試合の論点
アーセナル vs PSGのトーキングポインツ。
アーセナルの成熟したパフォーマンス。PSGとのギャップを利用
今回は、試合後どのメディアを観ても、アーセナルの成熟したパフォーマンスが称賛されている。もちろんアルテタも試合後には、チームの成熟をたたえた。
試合を観ていたひとには説明の必要もないことだが、それはどういうことかといえば、アーセナルは徹頭徹尾、この試合を自分たちのペイスでプレイをつづけたということだろう。自分たちのやりたいことを徹底して行い、相手のプレイには終始惑わされなかったし、ポゼッションの大半を譲ってもゴールを脅かすことはまったく許さなかった。名より実を取った。
そして、もちろんこのチームがつねに見せているワークレイト/ワークエシック。誰もがハードワークをやめないし、全員が攻撃と守備に貢献しようとする高い意識がある。あらためて、このチームが持つ一体感や高い組織力を見せつけることになった。
ルイス・エンリケもシャッポを脱いだインテンスなハイプレス、泥臭いアグレッシヴなプレイ、それとハヴァーツのゴールに象徴されるような自分たちの強みを活かしたゴール。
とくにハヴァーツによる最初のゴールは、完全に、このチームに抱くアルテタの理想が詰まっているように感じたものだ。トロサールのインチパーフェクトのクロスに、ハヴァーツが抜け目なくスルスルとDF裏へ抜け出し、高身長を存分に活かしたヘッダーで決める。まさにあれがアルテタがハヴァーツに求めていた完璧な9の姿なんじゃないか。彼の特異なフィジカリティを利用したゴール。
そしてチームの2点めとなった、サカのフリーキックからのゴール。あれは、ニアサイドのマルティネリも、オフサイドっぽかったパーティもボールに触らずに直接入ったため若干ラッキーな印象はあるが、またしてもアーセナルがセットピースから決めたゴールということもあり、してやったりの感が非常に強い。フリーキックからのゴールも当然狙っていた。
この試合、コーナーとフリーキックをあわせてアーセナルには9回のセットピースチャンスがあったが、どれも毎回注意深く観察していると、事前に決められた約束事のもとに動いていることが察せられるチームの連携した動きがあり、とてもおもしろかった。
毎回ボールを蹴る直前には、彼らがチームで方針を確認しあっているシーンが見られるように、彼らにはどれだけのセットプレイのオプションがあり、そのトレイニングにいったいどれだけの時間を費やしているのか。今回もニコ・ヨヴァーさまさまである。
試合前、こうしたアーセナルのセットピース脅威に対応するために、元々低身長の選手が揃うPSGはスターティングをあえて入れ替えるのではないかとも云われていたが(172cmのVitinhaではなく189cmのFabián Ruizをスタートさせるなど)、結局彼らはそうしたことは行わなかったようで、アーセナルはそのギャップを大いに利用することができた。毎度のセットピースで、アーセナルのむくつけき大男たちの組織だったルーティーンに、パリの小さきものたちはつねに後手後手だっただろう。
ちなみに、PSGのスターティングMF3人の平均身長は175cmだったということ。190cm前後の大男がゴールに殺到するアーセナルのセットピースで毎回なにか起きそうな気がするわけである。その点では、ルイス・エンリケの決断は報われなかった。
アーセナルは、もちろんこのPSGというビッグチームを倒して得た勝利をCLにおけるすべてのライバルチームに向けての宣言としたかったはずだが、いっぽうで今回のPSGのチームについては、エンバッペが去りデンベレも不在ということで、やはり過渡期あるいは発展途上という評価が優勢であり。ホームチームであるアーセナルの勝利もある程度は予想されていたため、このような試合結果にそこまでの大きなインパクトはなかったかもしれない。
実際彼らはチームもかなり若かったようだ。アーセナルのスターティング11の平均年齢が25.8才だったのに対し、PSGのそれは23.2才。年齢的にはU-23チームみたいなものである。MFでスタートしたWarren Zaïre-Emeryが18才、João Nevesが20才であった(Donnarummaはまだ25才!)。
だから、アーセナルはそういう意味では、身長だけでなく経験のギャップもまた大いに利用したように感じる。今回のチームのお互いの平均年齢は2年ほどの差ではあるが、2年前といえば、この2年間はアーセナルのチームはPLのトップを競うという得難い、特濃の経験を積んできている。
前半は一進一退な攻防でも、アーセナルは決めるべきところではしっかり決めてずっと冷静だったし、2-0でリードした後半は、そのリードを死守するような、まさにゲイムマネジメントをしたという感じで、そうしたところにもチームの成熟した姿があった。あとは、試合に勝つためにやるべきことをやるだけだった。スリップしない。
