試合の論点
PSV vs アーセナルのトーキングポインツ。
ゴールできないはずのアーセナルがアウェイで7ゴールの爆勝。勝因?
7 – Arsenal are the first team in UEFA Champions League history to score 7+ goals away from home in a knockout stage match. Narrative. #PSVARS pic.twitter.com/bRoMGxhoIf
— OptaJoe (@OptaJoe) March 4, 2025
7・アーセナル。UCL史上、ノックアウトステイジのアウェイ試合で7ゴールは史上初。ナラティヴ。
レギュラーたちの度重なる負傷でアタッカー危機に陥っているアーセナルは、PLの直近2試合でひとつもゴールできず、この重要な時期に無惨にもポインツを落とし、PLのタイトル争いから脱落したばかり。誰もが、この試合のアーセナルの攻撃には疑念を抱いていたはず。それがここしばらくのアーセナル界隈をめぐるナラティヴだった。
それがどうしたことか、ストライカーもいないチームなのに終わってみればアウェイで7つもの歴史的な大量ゴールを決めて、圧勝してしまった。この試合結果を予想したものはさすがにいないだろう。それどころかぼくなんかは、最悪の結果も覚悟していたくらいである。
アーセナルにいったい何が起きたのか。
この問いに対する答えは、試合を観ていたアーセナルファンならわりとシンプルに導き出せるように思える。それは要するに、PSVがアーセナル対策をほとんど意識していなかったからだろう。自分たちの強み(攻撃力)を活かすことを優先した。これに尽きると思う。これは間違いなく、最近われわれが苦しんでいた試合とはだいぶ違う様相の試合だった。
90分のポゼッションはPSVがアーセナルを上回っているし、ショッツも12 v 15と拮抗している。国内では強者ゆえに、そもそも相手に合わせるという発想がなかったのかもしれない。
試合前のブログエントリで、「PSVが自分たちを過信してアーセナルの強みを消す方向でプレイしないなら、そのほうがアーセナルにはありがたい」のように書いたが、まさにそういうことが起きた。
そしてその結果、攻守が頻繁に入れ替わるようなオープンな試合になり、最近のアーセナルが苦しんでいた、攻守の役割が固定化され、展開が硬直化するような試合とは全然違っていて、そこからアーセナルは面白いようにつぎつぎとゴールを決めた。ゴールだけでなく、チームプレイ全体もアルテタが述べたように、まさにフロウを感じた。テンポとスピードがあり自由で楽しそうだった。これは最近国内では観なかったものだ。
それを支えたのが、対戦相手のPSVだったのが皮肉なところ。彼らのプレイテンポは速く、アーセナルはそれにうまいこと乗った。ピッチ上の空気が淀むことなく、いい具合に活性化し新鮮な酸素が供給された。結局フットボールは相手あってのスポーツで、その試合がどういうルックになるかは相手がどうプレイするかも大きく影響する。あらためて実感した。
この試合前のアルテタの記者会見で、「試合の支配がむしろロウブロックを招いている」というやりとりもあったように、アーセナル世界ではそのような問題意識はある。そして、この試合の攻撃モメンタムのチャートを観ても、試合を通してアーセナルが一方的になる時間はほとんどなかったと云ってもよい。アーセナルがボールを支配して、堅牢なロウブロックを攻略するみたいな見飽きた光景はこの試合にはなかった。
お互い交互に自分たちの時間があったことで、逆にそれがてきめんに功を奏した。少なくともアーセナルの選手たちには非常にやりやすかった。
ふつうは、攻撃する時間が長ければ長いほどゴールするチャンスは増えるのが自然と考える。だが、それは正しくない。いくらボールを持って試合を支配したところで、相手がゴール前に人数をかけて閉じこもれば、それだけ試合は難しくなる。
フットボールはゴールを決めねば勝てないスポーツであり、ボール支配がかえって自分の首をしめることもある。それが最近のアーセナルに起きていた状況だったし、なんなら相手もそれを利用してきた。
今回の試合の大量ゴールは、アーセナルがホームで5ゴールを奪った2月のPLマンシティが思い起こされる。
