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メスト・エジルという異能。アーセナルでの複雑な5年間を総括する

いろんなメディアに寄稿しているタクティカル・エキスパート、マイケル・コックス。彼によるエジルのアーセナルでの5年間の総括がESPNに掲載された。

エジルを巡るいくつかの論点が指摘されていて、なかなか興味深いと思う。

読むついでにざっと訳してみよう。※見出しは訳者による。



エジルの複雑な5年間。マイケル・コックスのエジル評

アーセナル待望の大きなサイン。だが……

アーセナルがエジルとサインしようとしていた5年前、アーセナルがメスト・エジルのような大物選手の獲得を渇望していることを疑うものはいなかった。

しかしなんだかんだいって、12/13シーズンのアーセナルのアタッキング・カルテットはとてもバランスが取れていた。オリヴィエ・ジルー、フィオ・ウォルコット、ルーカス・ポドルスキ、そしてサンティ・カソルラ。それぞれのプレミアリーグでのゴールも二桁に届いた。とはいえ、アーセナルでいつも必要とされているタイプの選手こそが、やはりアーセナルには必要だったというのが共通の理解でもあった。ソリッドなディフェンシヴ・ミッドフィルダーに司令するセンターバック。あるいはトップクラスのゴールキーパーと、もっと機動力のあるセンターフォワードも。

しかしながら、フリーで獲得したヤヤ・サノゴとマシュー・フラミニというふたりの補強を除いて、この夏にアーセナルがお金をかけて補強したのがエジルだった。それは大層な金額だった。42.5Mポンドは、5年にも渡る未曾有のインフレ状態にあった移籍市場のなかで動く金としてはとくに過大というわけではなかったが、アーセナルにおいてはその前に費やした最大の移籍金の3倍にも及んだ。

エジルは当代一のタレントとして認識されており、アーセナルが財政的にも戦術的にも例外を認めるほどで、選手個人にそれほどの大きな経費を使うこともこのときは厳しく制限しなかった。それはアーセン・ヴェンゲル時代ではもっともエキサイティンな契約であり、エジルはこれから来るべくクラブの命運を託されることとなった。

それから5年、エジルのアーセナルでのインパクトは混合されたものとなっている。概して彼はいいパフォーマンスを見せてはいる。50のプレミアリーグでのアシストは彼の創造性を示すものだし、3つのFAカップのメダルは投資に見合うリターンだ。とくに彼が来る前のアーセナルでは数年間ものあいだトロフィ獲得に失敗していたのだから。だがエジルにはいまだ賛否両論がある。彼は無気力な素振りを見せてはしばしば揶揄されているし、プアなボディ・ランゲージとフィジカル・プレゼンスの欠如、またより深刻な問題として彼を管理できないアーセナルのマン・マネジメントの問題も議論されていたり、あるいは正しい戦術的システムについてもそう。

エジルの偏屈でユニークなプレイスタイル

エジルの特異なところは、こんなにも名声のあるフットボーラーであるにも関わらず、彼のとくに優れているところといえば、フットボールのたったふたつの側面しかないということだ。彼はスペースを見つけることについては並外れている。そして彼のセンターフォワードへの鋭いパス能力はプレミアリーグでも並ぶものがいない。しかしほかの側面では、エジルはむしろ問題のタネになってしまう。彼はつねに得点するわけではないし、彼のプレッシング能力には疑問がある。試合を支配しようと中盤深くまで下がるようなことも稀だ。エジルはファイナルサードの選手であり、ライン間の選手であり、純粋なアシスターだ。しかし、彼は彼の周りの選手たちにとっても正しい選手でいる必要がある。

スタティスティクスでは、エジルはジルーと相性がよかったことが示されている。エジルの50のPLでのアシストのうち14がフランス人へのものだった。多くはセットピースだったが。また別の部分ではジルーとエジルはうまくいっていなかった。ある意味で彼らは似た選手で、裏抜けしようとする選手の近くでプレイしたがるリンクマンでもある。エジルはライン間でボールを受けるが、ジルーは敵のオフサイドラインを試すようなプレイはしない。ジルーはゴールに背を向けてボールを受けるタイプで、エジルはジルーがつくったスペースに飛び込むよりも、少し後ろめで待つようなタイプだ。アーロン・ラムジーが中盤から走り込んでくるようなとき、ときどきこれは素晴らしくうまくいった。しかし、このフロントのふたりだけ、ジルーとエジルでは決してうまくいくことはなかった。

