試合の論点
マンシティ vs アーセナルのトーキングポインツ。
今シーズンのPLタイトルを占うビッグマッチは、レッドカードで台無しに
いやあ、残念というか。ひどいというか。
前半終了まぎわのトロサールのレッドカードで、11人対10人。このタイトルを狙う両チームのビッグマッチでこれはないだろう。前評判でも劣勢だったアウェイチームが2-1で勝っていて、試合はそこから後半ますますおもしろくなるというときに。
今回の試合にかぎらず、このレヴェルのフットボールでは片方の人数が減ったら、ふつうは減ったほうは基本的にはもう守るしかなくなり、ほぼまともな試合にはならない。ましてや、相手は現在世界でもっとも強いと云われるチームである。アーセナルに退場者が出た時点で、事実上試合は終わってしまったみたいなものだ。ぼくでさえ、もう観るのをやめようかと思ったほど。試合後にArseblogを読んでたら同じことが書いてあって、ちょっと笑ってしまったわ。
こんな試合は、誰も望んでなかったんじゃないか。シティのファンですら、後半のチームは、攻撃をやめロウブロックでひたすら守る相手にあんなに苦しんだわけで、むしろアーセナルが11人でそのままプレイしてくれたほうがまだマシだったかもしれない。
また、中立のファンにしてみても、試合の半分は極端な一方通行で退屈極まりないものになっただろう。アウェイチームが時間を稼ぎながら、なんとか逃げ切ろうと奮闘するだけの後半。世界最強のはずが、攻めあぐねるホームチーム。そんな状態が全体の半分だった。金を返せと云いたくなるような。
アーセナルは、あれを非難されたって困る。どんなチームが、あの状況で違う振る舞いができるだろうか。
そして結果は、もちろん2-2のドロウ。アーセナルの2-1での逃げ切りがもうそこまで観えていた残りあと数秒のようなタイミングで、ホームチームのイコライザーが決まるという劇的な試合の終わりになった。98分。
アーセナルのチームの失望は、とてもよくわかる。あんなふうに試合が終わったら、敗けていなくたって敗けた気分になるものだ。あんなになりふり構わず守って、地べたに這いつくばって、もう3ポインツまで手が届く寸前だったのに。まったくプライドもクソもなかった。
試合前は、アーセナルはドロウを狙うだけのチームだなんだと散々文句を云いながら、自分たちは最後の最後でやっとドロウであんなに喜んでる。どうなの?
だが逆に、彼らのそういう喜びぶりが、アーセナルの強さを物語っているようで、まあそこは悪くないかもしれない。彼らもまた、われらと同じように相手に3ポインツ取られるのだけは避けたかったのだ。なぜなら、アーセナルはタイトルを争うライヴァルだから。なんだかんだ云いつつも、そこは認めざるを得ないんでないのかね。
アーセナルがエティハドで最後に勝ったのが2015年で、それ以降は両チームのクオリティ差は、すぐに埋められる気がしないほどには大きかった。それがとくにここ2-3年で、アーセナルがどんどん力を身に着け、チャンピオンの彼らにとりほんものの脅威になろうとしている。
そして今回は、エティハドでのドロウをこんなに悔しがれるアーセナルになったということだ。去年のドロウのときの気分ともまた違う。
これで、エミレーツでのリターンレグがほんとうに楽しみになった。もう、けちょんけちょんにしなきゃ気がすまねえですね。
われらは、このフラストレイションをエナジーに変換できる。そうせねばならない。
「弱腰すぎ」から「卑劣すぎ」へ。アーセナルのシフト
試合後は、とにかくこの試合におけるアーセナルのプレイっぷりが非難されているようだが。
The TelegraphのSam Dean。
Arsenal are not morally compelled to play the way that Manchester City want them to play. So often accused of being too soft, #AFC are now accused of being too nasty. It’s laughable. Arteta’s only obligation is to find a way of getting a result. Comment:https://t.co/fzGIwKNPmc
— Sam Dean (@SamJDean) September 23, 2024
