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【マッチレビュー】23/24 UCL アーセナル vs バイエルン・ミュニック(9/Apr/2024)悔いの残るドロウ

試合の論点

アーセナル vs バイエルンのトーキングポインツ。

アーセナルは大きなチャンスを逃す。ヴェテラン相手に未熟さを露呈

あのバイエルン相手に2-2ドロウ。これがアウェイでの試合だったら、きっと喜べた。当然のように5-1で敗けるような圧倒的クオリティ差のある時代からは、隔世の感もある。

だが、今回はアーセナルにとって、ほんとうに彼らに勝つ大きなチャンスだった。それが痛すぎる。

フォームを落としている最中ということで、下馬評でも不利と観られていたバイエルンながら、彼らにはCLの経験が豊富なだけあって、じつに狡猾だったと思う。ホームチームをちゃんとリスペクトしてか、アウェイらしくプレイしようとしていた印象もある。

アーセナルがバックラインでボールを持っても、安易にプレスで追いかけず、ミッドブロックで辛抱強く中央エリアを締める。ボールを持たれるのは構わない。おそらく、国内リーグではあまりやる機会も多くないであろうアウェイチームらしいふるまい。

そしてボールを奪ったらトランジションのクオリティが非常に高い。アーセナルはバックラインでボールを回させられている自覚もあってか、密集した中央エリアへの無理なパスを奪われることが少なくなかった。あれは相手の狙いどおりではなかったか。

彼らはそういったトランジション状況ではパスだけでなく、個人がある程度自分でボールを運ぼうとするやりかたも効果的だった。それで1-2人がかわされると、カウンタープレスや守備の組織が一気に混乱に陥ってしまう。そんなシーンを何度も観た。バイエルンには、DFにもMFにもそれを実行できる個人クオリティがある。

好調のホームチームにできるだけやりたいことをさせず、少ないチャンスでもスキあらばゴールを決めるみたいな、手堅く結果を手に入れて帰ろうという意図を感じた。CLで百戦錬磨なだけある。

いっぽうアーセナルも、バイエルン相手でも概ね平常心でプレイできていただろう。ホームで6万人のサポーターの声援にも支えられた。彼らの守備よりのアプローチには苦労もしたが、それでも狭いスペイスをぬって、危険な攻撃を繰り出しもした。

だが、ちょっとしたミスが命取りに。試合を決めるまさに致命傷になった。

最初の失点は、サカのファインゴールの6分後。ベンジャミンが絶好のチャンスで、Neuerのド正面にシュートしてしまった直後。

Neuerからのシンプルなロングボール1本。ビッグガビが追いつけそうなボールに対し、ラヤが上がってきてしまい、ガビは後ろからKaneに詰められている状態でバックパスができず。苦し紛れにキヴィオールに出したパスがずれて、相手選手にそのまま渡ってショートカウンターで失点。

ここは、ボールを奪ってからの相手のシュートまでのプレイも褒めるべきかもしれない。2本のパスも完璧だった。

つぎはその14分後、今度はハーフウェイライン近くで左ワイドにいたキヴィオールが1 v 1から、Leroy Saneにきれいに抜かれて独走を許す。あまり想定されていない抜かれかた。そのままドリブルして、ジョルジーニョやガブリエルをかわしボックスまで侵入してきた彼を、サリバが蹴飛ばしてペナルティ。

サリバはまあしょうがないか。あんなふうに相手がスピードに乗ってドリブルで突っ込んできたら、CBはパニックになる。もちろんご法度だが、あれはどんなDFでもやりかねない。ここも、Saneの個人クオリティが半端なかった。彼のことを称賛すべきかも。

このふたつのミスはどちらも、試合のなかではどちらかといえばなんでもない状況だった。とくに過大なプレッシャーを受けていたり、状況的にピンチというわけでもなく。チームとして、やられた感じはしない。ほぼ個人エラーによって引き起こされた状況から、ほぼ個人クオリティによって失点するという、このやりきれなさ。