エジルがピュア・スプリンターと組んだらどうだったかと考えるひともいるかもしれない。たとえば、セルジオ・アグエロのような最後のディフェンダーといつも肩を並べているような。しかしアーセナルのスピードのある選手はまったく輝けなかった。アレクシス・サンチェスはアップ・フロントでのプレイを好まなかったし、ウォルコットやウェルベックは怪我に苦しんでいた。アレクサンドル・ラカゼットも、裏抜けするよりはエジルに向かっていく傾向がある。

エジルのためにアーセナルが犠牲にしたもの

エジルはナンバー10のシャツになってすぐ、ほとんどいつもナンバー10役をやるようになった。それまではときどきほかの選手もそれをやっていたものだった。14/15シーズンのフラストレイションがたまるチェルシーとの0-0ドローが示しているように、エジルのために3人の選手たちが基本的に間違ったポジションでプレイしていた。カソルラは深い位置にポジションを移され、彼はうまくそれに適応したが、彼のアーセナルでのベストフォームはエジル役をやっていたときだ。彼はアーセナルでの最初のシーズンにはPOTSに選ばれていたのだから。

カソルラはラムジーと並べてプレイさせるような選手じゃなかったので、13/14シーズンにCMでセンセイショナルなフォームを見せたラムジーは、右ワイドにポジションを移された。

エジルのために脇に追いやられた3番めの選手は、セスク・ファブレガス。2014年にバルセロナから退団するとき、ファブレガスはエミレーツに戻りたがっていた。しかし、アーセナルはすでにそのポジションの選手が過多で、ヴェンゲルでさえさらにクリエイティヴなミッドフィルダーのために席を用意しようとはしなかった。ファブレガスは結局代わりにチェルシーに入団し、エジル並みのアシストを記録してふたつのリーグタイトルを取ったのだった。

プレスするゲームメイカーというトレンド

エジルの不幸は、プレミアリーグがここ数年で圧倒的にプレッシングスタイルに支配されつつあるということだ。エジルはワークレイトで有名なわけじゃない。ロベルト・フィルミーノ、クリスチャン・エリクセン、あるいはケヴィン・デ・ブルイネたちとの比較では、彼はときどき敵がポゼッションしているなかでは足手まといにすらなってしまう。2014年にアンフィールドでリヴァプールに5-1で蹂躙されたとき、ガナーズはタイトルレースのためにリーグトップにいなければならなかったその日、敵のプレッシングにもっとも圧倒されてしまったのはエジルだった。ふたつの譲歩を引き出した責任があったというのに。プレッサー兼プレイメイカーたちの時代において、エジルはプレミアリーグのビッグクラブのひとつにおいて、フリーロールを許された唯一の選手だった。

エジルのベストフォームはモウリーニョ時代

すべてアシストのためだといって、エジルのアーセナルでの素晴らしい瞬間だけをピンポイントで指摘することは難しい。FAカップ決勝での彼のパフォーマンスは決定的というよりは便利というべきだったし、2014年のアーセナルがまさに改善を見せたハル戦では、エジルがエクストラタイムで犠牲になった。

彼個人の受賞歴には、いくつかの興味深いストーリーがある。彼はジャーマニー・ナショナルチーム・プレイヤー・オブ・ザ・イヤーを2011、2012、2013、2015、2016にノミネイトされていて受賞していて、本来ワールドカップの勝利においてもスターマンでなければならなかった。しかし、まぎれもなく彼はそうならなかった。それどころかベンチに置き去りにされ、散発的に左から出場するだけだった。もっといえば、エジルは2010から2013のあいだ、バロンドール候補の常連だった。いつも11位と16位のあいだで終わったが。彼はそれ以来そのときの活躍を見せていない。そして、これらのアウォードはアーセナルではなくレアル・マドリッドにいたころの彼のベストフォームを反映したもので、ヴェンゲルというよりはジョゼ・モウリーニョ時代のものだ。

