試合の論点
ウェスト・ハム vs アーセナルのトーキングポインツ。
The perfect away-day display 🙌
Relive our 6-0 triumph against West Ham all over again 👇 pic.twitter.com/wYzLjvl7xu
— Arsenal (@Arsenal) February 11, 2024
ビッグガビのゴールで一瞬ハヴァーツが映るところ、みんな誤解したよなあ。編集で切ってあげればいいのに。。
アーセナルが6-0のPLアウェイ記録でWHUを粉砕す。アルテタの戦術的調整
アーセナルはPLのアウェイ試合で最多ゴール(タイ)。WHUはリーグのホーム試合で過去最多失点(タイ)。というような記録的な記録を記録した試合だった。
ここでこういう結果になるとは思っていなかったなあ。なんなら苦戦するかと。
今シーズン、彼らにはすでに2度敗けていたので、リヴァプールのときと同じ「三度目の正直」のようになった。そして、これは現在のアーセナルがいるリーグテーブルでのポジションからしてもかなり重要な結果になった。このタイトなタイトルレイスにおいて、重要になりそうなGDでもトップに近づいた。いっきに+6だもの。
まず、勝因あるいはこの極端なスコアラインになった理由については、WHUの戦いかたもあったように思う。
試合が始まってから、彼らは事前に想像されていたよりも積極的アプローチで、アーセナルがボールを持っているときの守備の位置も高く、なんならハイプレスをやろうとしていた形跡すらある。おかげでアーセナルは結果として25本もショッツを放つことになるが、序盤の攻防で最初のシュートまでは10分ほど待つことになった。
が、時計の針が20分も進もうとするころには、徐々にアーセナルの攻撃が勢いをもつようになりはじめ、30分にコーナーからサリバのゴールが決まるまでは、何度も惜しいチャンスをつくり、いかにもゴールの匂いがしていた。
相手がシットディープしたとき、どれだけボールを持って攻めてもまったくゴールが決まりそうな気がしないという試合はアーセナルでは珍しくないが、今回はそういう感じはしなかった。アーセナルはファイナルサードでずっとシャープだった。GKのAreolaのビッグセイヴがなければ、もっと早く最初のゴールが決まっていたはず。
そのあと、前半立て続けにアウェイチームのゴールが決まり4-0となって、HTにはWHUサポーターはみんな帰ってしまうわけだが(笑)、もし彼らがいっさい攻撃に色気を出さず、自分たちのゴールを守ることだけに専念するような割り切ったスタイルになりきれていたら、結果は違っていたかもしれない。ハムサポももうちょっと長く座っていたかも。すくなくともアーセナルのほうは、そういう相手のアプローチのほうがイヤだっただろう。どんなにクオリティ差があっても、ディープブロックをこじ開けるのは、いつでもたいへんである。
今シーズン何度かあったアーセナル相手に大差がつく試合で毎回思うことは、いまのアーセナル相手に中途半端に打ち合おうとすると、こてんぱんにやられるという。それほど、いまのアーセナルのビルドアップからフィニッシュまでのクオリティは高い。この試合でも、あらためて惚れ惚れするようなパスまわしが何度も観られた。よほど集団でのプレッシングが洗練されていないと、アーセナルの対戦相手は高いプレス位置がかえってリスクになる。
まあ、こういうプレイを観せているから、われらは毎試合のようにディープブロックに悩まされることになるのだけど。
今回のアーセナルの攻撃プレイが効果的だったことについては、「トリプル10」を挙げているひとがいた。クロップが指摘したオーデガードとハヴァーツのダブル10に、トロサールを加えたトリプル10。3人のNo.10。
Arsenal’s use of almost triple tens was a new wrinkle and I think really helped then take advantage of West Ham being aggressive on the wide players. The movement between these players was excellent. https://t.co/ZGrIrzkGvk pic.twitter.com/p36wdpOuBJ
— Scott Willis (@scottjwillis) February 12, 2024
彼らは頻繁にポジションをロテイトしていて、相手のマークがつかまえきえれず。この日ひさびさに9でスタートしたトロサールは、まさにフォルス9の面目躍如だった。
アルテタは、ハヴァーツとトロサールの動きは想像していたのと違ったと試合後に述べていたが、結果的にそれはとてもいいほうに働いたのだ。コントロールフリークのアルテタながら、きっと彼はそういうことにもすごく喜びそうである。コントロールできないワンダー。現場で選手同士が即興で起こすケミストリ。うれしい驚きだったのだろう。
それと、アルテタの戦術的な調整では、試合後にはベン・ホワイトのジンチェンコロールが話題になっていた。ジンチェンコ不在で、アルテタが左右の役割を入れ替えたと。とくに後半。
アルテタがキヴィオールのインヴァーテッドロールを気に入っておらず、だからベンジャミンをCMに上げてキヴィオールを3CBのひとりとして守備に専念させるといういつもとは左右逆のシステム。