ふだんの(最近の)アーセナルならやりそうもないという意味では、やはりCLの独特の緊張感のなかでやってしまったミスという気がする。概ねふだんどおりでやれていても、こういうちょっとしたことで何かが露呈してしまう。

それがなにかといえば、やはり経験の不足から来るサムシングなんだろうと思う。今回が初のCL経験という選手が少なくないチームだ。

ひょっとしたら、スタジアム全体が自分たちのファンという異様な状況も、逆に彼らにふだんとの違いをよけいに感じさせたかもしれない。

今回の試合、お互いのチームとしてのクオリティにはそこまで開きはなかったと思う。われらがシティにもリヴァプールにも互角にプレイできるチームなのだから、バイエルンにだってそれくらいできて当然だ。

だが、結果を大きく左右したのは、チームの総合力というよりも個人エラーだった。それも、ほんとうになんでもないもの。だが、そうした細かいことこそが大きな差になる。このチームが、ビッグチーム相手にこれまで何度も体験してきたことだ。

クオリティの拮抗したこのレヴェルでは、そういう些末なことで試合が決まったりするのだろうし、そういったことをなるべく起こさないために重要なのが経験なんだろう。

ポルトでも学んだし、今回も学んだ。つぎに必ずそれを活かす必要がある。

LBにキヴィオール抜擢が裏目に。チームセレクションに疑問

この試合のスターティングメンバーとしては予想外の抜擢だった、ヤコブ・キヴィオール。

彼らの2点めになったバイエルンのペナルティにおいては、それのきっかけになってしまったこともあり、HTの時点ではソーシャルメディアでも彼をすぐ変えるべきという声は少なくなかった。

ボールを持った選手に、あんなふうにイージーにかわされてしまえば、どんなDFでも責められるのはしかたあるまい。しかも、あの場面はDFとしては、仮に抜かれたらカード覚悟のタクティカルファウルで相手を止めなければならなかった。終盤のパーティがカウンター阻止のためにやったように。それがプロの仕事。

そのせいで、試合後はファンのあいだでアルテタのチームセレクションが問われることになっている。

正直、個人的には、アルテタがここで彼を抜擢した気持ちもわからないでもないとは思った。ジンチェンコ、トミヤス、キヴィオールの3人のなかでは、アルテタも彼がフィットネス的にも試合勘的にももっとも安定が期待できると思ったのかもしれない。

だが、この3人のなかではやや中途半端な人選だったこともたしか。

アルテタは、HTからは1点を追いかける試合状況でジンチェンコを入れることを決断したが、より積極的に試合をコントロールしたいのなら最初から彼が適役だったろうし、あるいはバイエルンのウィンガーをリスペクトして守備を重視するなら、トミヤスがよかった。試合前、多くのひとはこの試合がどういう試合になるかも考えてLBはトミヤスがスタートするだろうと考えたわけだ。

キヴィオールは残念ながら、コントロールでも守備でもどちらの点でもふたりには及ばない。

それと、これはいまに始まったことではないが、彼はパスがとくに優れている選手でもないので、彼がうしろにいるときのサイドは攻撃が停滞しがちであり、それは同じサイドにいるマルティネリにも恩恵がない。

以下はこの試合の前半の攻撃%。キヴィオールのいた左サードからの攻撃が極端に少ない。後半の数字は確認していないが、ジンチェンコに変わってこれもだいぶ変わっているだろう。

彼は、バックアップの選手としてはまったく悪くないと思う。だが、こういう特別な舞台でスタートするほど有能かどうかは議論の余地がある。CLのQFバイエルン戦は、トップオブトップの選手がプレイするべき試合だろう。

やはり、この試合はトミヤスがプレイすべきだったんじゃないかと思う。

それと、これはアルテタのチームセレクションを責めるものではないが、Saneの独走では、ジョルジーニョの守備の軽さも目についた。彼は走力でSaneについていけず。彼の弱点が出てしまった。もし、あれがパーティだったら、そこで長い足を出して止めていたかもしれない。タラレバ。

