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【マッチレビュー】23/24 EPL ニューカッスル・ユナイテッド vs アーセナル(4/Nov/2023)アルテタ激怒のVAR判定

試合の論点

ニューカッスル vs アーセナルのトーキングポインツ。

アーセナルはタフなフィジカルバトルに渡り合う。それぞれのカードの判断は適切だったか?

個人的には、一昨年のこのフィクスチャの印象がとても強かったから、アーセナルはかなり苦戦を強いられることになると思っていたけれど、正直恐れていたほどではなかった。もちろん、楽な試合だったということなどではなく、アーセナルは彼らにもっと苦戦すると思っていたという。

だからアルテタが悔しがるのもわかる。そういう接戦だった。ゼロポインツには値しない。

そして、この試合をひとことで表現するとすれば、それにぴったりなワードはやっぱりフィジカルバトルだろう。試合前から予想されていたことであるが、この試合は、ボールを競り合って随所で肉弾戦が繰り広げられるような、非常に英国らしい試合だったと思う。とくにミドフィールドのバトルがタフだったと、試合後のエディ・ハウも述べていた。

スタートからお互いにガツガツぶつかって、前半はとくに両チームの選手が痛んで転がっていた。それでも、レフェリーはしばしば試合を止めず、ゲイムオンに。そのおかげで、またヒートアップするみたいな。

そして、今回のアーセナルは、その戦いに互角以上に渡り合っていたように思える。

ハヴァーツとライスのふたりの8のフィジカリティはあきらかに彼らの長所であり、Bruno GやJoelintonのようなそれが強みの相手MFに対しても、負けていなかっただろう。

最近は、アーセナルのミドフィールドの去年からの進歩についてよく話題になっているが、この点においては間違いなく進歩がある。とくにライスの強さは、ちょっと尋常じゃない。

相手がフィジカルバトルをしかけてくるような、こういう試合にずっと悩まされてきたアーセナルながら、いまはサリバ、ガブリエル、ライス、ハヴァーツと中央に身体の大きな、強い選手が揃っている。それも、間違いなくアルテタが新しいアーセナルに求めてきたもの。

そして、そのようなフィジカルバトルのなかで生まれたいくつかの議論なプレイ。

ひとつはもちろん、36分のハヴァーツのタックル。ボールに間に合わず相手選手の足に突っ込んでしまった。

あれはイエローカードでラッキーだったと云われているが、たしかにそうかもしれない。ただ、足裏を見せるようなタックルではなかったため、「危険とまではいかない」という判断でレッドカードは出なかった。もしエミレーツで相手選手がやっていたら、絶対にレッド!とわれらが主張するやつではある。

おかげでニューカッスルの皆さんはたいへん熱心に抗議をして、3人にカードが出るというおまけがついた。ひとつのカードで、相手に3つカードを出させるという、はからずもナイスな戦術(©ギャリー・ネヴィル)になったという。

ハヴァーツはそのあともやや危ないタックルをやっていて、カードをすでに受けているのに、なにを考えているのかという感じだったが。。

そしてもうひとつの大きな議論になったのは、もちろん前半終了間際のBruno Gのラフプレイ。背後からジョルジーニョにエルボー攻撃をかますという、目を疑うようなことをやった。これは完全に故意。

うしろからアックスボンバー(©ハルク・ホーガン)

このプレイはレフェリーが観ていなかった?ようで、なんのおとがめなし。それも信じがたし。この試合で議論あるプレイのなかで、もっとも罰に値する悪質なファウル。相手が憎くてうしろから頭をぶつとかある? 小学生か。

もしジョルジーニョがあそこでしばらくひっくり返っていたら、レフェリーがそこをちゃんと顧みて、やつを即退場にできたかも?

このプレイのあと、彼はライスともやりあって、のどわをかましているので、そこでも罰せられた可能性がある。

いずれにせよ、彼は、ミドフィールドでふだんどおりの仕事をさせてもらえず、そうとうに苛立っていたのだろう。彼はとくに、彼をマークしていた?ジョルジーニョに対してフラストレイションをためていたようで、後半にはまた後ろからジョルジーニョを攻撃していた。彼にようやくカードが出たのは、試合終了間際のヴィエラへののどわ。彼はあの前半のアックスボンバーにカードが出ていたら、そこでセントオフだった。

ひどい。だがこれも、アーセナルがミドフィールドで主導権を持ってプレイできた証拠のひとつ。相手のキーマンを封じた。

あとは、前半サカと対峙していたDan Burnも、立て続けにサカにファウルしていて、カードが出てもおかしくなかったが、彼は空中戦で腰から落ちてしまい前半だけで退いたのが、彼らには幸いだったかもしれない。