そこからここまでの対戦相手を振り返るに(※すべてのコンペティション)、ニューカッスル、レスター、ウェストハム、フォレスト、この4チームはまずアーセナルの強みを消すことをかなり意識していて、シティと今回のPSVのようにたくさんのゴールを奪った試合とは対照的に思える。とにかく攻撃のためのスペイスを与えない、インテンスなプレスでやりたいことを邪魔しテンポ/リズムを与えない、そのようなミッドブロック/ロウブロックにアタッカー不足のアーセナルはとくに悩まされている。
直近6試合で、アーセナルは強みを消そうとしてきた相手(4チーム)には2ゴールしかできず、自分たちが主導権を握ろうとした相手(2チーム)には、12ゴールをぶっこんでいるという事実。ポゼッションもこの6試合で相手がアーセナルを上回ったのは、シティとPSVだけだ。
これは、もうそういうことだろう。わかりやすい。
このことから、われわれのCLの今後に期待できるのは、このあと対戦するチームは基本的には強い相手しか残っていないので、自ずとこういう試合になるであろうということ。なかにはアトレチコやインテルのようなチームもあるにせよ。
もちろん、いまのシティやPSVよりももっとクオリティあるチームなら、それはそれでアーセナルは苦労するだろうが、きっとアーセナルの選手たちはそのチャレンジを歓迎するだろう。
相手が自分たちのやりたいプレイを優先しようとするなら、それは望むところ。真っ向勝負なら、われらはかなりいいところまで行ける。この試合でアーセナルは、そういう自信を得たんじゃないだろうか。
このあとのPL、マンUもチェルシーも相手の強みを消すことを優先するチームじゃないから、そっちも期待できそうだ。
7ゴールを振り返ろう!
このブログはゴールにまったく触れないなど、毎度けっこうゴールを軽視しているので、今回はせっかくだから歴史的7ゴールをひとつづつ振り返ろうか。
まずは、ゴール以前にこれ。9分のオーデガード。VARでもおとがめなし。いや、ふつうにダメなやつだろ。ペン1の貸し。
— The AFC-Chan 🇺🇦 (@NewArsenalShirt) March 5, 2025
ゴール1:ジュリティン(18分)
MLSのセンターサークル付近でのがんばりから。相手のプレッシングのなか、サリバとのパス交換でMLSがボールを奪われそうになるところを体勢を崩しながらも粘ってキープ。これぞMLS。パスは左サイドのトロサールへ。
トロサールがボックスのライスへナイスパス。背後からプレッシャーを受けるライスは、ボールをキープしつつゴールからやや離れると、身体をひねってバックポストへやまなりのクロス。
ティンバーがNoa Langのマークの上からヘッダーでショット&ゴール。やや苦し紛れにも見えたが、結局絶妙なライスのクロスボールになった。
元アヤックスのティンバーがPSVのホームで決めたのは象徴的。このゴールの直前には、PSVのクロスバーにヒットするベストチャンスがあったので、PSVにとってはよけいに痛い失点だったはず。
ゴール2:ワネーリ(21分)
JTのゴールから3分後。
トロサールの鋭いスルーボールがボックスの侵入したMLSにピタリと合う。MLSは対峙する相手DFとの1 v 1でフェイントをいれつつ、低いクロス。ニアポストにいたワネーリが左足ダイレクトでズドン。
個人的には、この試合でこれがもっともしびれたゴール。ワネーリの迷いのない足の振り抜きも美しかった。あれは信頼。
⚽️ Nwaneri
🅰️ Lewis-SkellyTwo English teenagers have combined for a goal in the Champions League for the first time in the competition’s history. 💫 pic.twitter.com/DrHSROzgVl
— Squawka (@Squawka) March 4, 2025
CL史上、英国のティーンエイジャーがふたりでゴールを決めるのは初めてという。これもまた記録になった。
しかし、そんな記録よりも、彼らが子どものころから10年も親友やっていて、愛するクラブにいっしょにここまで登りつめて、CLという最高の晴れ舞台でふたりでゴールというのがなによりアツい。
ゴール3:メリーノ(31分)
ジュリティンとメリーノが絡んだ右サイドのわちゃわちゃから。メリーノのスティール。相手DFの股間を抜く落ち着いたショット&ゴール。
このゴールについては、ゴールに至るまでのビルドアップのオフサイド疑惑のVARでしばらく時間がかかって、結局認められた。
