遅延行為についてもアディショナル長く取ることにするんだったら、その分延長すれば言い訳でマイボールのリスタートはそこまで厳しくしなくてもいいように思います。スローインの制約厳しくなるとボールアウトした方が有利になりかねないと思いました。