これについては、「ふだんからやってる」「前半もやってた」のような声もあるが、まあ今回はそれがとても目立ってよかったということなんだろう。この試合のベンジャミンのパスは、それ以前の試合における彼の平均パスから約30%増で、ピッチ中央で試合への関与は明白だった。
今回、サカやオーデガードが最高にキレていたということもあり、アーセナルは右サイドから攻撃する時間が多く(47%)、ベンジャミンもそれにかなり貢献していたと云える。
サカへの「ダブルチーム」は、すでにどの試合でも当然のように行われる彼への対策になっているが、この試合ではベンジャミンが攻撃へ積極的に関与することによって相手を引き付け、サカはしばしば1 v 1状況をつくれていた。それもサカが大活躍できた理由のひとつ。
それともちろん、ベンジャミンの場合はインヴァータとしてだけでなく、オーヴァーラッピングによるサカとのコンビネイションも強い。クロスは3。
もしアルテタがベンジャミンのインヴァーテッドRBに手応えをつかんだのなら、今後はジンチェンコ不在のときには今回と似たような反転システムを採用するのかもしれない。そうなると、自然と単足のビッグガビがCCBになってしまうので、ガビ・トミヤス・サリバの3CBになったり。トミヤスがアーセナルのバックラインの中心にいるという未来への伏線。それも楽しみ。
おっと話がそれた。
タクティカル セットピーセズ ストライク アゲイン
ニコ・ヨヴァーがまたやってくれた。サリバとガブリエルという、ふたりの大男たちがセットピースから仲良く1点づつ決めた。
これでセットプレイからのゴールを16とし、わりとダントツでリーグ単独トップ。
Arsenal’s work on the training ground is paying off on the big stage 📝 pic.twitter.com/yutO92hJqh
— Premier League (@premierleague) February 12, 2024
先月、『The Athletic』に「ニコラス・ヨヴァーのセットピースルーティーン ベスト10」という記事があり、それによると彼がAFCに来た21/22シーズン以来、アーセナルのコーナーからのゴールが顕著に増えているという。
下のグラフの直近3シーズンを観ていただくとその変化が一目瞭然。優秀なコーチでこれほど変わるのかと驚くほど。
今回のコーナーからのサリバ、フリーキックからのガブリエル、どちらも計画されたルーティーンぽいものに見えたが、これらもトップ10ルーティーンに入るにふさわしいものだったろうか。
まず、32分のサリバのゴールで目を引いたのは、ホワイトのスクリーン。ヨヴァーのルーティーンでは、相手のマークをはずすスクリーンが計画的に行われていることが多いという。バックポストに集まるアーセナルの大男たちに対し、彼はGKのすぐそばに陣取り(狡猾にも彼は直前にはGKの背後に隠れている)、ボールが放り込まれると、GKがボールに向かえないようわざと身体をぶつける。ゴール。ホワイトのスクリーンは、いかにも事前に決められた動作のようで、彼にはとてもイージーなタスクに見えた。
それと、前半終了間際44分のビッグガビのフリーキックからのゴール。あのルーティーンは、The Athleticの記事中では“オフサイドゴースト(offside ghost)”と呼ばれていた。アーセナルでなくともしばしば観るやりかたである。ボールが放り込まれる直前まで、ターゲットになる大男たちが相手の守備ラインを大きく出たオフサイドポジションにいて、ボールが蹴られる瞬間にオフサイドラインに戻るという。あれをやられると相手守備はターゲットになる攻撃側の選手と放り込まれたボールのあいだでブロックできず。まさに、戦術的意図を感じるゴールだった。
ビッグガビのゴールが決まったフリーキックでは、事前にライスとガブリエルがルーティーンを確認しあうような姿も映されていた。計画どおり……
逆に今回のこのふたつのゴールは、これまで観てきたアーセナルのセットピースルーティーンからすれば、さほど意外なものでもなく、WHUのほうがそれに無策だったような気がしないでもない。
もうひとつ、ただでさえ好調のアーセナルのセットピースから、今回のG2で注目されているのはセットピーステイカー。もちろんライス。
最近は彼が蹴ることが増えてきたようには感じていたが、それもそのはずで、『MOTD』によれば、ライスがそれを担当したのはウィンターブレイク以前が20試合中3回だったのに対し、それ以降の4試合では12回も蹴っているという。つまり彼は、あたらしくチームのセットピース担当(右足のインスウィンガー)になったのだった。
個人的には、ティエリ・アンリがコーナーを蹴っていた時代から、チームでもっともゴールできる選手がセットプレイの担当になることにはなんだか違和感があって、最近もボックスで十分ターゲットになれる長身のライスがそれを担当するのは、宝の持ち腐れのように感じてちょっとイヤだったのだが、この現在のアーセナルのセットピースという武器を観ていて、正確なボールを蹴る才能がいかに重要かを実感している。
試合後のアルテタは、ライスはボックスのなかより外からのほうが脅威になれると語っており、長身であっても彼のボックス内でのプレゼンスにはあまり感心していなかったのかもしれない。だが、彼が蹴るボールがあれだけ脅威になるのなら、それでおおいに結構。
このあとトミヤスも戻ってくれば、チームにはさらに大男が揃う。ライスの正確な配球、ゴールに飢えたむくつけき大男たち、そしてヨヴァーの卓越した戦術。
今後もアーセナルのセットピースには期待できる。