試合の論点
アーセナル vs クリスタル・パレスのトーキングポインツ。
A perfect afternoon at Emirates Stadium 🤩
All the highlights in one place 👇 pic.twitter.com/9pZwcZATJl
— Arsenal (@Arsenal) January 20, 2024
「チャンスを活かせない」問題を払拭するゴール量産。スランプの峠は越えたか
去年末からここ、しばらくのアーセナルを悩ませていた問題といえば、試合のなかでチャンスはつくりながら、なぜかそれをゴールできないという現象だった。この期間の不振で結果も低迷、リーグテーブルでのトップのポジションも失うことになり、アーセナル界隈の楽観的な空気は一気に冷めてしまった感がある。
あとはボールをネットに入れるだけというビッグチャンスがありながらも、アーセナルのアタッカーたちは、どういうわけかなかなかゴールできない。そのおかげで、アーセナルにおける問題の解決策として「ちゃんとしたNo.9」必要論も大いに盛り上がっていた。
それが、ひさびさの試合でいきなり5ゴールである。ちょっと出来過ぎなほどである。これはあきらかに期待以上。ドゥバイキャンプ効果か。ちなみに5ゴールは、アーセナルの直近6試合(CL除く)をあわせたゴールよりも多いのだとか。
いったい何がどうしたのか。
まあ、ゴールの数はともかく、この試合を楽にさせたのはやはり前半のふたつのセットピースゴールだろう。コーナーキックで11分と37分。時間帯もよかった。
このしばらく苦しまされた問題(現象)が、選手たちの精神的な面が大きな理由だったとすると、そのゴールによって彼らの心理的プレッシャーは確実に軽減されたはず。
ひとつは相手GKのオウンゴールになってしまったが、実質ビッグガビの2ゴール。いかにも魂が乗ったゴールで、文句なしという感じの気持ちいいゴール。危機に陥っていたチームを救うゴールにもなった。まさにビッグプレイヤー。各所でMOTMに選出されている彼は、ディフェンダーのゴール記録としても現在PLでトップという。ディフェンスは今回も力強かった。
あのふたつのゴールは、コーナーからの配球もよかった。右コーナーのサカはともかく、左コーナーをライスが蹴るのは一瞬「おや?」と思ったが、彼もアシストを記録することになった。
後半には、タッチラインからピッチを見つめるセットピースコーチのNJ(ニコラス・ヨヴァー)が何度もカメラに抜かれていたのが印象的で、やはりアーセナルのセットピースの立役者として注目の的になっている。この試合もそうだし、彼がセットアップしているであろうセットピースルーティーンも各所で分析されている。これとか。試合前はスローインのルーティーン(相手DFを引き付けて彼の裏のゴールラインギリギリのいわゆるカットバックゾーンに入れる)も話題になっていたが、それも彼の仕事だろうか。
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そして、ホジソンに「望みを絶たれた」と云わしめた3点め。典型的なカウンター状況で、3つの完璧なアクションが決まったほんとうに美しい連携プレイとゴールだった。
パレスのコーナーキックからの流れでボックスに放り込まれたクロス、ラヤがそれをキャッチすると、密集のなかでもランを開始するジェズースとトロサールを見逃さず。すかさず40ヤーズのロングスロウ。あのパス1本で、2 v 1状況をつくった。ほんとうに惚れ惚れするような正確な位置と強さのスローで、これが右サイドを駆け上がるジェズースが走るスピードを調節する必要のないほど彼の足元にピタリ。スーパーラヤ。鳥肌。
そしてジェズース。ピッチ中央を並走していたトロサールに、これまたDFに届かない軌道で彼の足元にピタリのラストパスを送る。これも完璧だった。
ボックスに侵入したトロサールは、進路に入ってきたDFを冷静にワンタッチでかわすと(ここでDF氏がコケたのもナイス)右足でゴールにズドン。完の璧。
Look at the stances of Jesus and Trossard at the moment of the Raya claim. So much of football is sneaking an extra step. pic.twitter.com/euloGb6d4E
— Billy Carpenter (@billycarpy) January 20, 2024
94分と95分のマルティネリのゴールについては、この試合にとってはおまけというかご褒美みたいなものだろう。ほとんど同じかたちでDFの裏に抜けて、GKとの1 v 1から右足でファーポストへのショッツで2ゴールを決めた。
