試合の論点
アーセナル vs リヴァプールのトーキングポインツ。
チャンス量産でもゴール不足を繰り返す
つづくなあ。
今回は、ショッツ18、SoT5、1.89xGでゴールゼロ。
試合を観ていたら、たしかに決めてなきゃいけないシーンはひとつやふたつじゃなかったことはわかる。それに、リヴァプールのような相手に90分のBCが5というのは、けして少ない数字じゃないのだから、なんとしても決めてほしかった。
彼らに1-0でリードされたのは、プッシュされていたなかでのフリーキックからのオウンゴールby キヴィオール。もし、それまでにこちらがリードしていたら、試合の流れも変わっていただろうし(もちろんLIVは2-0程度の差では追いつかれたりするのだけど)、多くの時間で優勢だったアーセナルが勝っていてもおかしくはない試合ではあった。アルテタが「こちらのほうがベターだった」と述べても、今回は負け惜しみには聞こえない。リヴァプールには、SalahもVVDもいなかったのだから、よけいに悔しい。
この試合の敗因は、われらがチャンスをいかさなかったこと。それに尽きる。2点めはもう最後のスクランブルでリスクもかけてたからしょうがない。とくかくゴールしなきゃ試合には勝てないのだ。
xG関連のミスリーディング云々の議論はまああるが、BCについては大きな議論はないだろう。ここであらためて「Big chance」というスタットの説明。via SofaScore
ビッグチャンス:選手が得点してしかるべきと合理的に考えられる状況。ふつうは1 v 1であるとか、ボールにゴールまでのはっきりした道筋があり、それがとても短距離で、シューターにかかっているプレッシャーが低・中程度。
これがBC。そしてそれが5つもあって、ひとつも決まらなかった。Oh…
これが単発に起きたことなら、そこまで驚きはなかった。これまでもないことはなかったから。アーセナルあるあるだねえで済んだかもしれない。だが、最近のアーセナルの試合で起きていた、これまでの特殊な経緯をおもえばこそ、それが深刻になる。
以下は、某所の受け売りであるが、アーセナルは6-0で勝ったCLのLens以降の直近9試合で(すべてのコンペティション)、29のBCをつくり、それを7しか決めていないという。7/29は、およそ24%のコンヴァージョン。4つのBCで、1ゴールという確率。ショッツ比だと、この間のショッツは217あるので、7/217。およそ3.2%。100本のシュートを放ってやっと3点が入る程度。
アーセナルではもうゴール前での効率が叫ばれてひさしいように思えるが、これはまた恐ろしいほどの低効率。
興味深いのは、今シーズンのこれ以前の9試合では、アーセナルのBCは14/21(66%)というコンヴァージョン率だったというので、それが半分以下に落ちていること。
結果も対照的、W7 D1 L1(22/27pts)が、W3 D2 L4(11/27pts)に。
最近は、ミニスランプというよりはダメダメな試合がつづいていて、ふつうにスランプになってきた。
風向きが変わったのはやはりPLヴィラ(A)だろうか。そこまでアーセナルは6連勝をやっていたが、ヴィラでの敗けから以降、それ含めたすべてのコンペティション7試合でW1 D2 L4というバッドフォームに。ウーナイ?
トップチームが急にフォームを落とすのは、なんだか昨シーズンの苦い記憶が蘇るような気分だが、それも含めてアーセナルのこれまでの不振と違うのは、試合に勝つためのチャンス自体は十分つくっているということ。
見た目は地味でもないし、むしろかっこよくすらある。今回の試合も前半が終わった時点では、(自分たちがやりたいことをやれていて)おもしろい試合だなあと思ったほどだった。ゴール以外は。
ゴール不足の理由は? ストライカー? アルテタの問題?