アーセナルは、マンシティが望むようなプレイを道徳的に強いられるいわれはない。
アーセナルは、これまでしばしば「あまりにソフトすぎる」とそしりを受けてきたが、彼らはいまや「あまりにナスティすぎる」とそしりを受けている。これは笑える。
アルテタの唯一の義務は、結果を得る道を見つけることだけである。
とくにシティの選手たちが、後半はとくにリスタートでたっぷりと時間を使ったことなど、この試合のアーセナルのプレイぶりを快く思っていないことは彼らの数々のコメンツからもわかるとおり。今回のそうしたなりふり構わぬアーセナルのパフォーマンスについて、試合後はdark arts(ずるがしこい)やnasty(卑劣)といった単語がメディアやソーシャルメディアに踊った。
(※ちなみに、Optaによればこの試合の実質プレイ時間63分29秒は、今シーズンのPL試合のなかでも5番めに長かったそうで。時間稼ぎをとやかく云われる筋合いはない )
しかし、それはこれまでのアーセナルにはむしろ観られなかったもので、まるで逆方向から批判されているのがたしかに笑えるという。アーセナルにずっと足りなかったずる賢さ、勝ちへの執念。
いまからもう4年の前にもなるのかと思うけど、「アーセナルの弱腰」をどうにかせねばというテーマのエントリをこのブログでも書いたことがある。かつてアーセナルにそういう問題意識はあった。
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アーセナルは自らの弱いイメージを変える必要がある | ARSENAL CHANGE EVERYTHING
ただし、アルテタがそれを変えるまでは、だ。
今回これと似たような指摘は各所でされており、この試合でアーセナルが数々の批判を受けていることは、むしろクラブとチームのメンタリティの変化の顕著なあらわれとして、むしろ好意的に捉えてもいいくらいだと思える。
アルテタは、間違いなくこの数年でアーセナルのスクワッドにそういう意味での強さをもたらそうとしていて、それはフィジカリティ重視の補強戦略にもはっきりと観られたものだ。とくにMFには、ハヴァーツ、ライス、メリーノといった大型選手をつぎつぎに加えているし、FBもティンバーやカラフィオーリなどCBでもプレイできる強度のある選手を選んでいる。身体的には、インヴィンシブルズ以降では間違いなくいまがもっともタフガイが集うスクワッド。もう、われわれはアグレッシブな肉弾戦にもひるむことはない。むしろ、こちらからぶつかっていく。
そして、その変化はフィジカリティだけでなくメンタリティにも及んでいる。
ベン・ホワイトはチームのなかでももっとも有名なdark artsの使い手だし(笑)、いくら相手チームに嫌われようが、まったく気にしないタイプ。今回、ダヴィド・ラヤはあきらかにタクティカルに不調を訴えて、チームがその後の振る舞いを確認するために一度試合を止めてまとまった時間をつくった(※これはアルテタの指示だったらしい。MLSがそれをラヤに伝えてカード)。ティンバー、マルティネリ、カラフィオーリなど、彼らはあの集中を強いられる守備のなかで、ほんとうに足をつったりしていたようだが、タクティカルに時間を使う意図もあっただろう。それでいい。アウェイでも図太くいられることは、重要なことだ。なにしろ相手が嫌がることをやる。
かつて、フレディ・ユングバーグが暫定マネジャーのとき、シティ戦のあとに述べたことをThe Athleticが引用していた。
FJ:われわれが学ぶべきものは、彼らにトランジションのときにやられたことだ。こちらがカウンターというとき、シティはわれわれを止めるのにたとえ5枚のイエローカードが出てもそれをやる。
そこがわれわれが学ぶべきところだ。相手にカウンターのチャンスがあるときに、もっとシニカルになること。なぜなら、そこがわれわれの弱点だからだ。そういうファウルをしなければならない。あれはシティが賢い。
考えてみればタクティカルファウルなんて、もっとも汚いプレイのひとつだが、それもそもそも彼らの十八番である。グアルディオラの弟子であるアルテタはそのやりかたをマスターしているし、アルテタの勝ちへの執念をシティの関係者たちが知らないはずもない。
アーセナルは、これからもどんどんいやらしいプレイをして、どんどんほかのチームから嫌われていこう。それが、漢が天下に見せるべきタマというものだろう。
アーセナルに短期間で2度めの厳罰。判定は公平か? またマイケル・オリヴァー?
