自伝本『My Life in Red and White』が発売されたばかりのヴェンゲルさん。そのせいか、最近はこれまでにも増してメディア露出が増えている。
そんな彼が今度は『BBC Sports』のロングインタヴューに応えていた。これはやはり『My Life in Red and White』の出版に際して実施されたインタヴューのようである。
Mesut Ozil, Mikel Arteta, Gunnersaurus… our chat with Arsene Wenger covers all the big talking points.
In-depth interview: https://t.co/sok9rvTOGJ pic.twitter.com/5oYdIBLC4P
— BBC Sport (@BBCSport) October 13, 2020
ヴェンゲルさんに過去・現在・未来について、たくさんのことが訊かれているが、なかでも現在のエジルやアルテタについての質問が興味深く。
読むついでに訳してみよう。ちょっと長いが、なあに、いまちょうど逃避したかったところなので。
アーセン・ヴェンゲル自伝発表時のインタヴュー
<過去について>
(あなたにとりアーセナルはどのような意味が?)
AW:Love of my life. わたしの人生の22年をクラブに捧げた。トレイニングセンターをつくり、エミレーツステディアムをつくった。ステディアム建設費を賄うために、たくさんの汗を流し、アトモスフィアをつくり、このクラブがうまくやるためのインフラをつくり、未来に投資した。われわれは正しい道にいると思う。
わたしはなんだかすでに関係の終わってしまった漢のようで、子どもたちともコンタクトはないが、それでもわたしは彼らを愛している。
(いま振り返れば、エミレーツステディアムをローンで建設することにしたのは間違いだった?)
わたしがそれを受け入れたのは、それがチャレンジだと思ったからだ。最初の10年はチャンピオンシップを競っていた。だがつぎの10年はより難しくなった。わたしは自分たちが際立ったフットボールをプレイしていたと信じているし、ときにリーグを勝てるポジションにもいた。しかしそれには若いスクワッドだった。
もしかしたらわたしはキャリアの後半のほうがより誇らしいかもしれない。最初はイージーだったから。後半はキツくて、自分のレジリエンスがほんとうに試された。そのようなデリケイトな時期にクラブに仕えることができたことをとても誇りに思う。
(2018年の5月に仕事を失ってからまだ一度もステディアムに戻っていません)
しっかり距離を取ろうと自分で決めたんだ。エモウショナリーなことではなく、フィジカリーなこと。影として見られないことが重要だ。まるでまだ影響力を発揮しようとしているのか見られるかもしれないし。一番いいのは、そういうことをしないことだと感じていたんだ。
(アーセナルでの終わりには抗議やデモがあったことに、傷つきましたか?)
そのときファンが云っていたことについてとても高く評価すべきだとは思わない。ファンはその瞬間に基づいて云うし、感情に基づいて云う。今日では大きな独裁があることはマイノリティみたいだ。彼らはそこで話していることを実現させようとする。もし50人がソーシャルメディアでネガティヴになれば、ステディアムの6万人よりももっと注目を浴びることもある。
みんなが話されていることをやらなきゃいけないということはないのだ。もしわれわれの直近3年を見れば、われわれは2016年には2位だった。たしかにレスター・シティの後ろにいたが、どのほかのクラブだってレスターの後ろだったんだ。彼らは3試合しか敗けなかった。2017年にCLを逃したのは1997年以来だよ。
だから、イエス、われわれはその記録を続けたかった。しかし今年はトップ4に戻るいいチャンスがあると思っている。
(あなたはマン・ユナイテッドのアレックス・ファーガソン、それにチェルシーのジョゼ・モウリーニョと熾烈なライヴァリーがありました。それはまだ続いていますか? いまも連絡を取り合っている?)
たまにしか連絡はしない。なぜならわたしは国にあまりいないから。彼らをリスペクトしているよ。このコンペティションにいれば、自分か彼らかのどちらかだ。いつでもアグレッシヴになったりする。しかしその後には、コンペティションの外で会えば、そんなことはない。
お互いが苦しみ、お互いが自分のチームと問題を抱えたりする。しかし、自分のクラブはどんなことがあっても絶対に守らねばならないし、だからこそときにコントロールを失うことがある。概ねリスペクトがあるよ。
(アーセナルのマネージャーだったとき、レアル・マドリッドのオファーを2回、バイエルン・ミュニック、ユヴェントス、PSG、フランス、イングランド、そしてマンチェスター・ユナイテッドのオファーを断っています。どれか近づいていたものはありますか?)
もちろんレアル・マドリッド。彼らを2度断った人間を多くは知らないはずだ。そしてチャンピオンシップを勝てるリソースをもたないチームに残ろうとした人間のことも。しかしわたしはアーセナルでチャレンジすることに決めた。最後までやると。
いろいろなタイプのマネージャーがいる。わたしはモナコで最長のマネージャーだったし、アーセナルでも最長だった。だからそれがわたしのパーソナリティなんだな。
(これまで戦ったなかでもっともタフなチームや選手は?)