これは、ぼくもいろいろなメディアの記事やファンブログなどに目を通しているが、合理的な説明というのはなかなか難しいように思える。
総じて得点が少ないフットボールというスポーツにおける、ゴールすることの難しさをあらためて認識しているみたいなシンプルな気持ち。
アルテタの試合後コメントからしても、「もうよくわからない」という気持ちがにじみ出ているようなところもある。“Stick with the players”を連発してたのもそのせいだろう。とにかく、あれだけチャンスをつくってそれがゴールにならない理由がよくわかんないので、彼らを元気づけて励ましていくしかないみたいな。
このアーセナルのスランプについて、いろいろな議論があるなかでも、もっともメジャーなものはやはり生産的ストライカーの不在だろう。この試合にはジェズースがケガでいなかった。いてもたいして変わらなかったかもしれ(以下略)
だが、それはアーセナル界隈では、もうほとんどつねに云われているようなことだろう。いまだけじゃない。
それに、アーセナルは去年もほとんど同じメンツでNo.9不在と云われながらも、クラブ記録となる数のゴールを決めている。みんなで決めまくった。
もちろん、メインストライカーの獲得を望む意見はファンのあいだでも根強いし、優秀なストライカーはチームにいたほうがいいに決まっているが、識者レヴェルではそっち方面の意見はあまり人気がない。1月にクラブが大きな動きができないということもあるだろうけど。
こういうのとか。
Why buying a new striker is not the answer to Arsenal’s scoring slump
まあ、安くて優秀な9がいるならそれにこしたことはない。が、そんな都合のいいことはない。もしこの冬にIvan Toneyに£100m払うなんてことになったら、それこそパニックバイである。そして、なぜか彼もゴール不足に悩む。起きてもない未来が視えるみたいだ。
では、そうでないなら戦術的問題なのか?
遅効だとか、予測可能性だとか、ゴール不足を説明しようとする一連の議論も、どうもいま起きている現象の決定的な説明になっているようには思えず。まあ、それもまた去年も似たようなものだったわけで。それもあるにせよ、それだけじゃない。なにしろ、ビッグチャンスをつくっている。
試合直後のソーシャルメディアでは、アルテタの戦術に批判的なトーンがだいぶあふれていたようで(ぼくは試合が終わって間髪入れず情報をシャットアウトしたから知らない笑)、誰かをスケイプゴートにしなきゃ気がすまないという気持ちも理解できなくはないが、彼の戦術については、むしろこの試合ではうまくいっていたほうだろう。とくに前半は、リヴァプールのお株を奪うようなハイプレッシングから何度もチャンスをつくっているし、ゴール(シュート)以外はとてもよいパフォーマンスだった。観ていて楽しかったよ。
選手たちが自信を失っていることなど、そういったもろもろのマネジメントについてアルテタに不満を云うのはアリかもしれないが、現時点では戦術についてはわれわれが彼を責める部分はあまりないと思う。
これも誰かが云っていてなるほどと思ったのは、ゴール(シュート)そのものは戦術ではもたらせないということ。戦術がもたらすのはチャンスクリエイションまで。
そこは純粋に選手のスキルであり、それを発揮するメンタリティであり。戦術がもたらすのは、シュートに至るまでのセットアップまでで、いくら大きなチャンスであろうと、ボールをネットに入れる最後のアクションは選手個人のもの。アルテタがどんなにお膳立てしようが、チームがうまくワークしようが、最後の選手がボールをネットのなかに蹴ってくれないとゴールは決まらない。BCでもゴールが決まらないとき、マネジャーはどんな顔をすればいいのか。
このエントリを書いている時点では、試合翌日の月曜日の反応も観ているが、そこでおもしろかったのが、1日たって議論が一巡したためかこの一連の不振について、「アンラッキー」を言及する声を少なからず見かけたこと。これだけ喧々諤々の議論をやりながら、「まあ不運もあるんじゃねーの」という。そりゃそうだろうけど。これは奇妙な説得力。