守ればボールのうしろに全員が下がり、ゴール前に厚いブロックをつくり、相手にチャンスをつくらせない。外野からdark artsだなんだと云われようが、そんなふうに泥臭く守ることをまったく厭わない。今シーズンのリーグアンで20ゴールもぶっこんでいるチームでも歯が立たなかった。これを、ビッグチーム相手だけでなく、どんなチーム相手でもやるのがいまのアーセナルの強さである。
そして、攻めから守りに転じるトランジションでの対応の速さ。誰もさぼらない規律。「オフザボールではヨーロッパベスト」。この日もまた、質実剛健なアーセナルを観た夜になった。われらが、したたかさを称賛される日がやってくるとは。
アーセナルのよかった選手
サカとハヴァーツはまあ置いておこうか。彼らはすごかったが、いつものこと。
今回印象に残ったのは、ティンバーとカラフィオーリ。このふたりのフルバックは、ここ数試合のチャンスでアルテタのハートをがっちりつかんでいるんじゃないかと思わずにいられない。このあと、ベン・ホワイトはポジションにすんなり戻れるかどうか心配したほうがいいかもしれない。もっともティンバーも、この試合でHTで交代になったようにフィットネスはまだ不安定さはあるが。
ティンバーと同じくらいのインパクトか、あるいはそれ以上にさえ思えるのがカラフィオーリ。彼は、ちょっと別格に思えてきた。アルテタが云うようにオーラもある。シティでデビューしてからまだたった3試合しかまともにプレイしていないというのに、存在感がヤバい。トミヤスやキヴィオールには悪いが、彼らはこのオーラや存在感がない。自己主張というか。スター選手の自覚というか。カラフィオーリは、そこが決定的に強い。
いまの優秀な選手が揃うチームのなかでも、どんなビッグクラブも絶対にほしがるだろう選手がウィリアム・サリバだとしたら、カラフィオーリにはそのヴァイブを感じる。年齢に似合わぬ堂々としたプレイはこのふたりに共通しているもので、だからカラフィオーリもまた彼が今後レギュラーにならないようには思えない。LBのポジションはカラフィオーリがつかんだんじゃないか。
それと、今回はパーティがとてもよかったなと。あの狭いエリアでボールを持ったとき、PSGのキツいプレッシングのなかつねに前のオプションを見つけパスをつなげることができる。この試合のなかで、さすが、と思った瞬間が何度もあった。今シーズンの彼のベストパフォーマンスという声もある。彼はもちろんチームのなかでももっとも経験あるひとりであり、ヨーロッパでの経験も豊富。彼のおかげもあり、非常に頼れる、安心感のあるミドフィールドだった。
パーティといえば、つい最近までファンのあいだでも、高年齢で(31才はこの日の両チームのなかでも最年長)走れなくなったとかピークを過ぎたとか、さんざん云われていたのだが、ここしばらくは大きなエラーもなくとても安定しており、MF危機のチームに貢献している。最近は試合で意識的に観るようにしているが、守備の背走もけっこうがんばってる。
フィットネスの維持も彼の大きな課題ながら、今シーズンはなんだかんだ、リーグカップ以外すべての試合でスタートしている。この試合は彼にとって今シーズン8試合めだった。先日は「じつは彼がアーセナルで5試合連続でスタートするのは初めて」のようなスタットが共有されていたが、それ以降もこうしてケガせずプレイし安定したパフォーマンスを発揮しているのは、地味にすごいことだ。
一昨日だったか、すでに一年を切っているパーティの契約について、アーセナルはとくに契約延長も働きかけていないというリポートがあった(それはジョルジーニョも同じ)。彼は高給なので、クラブとしては契約延長はしたくないのかもしれないが、このようなパフォーマンスをこれからもつづけるなら、あるいはアーセナルがこのあとMFエリアで大きな改造をするつもりがないのなら、短期の延長は検討すべきかもしれない。この極薄スクワッド事情だと、危険すぎて1月に売却もできないので、来年夏にはフリーエイジェントになってしまう。今回のようなパフォーマンスを観ると、それは惜しいように思える。
メリーノについてもなにか書きたいと思うものの、残念ながらあんまり印象がない。後半はちょっと退屈だったので寝そうになってよく観てなかったかも(薄情)。
まあ彼はこれからだろう。サウサンプトンでスタートするんだろうか。
この試合については以上
そういや試合中、スタンドにいたピレスがカメラに抜かれていて、彼の横にいた女性は娘? 眉がそっくりで、ちょっと笑ってしまった。
さて、アーセナルのつぎの試合は土曜のPLサウサンプトン(H)。2週間のIBに入る前の最後の試合。この一連のタフな期間の最後は勝利でしめくくりたいですねえ。
ではまたプレビューを書くので、お時間あれば読みに来てください。
COYG!