彼がアーセナルのシャツを来た5年間で、一度だけちゃんとトップクラスのシーズンがあった。2015/16シーズン。彼のアーセナルでのキャリアで一度だけPOTSに選ばれた年で、また6人のPFAのPOTSのショートリストに載ったのもこのときだけだ。シーズンのなかばには劇的にフォームが落ちてしまったけれど、シーズン19アシストはただごとじゃなかった。そのうち16アシストは年をまたぐ前のものだったが。この年、アーセナルはつまづいて、春にはレスターにリーグを譲った。

エジルは、いまだ並外れた選手だ。それに彼の強さは、彼の弱みよりも、もっと試合を決められるものだ。アーセナルは、彼のクラブへの貢献を反映して、今年の始めにはこのジャーマンと莫大な新契約を結ぶ決断をした。そして彼のジャーマンNTからの引退の決断。あと数年、アーセナルは彼のフレッシュなフィットネスの恩恵を受けるかもしれない。エジルはいまだ懐疑的な意見を覆そうとしているし、アーセナルはチャンピオンズリーグに戻ることを目標にしている。チャンピオンに返り咲くよりもだ。エジルはこの5年のアーセナルに大きな影響を与えてきた。しかし、それは彼らが彼の獲得で期待したような道ではまったくなかった。

以上。

どうだろう。エジルが入団以来期待されていた活躍ができていないというのは、ファンができるだけ目を背けたい事実ではないだろうか。アーセナルにおけるエジルという選手の影響をよく整理していると思う。

雑感

このなかでもっとも重い指摘は、得意なことがたったふたつしかない(スペースを見つける、フィニッシャーにパスを出す)ということ、それと積極的にプレッシングにも参加するプレイメイカーが活躍する時代で、ライバルたちに取り残されつつあるというところだろうか。個人的にはどちらも異論なし。

攻守のどの局面でもチームへの貢献が求められ、なんでもできるとかなんでもやろうとするみたいな選手が重宝されるなかで、攻撃でしか貢献できず、しかも攻撃面でもそのたったふたつしかいいところがないとすれば、いくら能力が並外れていてもそれは扱いにくいはずである。まさにピーキーということばがぴったり。ハマれば最高なんだけど、いまのアーセナルにそれをあがなえる余裕があるとはとても思えないのだ。

先日PSG時代にエメリがエジルを説得しようとしていたというニュースがあったが、PSGくらいのビッグスクワッドならエジルの良さが十分に引き出せたのかもしれない。

ふつう補強といえば、チームにプラスをもたらす存在でなければならないはずだが、エジルの場合は10をプラスしたら3-4くらいはマイナスになっているという気がする。いうまでもなく、ボールを持っていればつぎはどんな美しいプレイを見せてくれるのかワクワクさせてくれる反面、ボールを持っていない局面ではてんで使い物にならず、むしろいないほうがまだマシくらいのお荷物になっているということ。

補強したのにマイナスがあるなんて。そんなの聞いてなかったよなあ。

いずれにせよ、エジルがこの先もう一度輝くことがあるとしたら、それはエメリの要求に合わせてプレイスタイルを適応させたときではないだろうか。

仮に現在エジルがアーセナルの選手ではなかっとして、もしいまエメリがエジルを獲得できるチャンスがあっても大金を出して彼のような選手を積極的に買い求めるとは思えない。つまり、エジルはボスに合わせる必要がある。

アーセナルにやってきてこの5年間、ヴェンゲル監督が彼にずっとプレイの自由を与えてきたということで、まさにいまが彼自身エメリの下で変わることができるかどうかが試されているんじゃないかな。

エメリが早い段階で彼を諦めるような事態になれなければいいのだけど。

今シーズンだってこの先で負けが込むようなことがあれば、彼を外すことも十分あり得ると思う。



2 Comments on “メスト・エジルという異能。アーセナルでの複雑な5年間を総括する

  1. 負けが込んできたら、エジルの前にエメリが…
    なんてことは無いですよね。
    3年は待ちますんで。

    1. いまのとこ、エメリがダメそうっていう意見はなさそうです。

      エメリに問題がないかぎりは、うまく行かないのは選手のせいということになるでしょうねえ。

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