ここからは、実際の動きを確認してゆこう。
※以下、移籍金はすべてTransferMarktより。※選手画像はすべてオフィシャルサイトより
アーセナルが2022夏に獲得した選手
- Marquinhos (19) £3.15m from Sao Paulo
- Fabio Vieira (22) £31.50m from Porto
- Matt Turner (28) £5.73m from New England Revolution
- Gabriel Jesus (25) £46.98m from Manchester City
- Oleksandr Zinchenko (25) £31.50m from Manchester City
マルキーニョス(FW)
サンパウロから獲得した19才ウィンガー。
ブラジルの無名プロスペクトの獲得ということで、ガビ・マルティネリのケイスを想起させる契約だった。
アーセナルにブラジルの新星マルキーニョス来る。マルティネリの再来なるか | ARSENAL CHANGE EVERYTHING
プリシーズンに参加したあとも、なんだかんだローンに出ることもなく、アカデミースクワッドに定着することもなく、いつの間にかファーストチームに腰を落ち着けようとしている。
ファーストチームのデビュー戦となった先日のELチューリッヒでは、ゴールとアシストの結果も出し、なかなかのパフォーマンスを披露したのも記憶に新しい。
このままサカのバックアップとしてファーストチームに入っていくようなら、クラブが夏にRWの獲得に失敗したことは、彼には福音だったかもしれない。思いのほか、早くチャンスが訪れた。
彼がイングランドやアーセナルに慣れるために、エドゥを始め、ブラジリアンの存在感がますます高まっているタイミングもよかった。
ファビオ・ヴィエラ(AM)
いきなり来た、ややサプライズな獲得。ポルトから。AMは、この夏の最重要エリアとも思われていなかった。
もっともアルテタは、ヴィエラが攻撃的ポジションならどこでもプレイできるという、彼のヴァーサティリティをとくに評価している様子。左足のAMということで、基本的にはオーデガードのバックアップ、あるいは彼とポジションを競うことになる選手とみられるが、今後彼がどのポジションでプレイするかは楽しみのひとつでもある。先日のELチューリヒではオーデガードのポジション(右8)で、そのまえのU-21の試合では、RWポジションでプレイしていた。
アーセナルがFCポルトからクリエイティヴMFファビオ・ヴィエラの獲得を発表 | ARSENAL CHANGE EVERYTHING
この移籍については、多くのジャーナリストたちもギリギリまで情報をつかめず、この夏のエドゥがいかに秘密裏に動いているかの事例でもあった。
また、ポルトは移籍金を妥協したとも云われ(※€50mのリリースクロウス)、ポルトガルでもかなり有望視されていたプロスペクトに対し、そういった意味でもアーセナルの賢いビジネスを印象づけた。
加入当初からケガで、実質的なチームへの合流が遅れたのは残念だったが、ここへ来てヴィエラが頭角を現すようなら、これはもう新しいサインみたいである(云いたいだけ)。
マット・ターナー(GK)
28才。
いちおうこの夏の獲得ということになっているものの、冬ウィンドウではすでに合意しており、彼の所属元のNew England Revolutionからもとっくに発表されていた。
アーセナルがGKマット・ターナーの獲得を発表。MLSでもっとも優秀なショットストッパー | ARSENAL CHANGE EVERYTHING
ターナーに関しては、やはりGKとして能力が未知数という部分がいちばん大きいように思える。ショットストップでいかに優秀な数字を残しているといえど、それはサッカーの国アメリカでのことだ。PLどころかヨーロッパでも証明されていない。
だから、セカンドGKはもっと無難なオプションもあっただろうことを考えると、この獲得はアーセナルにとっては、わりとギャンブル的な側面もあるだろう。レノに云われずとも、アメリカ人オーナーのクラブがUSの選手を取りたい理由もある。
今年の冬には、USMNTでワールドカップに出たい。その希望が叶えられるかどうかは、彼のカップ戦でのパフォーマンス次第。
キャリアのなかで困難な局面を何度も通過してきた彼だから、きっとアーセナルでも成功すると願いたい。
ガブリエル・ジェズース(FW)
ジェズースの獲得は、アーセナルにとってほんとうにターニングポイントになったと思う。いや、まだ未来のことはわからないが。すくなくともここまでは、かなりチームを変えた。いいほうに。
