試合の論点
インテル vs アーセナルのトーキングポインツ。
クリエイティヴィティなし。クロスボール頼みのワンパターンな攻撃があだに
試合がスタートしてからのアーセナルは、ニューカッスルでの敗けを含めたこれまでの試合の悪い雰囲気を引きずってしまっている感じだった。ミスはやるし、あまりにも簡単に相手にビルドアップを許す。いつものようにチームで組織的に動けていない感じ。
そのおかげで序盤ははっきりとしたインテルの時間で、ぼくのメモによると、アーセナルの最初の攻撃は13分過ぎを待たねばならなかったほど。いっぽうインテルはそれまでに3-4回のチャンスをつくっている。彼らの最初のショットがバーにヒットしたときはヒヤリとした。
ただ、それ以降は徐々にアーセナルがボールを持ちはじめ試合を支配的に進めていくことになる。とくに後半は、ホームチームのポゼッションは30%を割った。彼らが前半終了間際にリードしたことも、その試合展開に大きく影響したのかもしれない。
この試合のアーセナルの問題は、いくらボールを持って試合をコントロールしても、効果的な攻撃につなげられていなかったことだろう。
アーセナルのショッツは20(SoTは4)。アーセナルがCLで20以上のショッツでゴールできなかったのは、2006年以来とか。
20 – Arsenal attempted 20 shots in this match, their most without scoring in a single UEFA Champions League fixture since November 2006 against CSKA Moscow (23). Frustration. pic.twitter.com/NSHrfrbxTR
— OptaJoe (@OptaJoe) November 6, 2024
そして今回の試合でもっとも印象に残っているのはクロスボール。ミケルにたまに発現する、デイヴィッド・モイーズの魂が乗り移ってしまったやつ。
アーセナルのクロスは、インテルの5に対し、驚きの46。それだけのボールをゴール前に放り込んでいて、コンヴァージョンゼロとはこれいかに。
個人のクロスは、マルティネリが5/13で、ひどいのがサカの3/19。いくらクロスボールを上げても、味方にボールが届いてすらいない。いまアーセナルの攻撃は、このふたりに過度に依存しているのだから、彼らが精度の低いクロスマシーンになってしまっていたら、それは戦略的に間違っているということなんじゃないか。
アーセナルはコーナーキックも13もあり、ひとつも決まらず。セットピースFCはどこへ? あんなに機会があって、今回は毎度のやりかたにあまり変化も感じなかった。
だが、むしろあれだけボールを支配されて、その放り込みの雨あられに耐え続けたインテルの守備を称賛すべきかもしれない。彼らは、守りかたを知っていた。
イタリアンチームのメンタリティはああいうものかもとも思う。イタリア人は1-0最高らしいし。守ることが大好きな伝統。おれイタリアのサッカーには詳しいから。5-3-2できっちりブロックをつくって、1点を守り切る気マンマンだった。カテナッチョには勝てなっちょ(やけくそ)。
それでもアーセナルのようなチームはそれを崩すことがミッション。少なくない試合で相手はゴールを守ることに専念するのだから。したがって、今回の試合は最後までそれができなかったのが敗因だろう。わかっていながらいつまでもチェンジオブペイスできず、膠着状態に陥ったまま試合を進めてしまった。相手の思う壺。
アーセナルのMF再編とワニエリの機会
今回オーデガードがいちおう復帰したことで、これからある程度はクリエイティヴィティも改善されるとは思うので、そこに安堵はある。
だが、これまでのアーセナルのクリエイティヴィティの欠如については、オーデガード不在でしょうがない部分もあるが、彼がいない期間はしょうがなかっただけで済ませていいとも思わない。それはもっとどうにかできたと思いたいし、どうにかしてほしかったと思う。
昨日、ArseblogのLeft eightに関するブログエントリがなかなか示唆的だったのだけど、評価はオーデガードの復帰を待つ必要はあるにせよ、メリーノはL8でまだ成功の片鱗は見せていないし、夏にSeskoに行っていたということは、あまりワークしないっぽいハヴァーツがいまごろL8だった可能性もありで、ジャカが8でブレイクしたシーズンからここまで、結局チームはあのときの輝きを取り戻せていないのだよね。その効果もあるのか、ネリもいまいち安定しない。ライスの8とて、あのときのジャカよりハマってはいない。
かつて完成されたみたいに見えたMFは、ジャカの移籍で再編されていまも試行錯誤をつづけていて、こんなふうに機能不全(的)に陥ったりもしている。
メリーノとオーデガードのソシエダコンビで、どんなケミストリを見せるかはこれからの期待として、オーデガード不在期間にもっとやれなかったかという意味では、やはりイーサン・ワニエリのことを考えないでいられない。
今回ぼくだけじゃなく、多くのファンが期待しただろうワニエリが出てきたのは、最後の10-15分。短い。もっと観たかった。彼はよくなかった?