シーズンが始まってからたった5試合で、イエロー2枚によるレッドカードが2回め。アーセナルがひとり失っている時間が90分以上(※99分)。まるごと1試合分である。さすがに試合前にこれは想像していなかったな。これは、どれだけ特殊な例なんだろうか。
アーセナルは、これだけの時間を10人でプレイすることを強いられ、その分相手に多くのチャンスをつくられている。多くの損害を被っている。実際、それで4ポインツ失ったようなものだ。むしろ敗けてないのがすごいよ。
この試合のトロサールに起きたことを振り返ると、まず1枚めのカードはしょうがない。あれはあからさまに相手のシャツをうしろから掴んでいるのでカード対象だろう。その処分に異論はない。
問題はトロサールの2枚めのカード。時間は前半の終了間際、53分め。
今回、前後半あわせて17分という長い追加タイムが、1点を追いかけるホームチームに与えられたわけだが、まあそれはひとまずいいか。よくはないけど。
トロサールが相手選手(B. Silva)とのボールの奪い合いで接触し、ファウルのホイッスルが吹かれた直後にボールを蹴ってしまい、これがカード。基本的には、ライスと同じ理由である。今シーズンから厳しく罰せられることが、シーズン前の選手たちにもあらかじめ宣告されていたというクイックリスタートの妨害。相手のリスタートを遅らせる行為。
レフリーのマイケル・オリヴァーは、ここで躊躇なくカードを出した。アーセナルは、これで10人に。事実上、エンタテインメントとしてこの試合が終わった瞬間であった。
この判定がその後も大きな議論になっている理由のひとつには、オリヴァーがホイッスルを吹いてから(吹き始めてから)トロサールがボールを蹴るまでの時間があまりに短かったことがある。Sky Sportsはそれが「0.84秒」だったと確認した。ほとんどすでにボールを蹴るモーションに入っていた選手を止めるのは、さすがに難しい時間ではないだろうか。
当然トロサールには時間稼ぎをする意図はなかっただろうし、左サイドにいたマルティネリへパスを出そうとしていただけかもしれないし、そもそも、本人は試合後にホイッスルは聞こえなかったと云っていたそうである。いつぞやのCLバルサでのRVPの理不尽な退場を想起させる出来事。どちらの試合も相手コーチはグアルディオラだった。なんという奇遇でしょう。
まあ、とくにそれが今シーズンから厳しく取り締まられることはすでに周知であり、ライスの事案同様、レフに選択肢はなかったのかもしれない。レオがホイッスルがなったあとにボールを蹴ったのはまぎれもなく事実だから。
が、だとしてもレフリーとしては試合を維持するためにそれをスルーできたのもまた事実。オリヴァーでさえも実際そうしているのだから。仮に一時的にスタンドで騒がれたとしても、メインレフ権限の「ピッチ上の判断」でどうとでもできた。
直近の例では、彼は先日のリヴァプールで、あからさまなDominik Szoboszlaiのリスタートの遅延行為をそのまま不問にしていることが、アーセナルファンのあいだでも広くシェアされている。彼は、2枚めカードの回避だった。有志の調査によると、彼がボールを蹴り出したのはホイッスルから1.13秒後だったらしい。トロサールよりももっと時間が長いのだから、カード対象になるファウル行為は今回のものよりはっきりしていたはずだ。だがこの試合と違って、2枚めのカードは出なかった。
また、去年のエミレーツでのシティ戦でMateo Kovačićに2枚めのカードを出さなかったのもこのマイケル・オリヴァーだった。これはアーセナルが勝った試合だったが、もし違う結果ならもっと大きな騒ぎになっていたはず。
ハワード・ウェブがPLアーセナル vs マンシティの誤審をほのめかす「彼に2枚めのカードが出なかったのは非常に幸運だった」 | ARSENAL CHANGE EVERYTHING
あのときPGMOLのリーダーであるハワード・ウェブは、Kovačićが2枚のカードで退場がふさわしかったと認めていたし、それをオリヴァーがしなかった理由については「彼は、なにかに過剰反応することによって試合にネガティヴな影響を与えたくなかったのだろう」と、彼を擁護したのだ。もっとも優先されるべきメインレフによるフィールドの判断として許された。
ちなみに、今回またSky Sportsが、その週の試合での議論な判定を振り返る「レフウォッチ」で、この場面についても触れている。PLの元レフリーであるDermot Gallagherの見解。
Dermot Gallagher:(リスタートの妨害でトロサールがカード。その前にはDokuが似たようなプレイでカードを免れている)いや、文句のつけようがない。なぜなら(Silvaへの)ファウルはあったから。そこに疑いはない。もしファウルやプレイの一時停止がなければ、その選手はあのようにボールを蹴り飛ばしただろうか?