アンラッキー論がちょっといいなと思えるのは、このつぎはきっと良くなるはずというポジティヴフィーリングがあるから。この3連敗の絶望のなかで。そして、それはいまの自信を失っているチーム、とくにアタッカーたちに必要なものだろう。いまのメンタリティは最悪。責任感があればあるほど。アンラッキー論には、プレッシャーからの解放がある。
ドゥバイキャンプでは、トレイニングだけでなくボンディングセッション(懇親会)的なものも計画しているそうなので、チームとしてはそういう心理的なケアも重視したいんだろう。よきこと。
不運だけで片付けられる問題ではないのはあきらかだが、これまで議論されてきたいろいろな原因が複合的に組み合わさってこんがらがった現在を、どう解決していくかという意味で、そういう楽観的な感情からひもをほどいていくのも悪いやりかたではないという気はする。
とにかく、チームはこの悪循環を早く断ち切らないと。
ハヴァーツは9じゃない
……という話の流れにせっかく持っていったのに、また蒸し返すのは気が引けるものの、この試合のハヴァーツについて言及しないわけにゃあいかないなあ。
チーターとかパンサーとか猟犬とか、ストライカーはよく動物に例えられたりするが、どんなチームもゴール前にほしいのはライオンでしょう。肉食動物。百獣の王。単独でガツガツ行くタイプ。トラとか。相手はひとりでも向かってくる敵を恐れる。Nunezとかは能力はともかくライオンぽいところがある。
翻って、ハヴァーツはあれだ。キリン。あんまり争いを好みそうにないタイプ。どこを観てるのかわからないやさしい眼差しでなんかムニャムニャと食んでいる。格好のエサが目の前にあっても食らいつかない。
No.9というのは、選手によって役割の違いはあれど、基本的にはもっともシュートする機会のあるポジションだ。チャンスでゴールの近くにいる。この試合でハヴァーツは両チームあわせてトップである6つのショッツを放った。が、それらに彼の魂はどれほど乗っていただろうか。ゴールへの渇望。
この試合の(オープンプレイでの)チャンス時のハヴァーツに観られたのは、ひとことで云えば躊躇。どのチャンスでも、ゴール付近でボールを持って彼はつぎにどうしたらいいのかわからないみたいですらあった。自信がないためか、シュートまでよけいなタッチも多い。シュートにためらいがある。
もちろん、彼がGKとの1 v 1を避けてカットバックを選択したときにゴールが決まっていれば、周囲がよく観えたクレヴァーで落ち着いた選択だったと称賛されたかもしれない。だが、あそこはストライカーなら勝負だろう。アングルがあろうがなかろうが、あの局面で勝負の誘惑にかられないナチュラル9はいない。しかしこの日の9には最初から勝負する気があるようにはまったく観えなかった。彼はあそこで1 v 1にチャレンジして、あとで失敗を追求されることを恐れているんだろうか。
現状のチームが陥っているスランプと関係なく、彼はこれまでもアーセナルで何度も似たようなことをやってきたと思う。カウンターでボールを持ってそのままゴールまで直進すればいいのに、変にパス先を探して無駄にしてしまったり。自分でゴールを決めようという積極性がかなり乏しい。これは、メンタリティの問題だ。
ぼくは、この試合のハヴァーツはよかったと思う。フロントでロングボールのターゲットになれるのは彼しかいないし(この試合では空中戦の成功率は低かったが:1/7)、実際チームプレイのなかでも存在感はあった。セットプレイでは、決めているべき惜しいヘッダーもあった。全体的に、彼は彼のやるべきことをやった。きっとアルテタも満足しているだろう。シュート以外は。
彼のストライカーとしての役割については、まったく褒められたものではない。ゴールへ向かうアティチュード。彼のことが大好きなアルテタなら、それでも彼を擁護するかもしれないが、それで同時に痛い目を観ているのもアルテタである。今回も痛感しているはず。ひどいトレイドオフだ。
アルテタは、こういう彼のゴールに対する執着心のなさについてはどう考えているのだろう。非常に気になる。
この試合については以上。
CF
ESR
如何でしょうか?
アルテタは、絶対に選ばないでしょうが、ハヴァーツよりはいいと思います。