こういう肉弾戦がそこかしこにある試合で、レフェリーが難しい試合運びを強いられたというのは理解できなくはない。

だが、この日の最大の議論となったニューカッスルのゴールについては、弁解の余地のない、重大な過失になっている可能性がある。

VARで3つのチェックを通過した議論なニューカッスルのゴール

あのニューカッスルのゴールが生まれたのが62分。

ニューカッスルのDFからのロングボールから、彼らのクロス(シュート?)がワイドいっぱいの、ピッチのもっとも深いエリアまで到達したところから始まる。

昨今、もはやゴールが決まったかどうかをVARでチェックされることはまったく珍しくなくなっているが、ひとつの件で同時にそこに含まれる3つもの違反可能性をチェックされるというのは、けっこう珍しいケイスではないか。

まずひとつは、ボールがラインを割ったかどうか。ボールを追いかけるのはジョー・ウィロック。

出ているように観える。

つぎに、ボールをクリアしようとしているガブリエルをJoelintonがうしろから押していないか。

押してるように観える。両手を背中に伸ばしているのは自然な動作ではないだろう。

そして、オフサイドがなかったどうか。

この瞬間でボールがパスされたのならGordonはオンサイドに観えるが、ボールがどの時点でJoelintonから離れたのかはっきりと見えるアングルの映像がないということのようだ。

 

これらについて、すべておとがめなしと判断したレフェリー側の見解がこちらである(※その後にPGMOLから公開されたというそのときのVAR音声記録)。

On the Newcastle goal: “The ball looks out but we can’t possibly give it from that angle.”

(ニューカッスルのゴール?)ボールは外に出たように観えるが、われわれにはそのアングルから判断できない。

On the push on Gabriel: “There’s two hands on Gabriel’s back but we can’t be sure it’s a push.”

(ガブリエルは押されたか?)ガブリエルの背中には両手がかかっているが、押しているかどうかまでは定かでない。

On Gordon being offside: “There’s no conclusive evidence whether Gordan is behind the ball, so stick with onfield decision.”

(Gordonのオフサイド?)Gordonがボールのうしろにいたのかどうか結論を判断する証拠がない。したがってオンフィールドの決断を支持する。

じつは、この一連のプレイのなかには、もうひとつJoelintonのハンドボール疑惑というのもあり、そちらはVARチェックに含まれていないようだ。それがあればここでの違反可能性は4つめである。

これって、つまりこの3つ(4つ)ともVAR的には「わからない」あるいは「判断不能」だから、オンゴールにしようと云っているのと同じ。メインのレフリーがノーゴールをコールしていたら、ノーゴールだったということ? せっかく先端のテクノロジーをつかっているのに、正確性(事実)より人間の眼が優先されるとは。VARとしては非常にお粗末な結論ではないか。

VAR議論では最後には人災についての議論になってしまうことが多いが、今回は技術的な限界が露呈したケイスなのかもしれない。決定的映像がない。たしかにファウルの判断は難しいが、本来はボールがラインの外を出たとか、オフサイドは純粋に技術的に解決すべきことだろう。

Sky Sportsのポストマッチショウでは、ひとつめの疑惑について、リプレイ映像でボールがラインから出たかどうかをフレームごとに前後させてポイントを探っていたが、動いているボールは1フレでもけっこう位置が変わる。ああいうのを観るともっと高いframe rateの必要性を感じる(※現在のVARは50fpsで運用されているらしい)。ミリ単位での判断になるなら、その細かさが成否の分かれ目になりうる。ハイスピードカメラみたいなやつが必要か。それと、アングルはよく問題になりがちなので、もっとカメラを増やすのも有効。

ちなみに、ひとつめのボールがラインを割った疑惑は、beIN Sportsによればボールは出ていなかったという。ワールドカップの日本代表みたいな超微妙なやつ。これはテクノロジーを使っている。ただ、これも元になっているのは同じ試合映像だろうから、100%信頼にたるかどうかはわからない。もっと高いframe rateの映像があれば、もっと正確に判断できる。いずれこの先、もう少し時代が進めば、そうなりそう。

それはともかく。

アルテタが激怒するほど、あきらかな誤審だと確信できる証拠もあるわけでもなさそうなので(ブレントフォードのアレみたいな、これまでにアーセナルで何度か起きている明らかな誤審に比べると)、結局は機械的に判断ができないというのなら、こういういつまでもスッキリしない結論にしかたどり着けない。やはりここはVARのさらなる技術的進歩が望まれる。

アーセナルのファンのあいだでは、この判断には陰謀論まで取りざたされている始末(PLのレフが英国北部出身者に偏っているとか、最近サウジリーグで仕事をもらっているから彼らに忖度しているとか)。

いろいろな意味で残念である。

VAR音声記録は、Bruno Gのアックスボンバーのときのものもある。

“He’s not used his arm as a weapon, it’s not nice but no more than a yellow card”

彼は腕を武器にしたわけではない。ナイスではないが、カード以上のものではない

いや、それならカードは出してくれよ。。

これと、あとはPGMOLとして「肘(elbow)でなく腕(forearm)だったから」という理由もあったようだが、PLのルール的にはviolent conductは身体のどの部位でやるかは無関係である。この行為そのものはしっかり目撃されているわけで、それでもおとがめなしというのは、ルールに則っていない。

これもまたPGMOLの謝罪案件になるのかどうか。謝罪されたからといって、どうにもならないが。It’s too late.