ほぼ間違いない、彼はあんなふうにマルティネリにパスはしないだろうから。わたしは彼に同情するよ。なぜなら彼は止めようとしたが、すでにやってしまったのだから。
今シーズンの始まりから、われわれはそれについてレフリーが非常に厳しくなっていることをすでに観ている。彼はそれをよく知っておくべきだった。レフリーは、それを厳しく取り締まると云っていた。それを免れたひとつふたつの例を提示できるかもしれないが、概してレフリーはそれに非常に強固だ。
もしある選手がそれを免れたからといって、べつの選手がそれを正当化できるわけではない。
(Dokuについては)わたしは、あれはリスタートを遅らせたとは思わない。フリーキックは違う場所にあったし、オリヴァーがそれをうしろに戻させようとした。Dokuはレフリーを観て、そのあとつま先でアーセナルの選手に返した。リスタートを遅らせたのではなく、ボールをパスで返した。そこには大きな違いがある。
「ある選手が罰を免れたことによって、べつの選手のファウルは正当化されない」とは正しいことを云っているようで、それこそこのダブルスタンダードを正当化できると思っているのだろうか。
だったら、なぜ厳罰を受けるものと受けないものが同時に存在しているのか。あるときは受け、あるときは受けないのか。実際にそうした判断を行っている現場のレフリー、そしてPGMOLは、そこを説明しなければ納得できない。
PLのレフリーの一貫性のなさは、毎度毎度問われているが、まったく改善される気配がない。どうしてなのか。
ただでさえオリヴァーは、サウジでシティ主催の試合を任されていたり、シティにレッドカードを出したことがなかったり(アーセナルは最多の7枚)、公平性に疑念を持たれているレフリーである。どうして、同じレフリーが同一チームに不利なることを繰り返すのか。
Michael Oliver has sent off an Arsenal player 7 times in his career, more than any other team. 🟥 pic.twitter.com/pGGD6c56YG
— WhoScored.com (@WhoScored) September 22, 2024
テニス界のレジェンドもお冠。
What on earth is going on with football 👎👎👎
— Andy Murray (@andy_murray) September 22, 2024
この今シーズンからのリスタートの遅延行為を厳しく取り締まる方針については、個人的には再考すべきと考えている。
なぜなら、カードになったりならなかったりのすべての同行為について、これはもう選手の神経に刷り込まれた行動と思われるからだ。あれは、これまで死ぬほどフットボールをしてきたプロの選手たちにとっては、考えるよりも先に身体が動くようなほとんど条件反射のようなものだろう。彼らのとっさの行動を見ていればわかる。
もし、PLでレフリーがほんとうに一貫性をもって別け隔てなくこの行為に等しく厳しい罰を与えていくなら、アルテタが云うように100試合で退場者が出てもおかしくない。そんなことをいったい誰が望む?
しかし、現実にはそんなことはありえないし、いまもそうなっていない。根拠なく、あるときは罰せられたり、あるときは罰せられなかったりするだけ。そして不公平感はつねにあり、この議論には終わりがない。そして、なぜかアーセナルはつねに罰せられるほうのチームなのだ。
フットボールのルールづくりは、原則的にゲイムをよりおもしろくする方向でされねばならない。アーセン・ヴェンゲルなら、きっとそう云うはず。
まあ当面は、アーセナルの選手はこの条件反射をやめるトレイニングをすべきかもしれない。ライスとトロサールのこのふたつのレッドカードも、その疑いがゼロなら起きなかったのはたしかだから。レフリーを信じられない以上、すこしでも疑われる行為は慎むしかない。それがいまチームとしてできる唯一のことだろう。
いつものことながら、まったくばからしいことである。
最低最悪の試合でしたね。しかもそれが我らのアーセナルのパフォーマンスに対してではなく、審判や、一部の幼稚なシティ選手に対して。
わたしはこの試合でフットボールがちょっと嫌いになりましたよ。本来エンタテイメントであるはずのフットボールなのに。
そんなアーセナルの外への怒りやら失望やらの中、こうして言語化されているチェンさんには感謝としか言いようがありません。
昨シーズンのリヴァプールも序盤めちゃくちゃ退場してたなと思って調べたら、2節(58分)、3節(28分)、7節(26&69分)に退場者を出してました。
2節のマックアリスターの退場は不当だったと後々出場停止が取り消され、7節はあのVARで取り消されたトッテナム戦という。
アーセナルがこうならないことを願うばかりです、、、