試合の論点
アーセナル vs アストン・ヴィラのトーキングポインツ。
アルテタの頑ななレギュラーへのこだわり。悔いを残す結果に
この試合のアーセナルについては云いたいことは山ほどあるような気がしているが、これだけ。
今回のチームセレクションは、やっぱりもうちょっとローテイションを意識すべきだったんじゃないかと思う。仮にわれらが最終的になんとかこの試合に勝っていたとしても、超重要なCLバイエルンが水曜に迫っているなか、レギュラー選手たちの疲弊は避けられなかった。それを少しでも軽減したかった。
とりわけいまのチームにとって重要な選手たち。この試合でも前半キレッキレだったオーデガードは、間違いなくもっとも重要な選手のひとりだが、試合後には「彼には違和感があった」となにやら不穏な気配。彼が万が一バイエルンでプレイしないというのなら、大きな戦力ダウンは免れない。
同様に、サカも前回のバイエルン、今回のヴィラと試合のなかで時間とともにエナジーを失い失速していったように感じる。また出ずっぱりのハヴァーツも、ライスも、ホワイトも、後半のエナジー減退を感じた瞬間が何度かあった。
実際、今回はそこが敗因だろう。アーセナルのチームは後半に走れなくなってしまった。前半ほどの集中力を保てず、ボールの競り合いで、あと一歩の足が出なくなってしまった。前半のパフォーマンスが、あまりにもよかったことも逆に仇になったかもしれない。チャンスがあるときに、確実に決めておかねばならない試合だった。
攻撃モメンタムのチャートを観ても、前半と後半の勢いの差は明白だ。考えてみれば、エメリというマネジャーは前後半で流れを変えるのがうまいひとだったかもしれない。HTのサブも躊躇しないし、基本的に試合中に何かを変える判断が早い。そこはアルテタと好対照。
HTを境にしてここまではっきりと試合の流れが逆転したことについて、試合後にHTのチームへの指示内容を問われたエメリは、何も変更していないと述べた。それが本当なのか質問をはぐらかしただけかわからないが、相手がどうあれ、アーセナルのほうが前半の勢いを保てなくなったのは事実。
アーセナルはこの時期においても、ほとんどフルスクワッドが揃うという奇跡的な状況になっているにも関わらず、アルテタは「勝っているチームは変えない」のポリシーを貫こうとしているようだ。それはこの試合の前にもほのめかされていたことなので、彼の今回のセレクションも云うほど驚きはなかったかもしれない。
だが、アルテタ本人もつねづね述べているように、3日ごとのクレイジーな過密日程を少人数で乗り切るのはほとんど無理で(しかもあのインテンスなスタイルで)、だからこそアルテタもスクワッド全員で戦うと宣言もしていた。それなのに、やっていることはやっぱり今回のようなこと。そこが相変わらずチグハグに思える。
ぼくだって、いまのフォームなチームでそこまで大胆な変更をすべきと主張するわけではないが、少なくともパーティやトミヤスなんかはスタートするチャンスを与えられてもよかったと思う。トミーはともかく、パーティはこんな試合でもベンチに座りっぱなしだったので、じつはわれわれが思うほどフィットしていないのかもしれないが。
いずれにせよ、レギュラーだけではシーズン終了まで戦えないのだから、どこかで彼らをスタートさせて、いまのチームになかに馴染ませることが必要だった。それがタイミング的に今回ふさわしかったんじゃないかと、ぼくは思っていたのである。
We’ve got 6 outfield players with 28+ PL starts already this season.
Man City have 3, Liverpool have 1.
Squad is there in terms of numbers but not quality. If you want to compete on multiple fronts for a whole season, you have to be able to win some games without MØ/Rice/Saka.