チームはウィンブルドン。わたしがイングランドに来て最初の相手。選手はロイ・キーンとアルフ・インゲ・ハーランド。彼らはつねにタフな選手だった。
(このような輝かしいキャリアでさほど後悔もない。しかしアーセナルはいつもビッグネイムスとリンクされてきました。考えたことはありますか?「もしあれが起きていれば」と)
もちろん、考えることはある。たとえば、クリスチャーノ・ロナウドがティエリ・アンリ、ピレス、ヴィルトール、ベルカンプとプレイしたいたらとか。シーズンに200ゴールしていたかもね!
ときに後悔はするものだ。早く決めなかったからだとか、あるいは財政的にできなかったとか。しかし、こう云わねばならないが、それはチェルシーに行っても、マンチェスター・ユナイテッドに行っても、リヴァプールに行っても…… どのクラブにもそんな話はありふれているものさ。
(ズラタン・イブラヒモヴィッチはトライアルに招待するよりサインをしたかった?)
そうでもない。彼は17才の少年で、スウェーデンの2部リーグのマルメでプレイしていた。誰も彼を知らなかったよ。われわれはたくさんの17才にトライアルをやっていた。決断をする前にそうするのは至ってふつうのことだね。
(自分のレガシーはどうあってほしい?)
誰かが、愛するクラブに完全なコミットメント、誠意、正直さをもってクラブに仕えた。わたしは人生の最高の年月をアーセナルに捧げた。いろいろな状況のなかでも、わたしはいつでも同じ情熱を感じていたよ。
<現在について>
(あなたはコーチ時代にやっていたのと同じルーティーンを毎朝やっているというのは本当ですか? 毎日2時間ジムで過ごすとか)
本当だ。週末ですらね。スポートというのは歯を磨くようなものなんだ。週に一度ではたいした効果はない。だが、それを毎日やるならより効果がある。
(いまどれくらいフットボールは観ていますか?)
わたしが観るのはフットボールだけだよ。朝、前日夜の試合を観る。わたしの情熱なんだ。生まれたとき、最初の本能は生き残ること。それから自分の人生の意味を見つけなければならない。わたしの人生はフットボール。
わたしは地元のサッカーチームの本拠地がある小さなパブで育ったんだ。わたしは4才か5才になるころから、みんながフットボールについて語るのを聞いてきた。だからわたしの心のなかでは、間違いなく人生でそれが唯一重要なものだった。
(アーセナルはいまミケル・アルテタの下で安泰?)
イエス。彼はとてもいいマネージャー、トップマネージャーになる要素を持っている。しかしわたしの元の選手たちの多くもそういった要素を持っていた。われわれは彼に時間を与えねばならない。彼らのやりたいようにやらせるべきだ。
彼は賢く、大きな情熱と強いキャラクターがある。そして、彼は正しい人たちに囲まれていると思う。
(あなたはクラブレコードフィの£42.4Mでメスト・エジルと契約しました。彼のいまのキャリアをどう思いますか?)
もったいないと思う(I feel it is a waste for him.)。
まず、彼は選手のタレントをもっとも生み出せる時期にいるから。そしてクラブにとってもまた浪費だ。なぜなら彼はスーパータレントであり、ファイナルサードでキラーパスをクリエイトできるクリエイティヴなタレントだから。
昨今のフットボールは素早いカウンタープレッシング、素早いトランジション、みんながそうやってプレイしている。エジルみたいな選手は追い出されてしまった。だが、この漢がどういう選手かを忘れるべきではない。レアル・マドリッドでプレイしていたワールドチャンピオンだよ。
彼は記録的アシストができる選手でもあり、だから彼をまた使える道を探さねばならない。
(あなたはVARの熱心なサポーターです。しかしほかの人たちが感じているフラストレイションは理解できますか?)
まず第一に、自分自身に問いかけよう。「VARは果たして効果的なのか?」。スタッツやレヴューを見れば、84%から95%の精度だという。自分たちの意見よりも上位にあるシステムなんだ。
つぎに、これは不正との戦いであること。なぜならひとりの人間の決断に頼らないから。わたしにとり重要だと思えるのは、つまりいつもそうではないということだ。イエス。ときどき時間はかかることもあるだろう、だがもしそれを控えようとするなら、みんなまたそれが必要だと思うようになるはず。
去年、オフサイドルールについてはみんなが受け入れなかった。今年はそれについては誰も話していない。金とは関係ない。正しい判断が必要というだけだ。
(レイシズムへの罰は十分でしょうか?)