アーセナルがついにガブリエル・ジェズースの獲得を発表。この夏のNo.1ターゲット | ARSENAL CHANGE EVERYTHING
総論パートにも書いたように、アルテタにとってオバメヤン・ラカゼットは、彼のやりたいフットボールにはあまり合っていなかったし、ときには重荷ですらあった。彼らがチームのメインメンだったのだから、試合から外すこともできず、なんとか彼らを起用してワークするチームをつくらねばならなかった。いわば、マネジャーは本筋から離れたところで、よけいなエナジーを使わねばならなかったということだ。
それが、フロントラインの中心がジェズースに置き換わったことで、突然攻撃の歯車が回りだしたという気がする。アルテタ風にいえば、クリックした。やっとミケルがやりたいことはこれだったのかと、合点がいった。これはジンチェンコも同じ。
このウィンドウで、ジェズースとジンチェンコをかなり安価に獲得できたことは、いまではちょっと信じがたいものがある。伝えられている金額は、ふたり合わせてニコラ・ぺぺひとりと同じくらいだ。
もちろんそのレヴェルの総額なら、絶対的に安いというわけではないが、選手クオリティやアルテタのチームへのハマり具合、また市場の相場からすれば、かなり割安だろう。ふたりともその1.5倍の金額でやりとりされてもおかしくない。
オレクサンドル・ジンチェンコ(LB)
加入以来、ジェズースと同じくらいチームにポジティヴなインパクトを与えているのが、ジンチェンコだと思う。アーセナルで、LBのロールを拡張してしまった。
アーセナルがアレックス・ジンチェンコの獲得を発表 | ARSENAL CHANGE EVERYTHING
アルテタのチームにおけるInverted FB(フルバックのCM化)という意味では、トミヤスが右で同じことをやっているし、左でKTにそれをやらせようともしていたが、たぶんジンチェンコのそれがもっともアルテタの理想に近いんじゃないかと思える。
単にフルバックがそのポジションにいるというだけでなく、ボールを持って司令的にプレイできること。また臨機応変に、攻撃にも守備にも一定以上に貢献すること。ジンチェンコは、それをこのチームの誰よりもハイレヴェルに行っているように観える。
いまとなっては、彼がリサンドロ・マルティネスのプランBだったというのが、にわかに信じられないほどだ。リサンドロはたしかにいい選手っぽいが、あの役割をジンチェンコ以上に上手にやれていたとは信じられない。結果的に移籍金でもそうとうに得をしている(£20mの差)。
移籍金の問題がなければ、われわれはジンチェンコではなくリサンドロ・マルティネスを取っていたのかもしれない。だが、そうならなくてよかった。
補強について雑感
ヴァーサティリティへのこだわり
こうして夏に獲得した選手をならべて観ても、今年もアーセナルはかなりヴァーサティリティにこだわった補強をやったと感じる。ひとり何役もこなす選手を優先している。
それで実際チームは救われているだろう。いまも、問題あるポジションやデプスの薄いポジションでも、そこをカヴァできる選手が複数人いるようになっている。同じ選手が、いくつものポジションをカヴァできることでより問題に対して対応がより柔軟になっている。
シーズンが進むにつれて、今後はもっと危機的な問題が起きるかもしれない。
そうしたときに、ヴァーサタイルなチームの真価がもっと発揮されるのだろう。
既知の選手へのこだわり
ジェズース、ジンチェンコはもちろんマンチェスター・シティから獲得した選手。
そして、デッドラインデイに獲得失敗したヴィラのダグラス・ルイースも元シティ。
さらに、デッドラインデイが終わる数日前にバルサのフェラン・トーレスに€30mでオファーを出していたという噂もあり、こちらも元シティ。
元シティばかり。だから、アルテタは、自分がすでに知ってる選手にだいぶこだわっていたなと。
もちろん、どんなマネジャーでも自分がよく知る選手を連れてきたくなるものなのだろう。エメリだってそうだったし、この夏マンUでもETHがアヤックスの選手につよいこだわりを観せた。
そして、それは基本的にはいいことなのだろう。ジェズースとジンチェンコを観るかぎりでは、やっとミケルの本領が観えたほどチームプレイにハマっているし、失敗の可能性も低い。
もっとも大きいのは、選手のパーソナリティやキャラクターを知っていることかもしれない。ゲンドゥージみたいな選手を知っていたら、たぶん最初から連れてこなかったし、ぺぺも選手として以外に彼のひととなりを知っていたら、ターゲットにもならなかったかもしれない。
後半は、放出した選手たちについて。