ボールを持ってライン間の狭いスペイスに入っていくみたいなプレイは、あのときの膠着した雰囲気のなかチームに欠けていたもので、彼のプレイに一筋の光が見えたような気すらしたものだ。彼は違うことをやろうとしていた。それが、あのチームに足りないピースだったんじゃないかと。だが時すでに遅し。あの96分のショットが決まっていたら、彼の人生が変わるくらいのインパクトがあったろうが、そんなにうまくはいかない。
試合前、ぼくはアルテタに勇気をもって彼をスタートから使ってほしいと書いたのだが、アルテタは無難なほうを選んだ。責任あるマネジャーの行動としてふつうのことだから、べつにそのことを責めるわけじゃない。
でも、この試合だけじゃなくこれまでの試合の流れや今後の試合、それともっと大きな絵を描いてシーズンやスクワッド全体のこれからを考えると、この試合に限らず、いまリスクをかけてワニエリにもっともっとチャンスを与えることは理にかなっていたはずなのだ。このチームとクラブの利益のためにも。
オーデガードひとりがいないだけで、こんなにインパクト受けるような脆弱性はビッグクラブではあってはいけないし、万が一そうなったときの解決策は必要。オーデガードのあのケガが完全に偶発的だったように、つぎいつああいうことが起きないとも限らない。チーム全体のスタイルを変えないのなら、オーデガードの代替は、やはりいまのチームのなかではワニエリがもっとも適任。
それに、リスクとはいっても、ワニエリをいま起用することは、もうそこまで冒険じゃないだろう。彼は、これまでの短いプレイ時間でも、シニア選手のなかでどこまでプレイできるかは見せてきた。今回のパフォーマンスなら、ちょっと調子を落としているっぽいトロサールをワニエリに変えてもよかったように思う。CLのほうがPLよりまだ冒険できる機会でもあるし。
週末のPLチェルシーでワニエリのスタートを予想するメディアもあるが、果たしてどうなるか。アルテタはファンに若い選手の起用を焦らないでほしいと思っているみたいだけど、だったらこんなパフォーマンスを見せてはいけない。
ふたつのペナルティは不当?
試合後のアルテタが不満を表明しているふたつのペナルティについて。奇しくも、両方ともメリーノがらみだった。
ひとつは、メリーノのハンドボール。こちらはペナルティ。
もうひとつは、メリーノの後頭部を相手GKが(ボールに触れず)殴ったもの。こちらはペナルティにならなかった。VARの介入もなかった。
Inter goalkeeper Yann Sommer completely missed the ball and instead made contact with Mikel Merino’s head while attempting to clear an Arsenal cross.
VAR did not intervene after the referee let it go 😮 pic.twitter.com/Ozg3czxumt
— ESPN UK (@ESPNUK) November 6, 2024
まず、ひとつめはアルテタの主張はぼくは正当だと思う。各チームに伝えられていたという、今シーズンのPLにおけるいくつかルール改訂のなかに、ペナルティボックス内でのハンドボールは厳しく取らないというのがあったから。同じく今年からの新ルールであるリスタートの遅延のようなものは、厳格に運用され始めている。
メリーノの手がボールに当たっているのは確かにはっきりしているが、あの手が不自然な位置だったかどうかは議論の余地があるし、そもそも選手があの至近距離でボールに反応するのは無理。故意性はあきらかにかなり低い。もともと、こういうタイプのハンドボールの不当なペナルティを避けるためのルール改訂だろうという。わざわざハンドボールの適用外をルールとして明確化した。
それと、Sommerがメリーノの頭をパンチした件。こちら、要するに彼がボールに行かず(触れず)メリーノの頭をめがけてパンチしているので、ペナルティ対象だろうという。
こちらについては、ちまたの議論を観ても、ほとんどのひとがSommerはボールに触っていないことを前提に話しているようであるが、あのシーンをスロウ再生したクリップを観ると、ボールはメリーノの頭に当たったあとに、ほんのかすかにSommerの手にも当たっているため、「GKはボールに行っていない」という主張はやや弱いかもしれない。「ボールに<先に>触れていない」でペナルティを主張できるなら、正当? ここはルールを確認しないとよくわからない。
しかし、この手のボックス内での交錯は試合のなかではしばしば目撃するところで、だいたいGKの立場が強い、守られているように思われる。多少の過失なら許されるというか。だから、メリーノのハンドボールにくらべるとこっちは無理筋かなあとは感じる。
と、今回もペナルティに苦しまされる結果になったものの、これもフットボール。われらにとり、より大きな問題は、仮にメリーノはハンドボールじゃなかったという主張が通ったとしても、せいぜいがドロウの結果だったということ。引き分け(1)は、勝ち(3)より敗け(0)に近い。インテルのようなクラブが相手といえど、この試合は勝たなきゃいけなかった。
この試合については以上