試合終盤、パレスの選手たちはすでにほとんどやる気を失っていたし、前後が間延びしてチームとしてのまとまりもなかった。チームの中心選手であるEzeの軽率すぎるプレイからミドルサードで簡単にボールを失って4-0になったあとは、5点めは彼らには関心すらないみたいだった。
しかし、そんな無気力になっていた彼らと違い、アーセナル、とくにマルティネリにはこの2ゴールは非常に意味があった。ストライカーにとってゴールは最良の薬とはよく云ったものである。チームと同じようにフォームを落としていたマルティネリに必要だったものの大部分が、これもまたチームと同様に心理的なものだとすると、このゴールが彼に与えた影響はポジティヴでしかない。
アルテタが試合後に述べているように、彼がこれで自信をつけて勢いに乗ることができれば、それはチームにとっても恩恵が大きい。
ところで、このネリの2点めについてはぼくはサリバの隠れた貢献があったと思っている。彼はバックラインにボールが来たときに、相手選手に詰められていて、安全第一なら後ろか横にボールを蹴ってもよかった。だが、彼はそこで小さなリスクをかけて前にいたジョルジーニョへちょこんと短いパス。結局そのワンプレイが相手の意表を突いて大きなチャンスにつながった。すごいぞビッグウィリー。
ということで、新ストライカーなんて最初からいらなかったんや!みたいなゴールの数で試合に勝ったのだった。。
相手ブロックこじ開け系ゴールは……
今回はひさしぶりの大量ゴールだし、クリンシートだしで、もちろん観ていて楽しい、スカッと気持ちが晴れそうな試合ではあったのだが、ただ残念なのは、じつは課題だった部分はそのまま残っているところ。
すなわちオープンプレイからのゴール。
いや、最初のコーナーキックからの2ゴール以外は、いちおうオープンプレイからのゴールだったのだけど、3つともカウンター(みたいな)状況だったから。少なくとも、ファイナルサードで相手ブロックが整ったところをこじ開けたというゴールではない。相手も守備の準備ができていない、トランジションのケイオス状況から生まれたゴール。
わたしたちがこれから乗り越えねばならない壁は、相手が完璧で強固な秩序だった守備ブロックをつくっているとき、それでもなおこじ開ける、ぶち抜くこと。そういうゴール。
それについては、今回は見せてもらうことはなかった。5つのゴールのなかには、残念ながらひとつもない。
いくら人数をかけようが、相手の想像を超えるクリエイションで、スピードで、正確さで、ゴールする。毎回相手が最初から守備ファーストでプレイするようなトップチームはそれをやっている。
この課題は、アーセナルが自分たちのやりたいことができればできるほど、多くの時間対面することになるという皮肉な状況がある。今回も、え・そこでボール戻すの?というシーンが散見されたが、そういうプレイスタイルを選んでいるのだから、もうしかたがない。アーセナルがゴールを見ているとき、相手の守備ブロックはもう整っているのだ。
今回、むしろ、そこはいままでとあまり変わらなかったようにも思える。
この試合でも多くの時間、相手のゴール前の守備を崩すことにはあいかわらず苦労していた。アルテタも云っているが、ゴール以外ではここ最近のほかの試合のほうが、今回よりもまだいいパフォーマンスだったというくらい。
だから、ここはひきつづき課題でありつづけるだろう。セットプレイやカウンターでのゴールだって、毎回は期待できない。
だが、何度も云うようにチャンスを決められない理由に精神的な部分が大きいのなら、今回の大量ゴールは、かなりいい効果をもたらしそうに思える。ここ最近のアーセナルのチームは、チャンスを決められないことによる心理的不安から、さらにチャンスを逃すみたいな悪循環に陥っていたように観えたが、心理的不安がすこしでも解消するなら、それは解決のきっかけになりうる。
そのためにも、セットピースだろうがカウンターだろうが、ケチャップのフタを開け続けることだろう。
このゴールによって、アーセナルのスランプがピークを過ぎたかどうか。それはまだ今後のパフォーマンスと結果を観ていく必要がありそうである。
いくらか楽観的にはなれたので、今回はそれでよし。まだシーズンは半分ある。
この試合については以上













パレスは見るからにハイラインでした。
それはアーセナルが裏を狙う攻撃をこれまで見せてこなかったからでは?
昨季OTでユナイテッドがDFライン上げまくっても、ろくに裏を取れませんでしたし。
ところでアルテタ政権でこれほどスムースにカウンターをサクサク決めたことはありましたっけ?
サカやマルティネッリはカウンターを組み立てるのがかなり苦手だったように思いますが、ジェズスやジョルジーニョが間に入るとカウンターが上手く機能します。トロサールやエンケティアもかなりいい感じでした。
サッカーの醍醐味はやはり鮮やかな速攻でしょう。