試合の論点
PSG vs アーセナルのトーキングポインツ。
CLファイナル進出ならずもやるべきことはやったアーセナル。夏の課題ははっきり
この試合のアーセナルはすごかったな。アルテタがチームに要求していた勇気と覚悟のあるパフォーマンス。とくに試合の序盤は、エミレーツでのファーストレグとはまるでお互いの役割が逆転したようだった。インテンシティで圧倒。前半は、相手ハーフでのボール奪取がいったい何度あっただろう。
一般的にも、こういう展開は試合前はまったく予想されていなかったと思うので(アーセナルがアウェイのタフな場所でPSGのコントロールにどう対処するかばかり)、敵も味方も、試合を観ていた多くのひとが面食らったんじゃないか。
しかし、この序盤の支配的スタートはアーセナル理由だけでなく、PSG理由も大きかったのは認めざるを得ない。彼らはなんだろう。1-0リードを守ろうとした? 試合開始からかなりナーヴァスに見えた。エミレーツでのファーストレグとは、まるで別人みたいだった。あれが同じチームとは信じがたい。
追う立場や追われる立場といった試合の状況で、あんな極端に選手のメンタリティが変わることってあるんだなあと感心したし、メンタリティであんなにプレイが変わるのも感心した。
しかし、ホームとアウェイで似たような展開でスタートした試合であっても、最大の違いはもちろんそこでゴールを決めたかどうか。あきらかにそこが2レグスの勝負の分かれ目だった。
アーセナルは、とても90分は持ちそうもないほどのインテンシティで試合を始めたのは、そこでゴールを決めてまずは試合を振り出しに戻すつもりだったからだろう。それが戦略だったはず。あとで走れなくなろうとも、先に追いついてそれこそホームチームに対し心理的に有利になるために、あえてリスクをかけた。
そして、それは実際にうまくいきそうだった。試合の序盤にあれだけのチャンスをつくったのだから、多少運があればゴールは決まっていてもよかった。せめてひとつでも。しかしそうならず。
逆に、圧倒されながらPSGがあっけなくゴール。27分、0.04xGのゴラッソ。これもまた見飽きた展開。ホームチームが先にゴールを決めてアグリゲイト2-0、彼らのプレッシャーは一気に軽くなった。
後半もアーセナルが攻めるが、前半ほどのインテンシティはなく。いくつかのチャンスを決められずにいると(またGKのおまえである)、またしてもなんでもないところから失点。アグリゲイト3-0、残り時間20分でアーセナルは追いつくために3ゴールが必要になり、ほぼゲイムオーバー。
もっとも、その直後にブカちゃんがゴールして、そのまた直後に彼にこの日最大のビッグチャンスもあったので、奇跡が起きれば奇跡は起きたのかもしれない。そして奇跡は奇跡的にしか起きないから奇跡であり、やっぱりそれは起きなかったのだった。
選手は最後までがんばったし、アルテタとコーチたちはちゃんとこの試合にふさわしい戦略と戦術をつくり、チームもそれを忠実に実行しようとした。スタートからあれほどインテンスにプレイしたのは、アルテタのリスキーな賭けだったのかもしれないが、ぼくはそれでも正しいと感じた。この試合でアーセナルが戦略・戦術で間違えたことはほとんどないようにすら思える。だからこそ、多くのファンもくやしく思っていこそすれ、怒ってはいないんだろう。
アーセナルのファンとしてこの結果はもちろん残念だったし、ここまで来てファイナルに行けないのはくやしくてたまらない。CLでここまで来られることはめったにないし、この試合に関してはほとんど意味不明な相手の気弱さもあり、われらが逆転勝利するための付け入るべきスキはかなりあった。チャンスはあったからこそよけいにくやしい。
でも、いっぽうで諦念みたいなものもある。あきらめ。
そもそもがこのチームは足りなかったのだ。とくにゴール前の決定的な部分。それはもうずっと前からわかっていたこと。
今シーズン、アタッカーにケガ人が多かったからたまたま? そうではないだろう。アーセナルがケガで多くのキープレイヤーを失っていることはたしかだが、仮にハヴァーツやジェズースがフィットしていたとしても、正直似たような結果でもおかしくなかったと思う。もちろんスクワッドの人数的には数がいたほうがいいに決まっているが、ゴール前の彼らがそこまで信頼できたかというと…… むしろ、彼らがフラストレイションになっていた可能性すらある。
より核心的な問題は、もともとピュアストライカーが不在というチーム状況のほうだろう。現状のケガ人のなかに、彼さえいればゴールを量産してくれたという選手がいるか。ただでさえ心もとないのに、アタッカーを誰も補強しないという1月にかけたリスクの代償だとか、移籍関連の話は長くなりそうなので、ここではしないが。
いまのこのチームに、まともなストライカーがいたら、あるいはゴールも期待できるようなウィンガーのオプションがいたら、おそらくこの勝負にも勝っていたんだろうし、いまもPLを競っていたんだろう。そう思える。国内でもヨーロッパでもトップを競うクラブで、こんなクラブがほかにあるんだろうか。もし1月にアーセナルが€70mでKvaratskheliaを買ってたらとか、やっぱり考えてしまうよな。
ほんとうは、こういうチャンスのときのために最低限でも1月に補強はしておくべきだったとは思う。あとから振り返って「あのときがトロフィのベストチャンスだった」ということはかなりあるから。アルテタだって試合前「right moments」の重要性を語ったばかりだ。今回もそのひとつになった。
だが、それはもう済んだこと。今年もやはり成功できずにシーズンが終わった。
そして、このあとクラブとしてどうするかだ。この教訓をつぎのシーズンのためにどう活かすか。
来シーズンこそが、本当のフェイズ5だと思う。われわれのプロジェクトの最終段階。ここへ来るまでは、途中なんだかんだ、だいぶ時間を短縮したようにも思うが、結局今年のように足踏みもして時間をそれなりにかけてここまで来た。そして、間違いなく夏には大金を投じて、新シーズンのスクワッドはパワーアップするだろう。
今年のチーム状況だって、ここまで来れたチームだ。仲間が増えれば、もっともっと先へ行ける。
オーデガードもライスも試合後は奇しくも似たようなことを云った。「敗けた分だけ強くなる」「勝つためには敗けも必要」。信じよう。
このPSGとのCLセミファイナルは、チームが成長するための大きな機会になったと前向きにとらえることにしようかね。
この試合については以上
さて、アーセナルのつぎの試合は、日曜のPLリヴァプール@アンフィールド。
アーセナルがまだPLで競っていたら、これは間違いなくこれはビッグマッチだったのだが。もうとっくに勝負はついて、結果を問わない消化試合みたいな試合になっている。
もっとも、トップのポジションを確保した彼らと違い、こちらはいまだ2位はおろかトップ5フィニッシュすら確保できていない状況。
先日は、チェルシーが彼らに勝って称賛を浴びたわけだが、われわれもぜひともにチャンピオンに勝って鬱憤を晴らしたいところである。2012年以来アーセナルが勝っていないというアンフィールドで勝てたら、どんな試合でもうれしいに決まっている。
楽しみにしていよう。
ではまたプレビューで。
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