とはいえ、アーセナルにも問題がなかったわけでもなく……

失点した場面、アーセナルのゴール前にいたディフェンダーたちは、ボールがラインを出たと思い込んで一瞬スウィッチオフしてしまったのはまずかった。

ボールをキープしていたウィロックに集中するより、背後のラインズマンを気にしたり。ああいう、ちょっとした気の緩みみたいな、スキからゴールは生まれるんだよなあ。なんでもない流れのなかから、あのようなゴールが生まれたようには思えず。

そもそも、そこに至るまでに、ビッグガビがクリアをミスしてなければというのもある。まあ、もっとマシな守備ができたというのは事実だ。

アルテタはニューカッスルのゴールの判断に激怒するどさくさにまぎれて「われわれは3ポインツを失った」と述べているが、そこはフェアに云えば、われらが失ったのはせいぜい1ポイントだろう。アーセナルのチームがアウェイで強敵相手に悪いプレイをしていたとは思わないが、アーセナルが当然勝っていたはずと云えるような試合内容でもなかった。敗けるにふわさしい試合ではなかったのと同じように、勝利もまたふさわしくはなかった。それがフェアな視点と思う。

すでに述べたように、この試合のアーセナルは相手のゴールの枠に飛ばしたショッツはたった1である。

ニューカッスルが、PLのベストアタッキングチームだとすると、アーセナルの守備は概ねよかっただろう。ミドフィールドでのバトルはもちろん、CBもサリバの落ち着きはレヴェルが違っていたし、ビッグガビもフィジカルなWilsonとよく対峙していた。トミヤスもAlmironのマンマークがかなり効いていた。彼らだってSoTはゴールを含めて2しかなかった。それだけ彼らのやりたいことは限定できた。

だが攻撃面では、チャンス不足という直近のトレンドを反映して物足りなかったと感じる。われらは、終始ボールを持って試合を支配的にプレイしながらも、ファイナルサードでニューカッスルの分厚い守備をこじ開けることには苦しんだ。思えば、彼らはこれまでPLでベストのディフェンスをやるチームでもあったのだよね。そのことを思い出させられた。

アーセナルの攻撃を支えるサカとマルティネリのふたりも、今回は決定的な仕事はさせてもらえなかったという印象が強い。

とくにサカ。シュートはブロックされたひとつのみで、ドリブルも成功ゼロ(0/1)。クロスは3/5とまずまずながら、得意の右サイドからの展開はうまく封じられたようなものだ。このふたりが仕事をできないと、いまいち攻め手がなくなってしまう。

ゴールをしなければ勝てないのだから、やはりこの試合で勝つのは簡単ではなかった。

アーセナルは、これが今シーズン初の無得点試合(※すべてのコンペティション)になってしまった。リーグでの無敗も途切れてしまったのは、残念でならない。

試合後にジェイミー・キャラガーが、アーセナルにおけるストライカーの必要性について熱弁していて、それはもうこの界隈では聞き飽きたことでもあるし、それもたしかにそうなのだが、直近でそれよりももっと深刻なことは、やはり、それ以前のチャンスをつくる部分とか、チームとしてゴールを取ることへの積極性みたいなものなんじゃないかと思う。

今回ショッツが14あって、SoTが1しかないというのは少なすぎるし、そもそもシュートだってもっとトライしていい局面も多いと感じる。だが、アーセナルの攻撃コンセプトとして、小さなチャンスくらいではなかなかシュートを打ってくれない。ブロックの外側を辛抱強くボールを回しつづける結果、毎回の攻撃が遅攻のようになってしまって、相手の守備が整い、ますますゴールが遠くなるみたいな悪循環に陥ることがしばしば。

この試合のアーセナルはほとんどいつもどおりの攻撃だったように見えたので、相手も十分予測可能で、守備の対処もしやすかったかもしれない。アルテタが一時期から指摘しはじめた予測不可能性や混沌が、こういう試合にこそ必要だったが、そういうもの(クリエイティヴィティ)を生み出せる、ジェズースとオーデガードの不在も痛かった。

やはり、チームのストラクチャとして、もっとシュートに意識的になっていくべきなんじゃないか。たとえば、たとえ可能性が低くても、ロングレンジのシュートに躊躇しないとか。ライスとか、あんなベッカムみたいなボールを蹴ることができるのなら、もっと狙ってもよさそうに思える。

毎度TVでアーセナルの試合を観ていて、相手をファイナルサードに押し込んでパスを回しているようなとき、「うっちゃえ!」って思わず声が出てしまうのも一度や二度でない。まあそれは、いまに始まったことじゃないけども。

こういう試合のアーセナルの攻撃を観ていると、やっぱりそういうフラストレイションはたまる。

 

この試合については以上

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