— Lewis (@LGAmbrose) April 14, 2024
今シーズン、PLで28試合以上スタートしているアウトフィールド選手の数は、アーセナルが6人。シティが3人、リヴァプールはひとりだけらしい。つまり、それだけアーセナルがレギュラー選手に依存しているということ。シティやリヴァプールの人数とくらべると、異様な多さだ。
レギュラーを固定化する傾向は、アルテタのやりかたとしていまに始まったことではないし、バックアップ選手を含めてチーム全体をうまく使うことは彼のマネジャーとしての課題のひとつとして挙げられることも少なくない。
シティやリヴァプールにくらべてそれほどベンチの信頼度が低い、スクワッドが完成されていないということでもあるのだろう。チームビルディングのフェイズ的には、まだ道半ば。
しかし、仮にそうだとしても、なんとか当面の状況をやりくりしてできるだけスクワッドで個人の負担を軽減しようとするのが、賢いスクワッドマネジメントだろう。アルテタは、レギュラーへのこだわりが強く、そういう視点をやや欠いているように見えるし、今回はそれが裏目に出たと思う。
以前アルテタはサカの燃え尽きの懸念について、シーズン50試合、60試合もプレイするのがトッププレイヤーみたいなことを述べたこともある。しかし、理想と現実は分けて考える必要がある。
今シーズンは、アーセナルのウィンターブレイクが大きな効果を発揮したシーズンになり、2024年に入ってから4ヶ月も敗けずタイトル争いに加わるという快進撃の理由にもなっている。サカもその恩恵を受けたひとり。選手は本来こうあるべきと、いくらべき論を述べたところで、十分なフィットネスがよりよいパフォーマンスをもたらすのは事実なのだ。実際にピッチでプレイする選手たちが、心身ともにフレッシュであることは、間違いなく勝利への近道。それをいちばんよく理解しているのが、ウィンターブレイクを大成功させたアーセナルでもある。
だからこそ、目の前の試合だけでなく、そのあとの試合のことも考え、タフな過密日程の肉体的負担はもっとシェアされるべきなはず。「つねにつぎの試合が最重要」というのは、真摯な姿勢でなんだか真理っぽく聞こえるが、先のことを考えずに目の前だけしか観ていないのなら、それは行き当たりばったりであり、あまり賢いやりかたと思えない。
そして、いまのスクワッドにはそれをやれる余地がまったくないなんてことは全然ない。ほとんど全員揃っているのだから。もしレギュラーのクオリティに多少劣るとしても、フィットネスでそれをカヴァーすることもできる。疲れたトップチームを、元気いっぱいのミッドテーブルチームが苦しめるなんてことは日常茶飯事である。
11人の中心選手が揃ったレギュラーチームじゃなきゃ試合に勝てないようなチームは、持続可能性がない。それにこだわりすぎれば、今回のようなことだって起きる。
先のtwのつづきでは、アーセナルはいまはまだデプスを築いている途中で、ベンチに信頼がおけないのは仕方がないとアルテタに同情しつつ、今後スクワッドがベンチも含めてもっと完成されていったとき、果たしてアルテタは毎試合ベストチームでプレイしたいという誘惑にあらがって、ちゃんとベンチも含めたチームでプレイするだろうか?と疑問を投げかけている。これまでの彼のやりかたを観ていれば、当然心配されることだ。
そこは、アルテタがこのチームを成功に導くためには、間違いなく進歩すべき部分だろうと思う。もちろん、来シーズンはベンチを含めさらにアルテタが信頼できるスクワッドに近づくだろうし、レギュラー固定化なんて忘れるようなスクワッドマネジメントをやるようになるかもしれないが。
現在、PLとCLで二兎を追っているアーセナル。PLはこの週の結果で、シティがかなり有利になったともっぱらの評判。そして、CLもバイエルンとのリターンレグはタフなアウェイで、世間的にもわれわれは勝ち抜け候補だとは思われていない。
この試合の内容と結果で、結局「一兎をも得ず」にならないか、かなり心配になっている。
水曜のバイエルンは、当然フルパワーで臨むしかない試合だが、今回の試合を観る限り、スタートから90分を走りきれる選手は多くない。それとも、ここで満を持してフレッシュなパーティやトミヤス、ESRらがスタートするか? うーん。逆だよなあ。
……あー、なんだかネガティヴなことばかり一気に書いちゃったよ。前半だけならベストパフォーマンスというのはアルテタに完全同意で、勝っていれば最高だったのに。
むしろここまでのアーセナルのポジティヴ面を讃えようという空気もなくはない。タイトルを競う3チームのなかでも圧倒的なこの試合前のスタッツ。
この試合については以上