われわれはレイシズムを許容することはできないし、スポートでも、とくにフットボールでは、大きな責任が伴う。どうやってともに生きることができるか、愛を共有するんだ。
スタンズのレイシズムも許容できないと思う。罰しなければならない。どう罰するか? まだ正しい答えは見つかっていないね。それをやった人間をカメラで見つけ出して、一生彼らをバンすることだと思う。
<未来について>
(あなたの現在の仕事は試合を発展させることです。あなたはスロウインを廃止したがっている……)
スロウインのとき、ボールを入れるチームのほうにアドヴァンテッジがあるかもしれない。しかし現実には、相手が10人いるフィールドに9人しかいなくなるのだからディスアドヴァンテッジがある。またボールを手でプレイしなければならない。わたしは、よりボールを失う可能性が増えると云うよ。
だからこそわたしは、いつだってわれわれはどうやって試合をもっと速く、もっとスペクタキュラーにできるか考えなければならないと思う。なぜオウンハーフでボールを蹴ることができないのか。
われわれはつねに試合を速く、おもしろくしようとしなければならない。そしてルールの多くは、もっと試合をスペクタキュラーにするようにつくられてきた。こうも思うが、蹴飛ばされたときは(複数回触れる)フリーキックを得なければならない。
(あなたは、世界中で子どもたちが誰でも訪れることができるような施設についてとても熱心で、また女子の試合の発展についても)
わたしはみんなに平等に機会があってほしい。ヨーロッパでは、われわれはバブルにある。キッズがコーチを得られない国もあるし、インフラのないところもある。わたしは誰もがアクセスできるようなオンラインプログラムをつくりたい。子どもがその年齢で学ぶべきディーテイルについてのことであり、どれだけの頻度でトレインすべきか、いつエクササイズの負荷をかけるべきか。
女子の試合に関しては、ワールドカップの入場者はいつも多いが、それ以外は非常に少ない。大きな資金の投資が足りていないし、フットボーラーとしての人生を歩むガールズたちにいい給料を払うことも足りていない。だから試合のクオリティを発展させていく必要があるのだ。
われわれは、インフラも発展させていく必要がある。なぜなら現時点で週末には男子にピッチが独占されていて、もし女子フットボールが発展し、望むとおりに成長していけば、いずれ新しいピッチが必要になるだろう。
以上。
急いで訳したから間違ってたらごめんね。
エジルとかアルテタとかそれ以外についても、クラブに云いたいこともいろいろあるだろうに、愛するものから距離を取ることを心がけていると。素晴らしいですね。
さて、フットボールのルール改正についての話がいくつか出てくるが、これには前段がある。
そもそもヴェンゲルさんは現在FIFAで「chief of global football development」というタイトルで働いており、ここで話されているように、世界中のフットボールの発展について取り組みを続けているそうだが、先日彼がフットボールのルール改正にかなり熱心に働きかけているというニュースがあった。
おとといのニュースまとめエントリにも入れようと思っていたのだけど、たしか『The Telegraph』の記事がペイウォールで課金しないと読めなかったのだよね。
今年もオフサイドやハンボーについて細かいルール改正があったようで、新シーズンが始まってからもいろいろ物議をかもしているわけだけど、ヴェンゲルさんが話しているスロウインやフリーキックなどについて、もし今後ルールが改正されるようなことがあればけっこうすごいことだ。手でほうるんじゃなくて蹴るのかな。
「ヴェンゲルルール」とか呼ばれて大不評になる未来まで見える。。
とにかくヴェンゲルさんは精力的だ。すごい。
☆☆☆ 合わせて読みたい ☆☆☆
ヴェンゲルさんといえば、昨日ぼくのtwitterでも少しフォロウしたのだが、非常に楽しい企画記事が『The Guardian』に掲載されていた。
Arsène Wenger: ‘I try to read everything that helps me understand human beings’
各界の著名人(といってもぼくは半分もわからない)、たくさんの有名人が質問して、AWがそのひとつひとつに答えるという。
おなじみのグーナー監督スパイク・リーに、Soul II Soul(古い)のJazzie B、ケン・ローチ、ジョゼ・モウリーニョまで豪華な面々。
合わせてどうぞ。COYG
愛情っていうのは行動に出るよね。
レアルからのオファーを2度も断るっていうのは、並大抵の愛ではできないことだと思う。
スローインのディスアドバンテージは考えたことなかった
確かにマンツーで守られるわな
職を離れてもこれだけ愛のある方がいるというのは幸せなことだと思います。
近いうちにメジャータイトル獲って、喜びのコメントを聞きたいものです。
しかし関係ない話題とはいえ、ロイ・キーンとハーランド父を並べるとちょっとドキッとしますね…
時代は巡りいつか優れた10番がどのクラブにも居る事を願う。スペシャルなクリエイターに居場所が無いフットボールは詰まらないから。