審議していた場面は、ティンバーからメリーノへのパス試みで明らかにメリーノはオフサイドポジションにいたのだが、それがオフサイドとして認められなかった理由はよくわからない。実際メリーノにはパスは通っていなかったから? でも、逆の立場なら許せない判定かもしれない。
※PSVがゴール(P:43分)
相手コーナーの守備でパーティがLDJの首に手をかけてしまってペナルティ。いけませんねえ。これがなければクリンシートだったのが悔やまれる。そして3-1で後半へ。
ゴール4:オーデガード(47分)
右サイド、ティンバーのスロウインをメリーノが胸で受けると、密集地帯でプレスのなかで、右タッチラインのワネーリへ。1 v 1から縦へ突破し右足でゴール前へ低いクロス。この絶妙なクロスをGKがはじいたところを真正面にいたオーデガードが詰めてゴール。イージー。4-1。

このゴールはワネーリのクロスの貢献度が高いだろう。彼がボールを送った先にはアーセナルの選手はいなかったが、鋭い弾道のクロスボールに相手はパニックになった。
この日のPSVは、PLクラブと違い、彼のことを特別に気にしている様子もなく、わりとやりたいことをやらせていたように見える。左のカットインサイドも自由にできたし、このような縦への突破もあった。こうして彼のクオリティがヨーロッパにもバレていく。
ゴール5:トロサール(48分)
そのわずか1分後。
アーセナルはカウンターっぽい状況からボールをキープ。左サイドで、トロサールとカラフィオーリがパス交換、トロサールの絶妙なバックヒールがカラフィオーリへ。そして今度は、カラフィオーリからボックスに侵入したトロサールへパス。GKとの1 v 1から右足で技ありのゴール。
アーセナルはなんと後半始まって3分のあいだにふたつゴールを決めてしまった。これで5-1。試合をほぼ完全に殺した。
MOTMのファン投票でも選外で、試合後はトロサールについてはあまり語られていないように見受けるが、彼はMOTMにふさわしいくらいのパフォーマンスだったように思える。間違いなく、こういったオープンで速いテンポの試合の恩恵をかなり受けたひとり。非常にシャープだった。アシストこそ記録していないものの、プリアシストがふたつある。
ここで試合は5-1となり、お互い集中力を失ったところもある。
このあと試合はエンドトゥエンドのかなり大味な試合になり、アーセナルは相手の攻撃も許した。だが、堅牢なアーセナルの守備の前にPSVはシンプルなクロスボールを送るしかできず。ボックスで跳ね返されるだけ。このあたりは、まるで悪いときのアーセナルの攻撃を観ている気分にもなった。
68分のLDJ。わかるよ。ホームで5失点はツラい。
ゴール6:オーデガード(74分)
試合の大勢は決して、あとは終了まで時間を費やすだけとなり、アーセナルの悠々としたパスまわしにアウェイサポーターのオーレがこだまするなか、メリーノがファイナルサードめがけて走り込んでくるオーデガードにやさしいパス。
ランの勢いを殺さないオーデガードはそのままボールを持ってひとり深くまで侵入し、ボックス際からショット&ゴール。正面にいた相手GKに触られたものの、勢いが勝った。6-1。
ここまでに多くのホームサポーターがスタジアムを後にしていたようだが、それでも残っていたPSVサポはけっこうすごいと思う。忠誠心。
ゴール7:カラフィオーリ(85分)
ライスからパスを受けたオーデガードの芸術的スルーボールが、ボックスにランするカラフィオーリにピタリ。ブーツのアウトサイド。絶妙な加減の強さがまさにクリエイターによる完璧な美しいラストパス。
そしてあのポジションから弱足の右足でフィニッシュ。あのタイトなアングルからボールの勢いが計算されたショット。いまのアーセナルのチームのなかでもっともフィニッシュ精度が高いのがカラフィオーリ説。技あり。アルテタも試合後に「9のラン」と彼を絶賛した。
7-1で試合終了。めでたしめでたし。
レフトバックはスケリーよりカラフィオーリスタートのが良いかなと
スケリーはまだ17なんで未熟な所が多いし、それを上手く育てないと
いつも楽しみに読ませてもらってます。
ウデゴーがこのペースでどんどん復調してほしいところです。キャプテンのパス成功率の話ですが、チャレンジングなパスの数増えると下がると思うので、むしろ良い兆候なのでは?と思ってます。
ユナイテッドのブルーノなんかも成功率はそれほど高くなかったような…。