HTで早々に動いたことからも、アルテタも今回のセレクションでは後悔もあるだろうし、これもまた若いコーチの苦い経験として今後に活かしてほしいと思わずにいられない。

アーセナル・バイエルン、お互いのペナルティ訴え

この日、6万人のアーセナルファンで埋まったエミレーツのスタンドが最高に盛り上がったのは、94分のサカのペナルティ疑惑。だがスルーで試合終了。

VAR確認すらなしのおとがめなし判定にサカはかなり不満だったようで、試合が終わってからもレフリーに詰め寄っていて、コーチが止めに入らねばならないほどだった。試合後しばらく興奮が冷めなかったようで、彼はわざわざInstagramにまで怒り心頭の気分をポストしていたようだ。ここまで腹を立てるのは、彼にしてはちょっとめずらしいのでは?

もしあれがペナルティなら、この試合はアーセナルが勝っていた可能性が高いので、もちろん残念なことではある。

だが、どうだろう。アーセナルファンのあいだですらあのペンを認めるかどうかは賛否両論がある。イアン・ライトすら「わたしには、あれはペンじゃない」と述べた。試合後のHarry Kaneは「あれは50/50、自分のチームなら支持する」と云った。

まあ、ぼくもあれは5000億%ペナルティだと確信しているけど、レフリーが取らなくてもしょうがないかなと思う(複雑な心境)。サカが自分からNeuerに足を出してもらいにいってる感じはあるから。

それよりも、あそこはサカにはファウルをもらいにいくんじゃなくて、ゴールを目指してほしかったなと。そこが非常に残念。多くのファンがそう感じたんじゃないか。ふつうにGKをかわしてもゴールできたんじゃねえのかと。いやわからんけど。あるいは股を抜くとか。

ちょっと前にハヴァーツもボックス内でのダイヴが糾弾されていたし、アーセナルのチームのなかにああいうことをやってもいいという空気があるのなら、あんまりいいことじゃないと思う。

アルテタは、シティの時代からタクティカルファウルをよしとするコーチで、それはそれでいいんだが、ぼくはダイヴOKのほうはちょっとイヤだ。もっとうまくやるならいいけど、あんまうまくないし。

いっぽうで、これはぼくは試合後に気づいたのだが、試合中バイエルン側もペナルティを要求していたという。

そのシーンを完全に見逃していて、どのタイミングかわからないのだが、アーセナルのゴールキックのリスタートで、ラヤがそばにいたビッグガビにボールを小さく蹴ってリスタートしたところ、それをビッグガビは自分からボールをスタートするようただボールを渡されたと勘違いして手でボールを止めた(ホイッスルが聞こえなかった?)。それがハンドボールじゃないかとバイエルンの皆さんはたいへんに怒っているという。

これは、実際そうならハンドボールでペナルティだろうから、バイエルンが怒るのも無理ない。だが、彼らのファンがいないスタジアムでは選手以外誰もそれに反応しなかったので、スルーされたようだ。もし、アウェイスタジアムか、あるいはアウェイファンがいくらかでもいれば、また全然違った可能性はある。

この件について、バイエルンのボスが吠えている。

(ガブリエルのハンドボールに)今日のレフはわれわれにペナルティを与える勇気がなかったのだ。おかしな、気まずい状況だった。

われわれを激怒させているのは、フィールドでのレフリーの説明だ。彼は選手たちに、あれは「子どもじみたミス(kid’s mistake)で、QFではああいうペナルティは与えられない」と述べたのだ。

この日のレフは35才の若手で、Neuerより年下。それを知りながら試合を観ていたから、なんだか不安な感じはあったが、最後は大きな問題も起こさずでよかったんじゃないだろうか。極端にアンフェアだと感じる判定はなかったし、またVARで騒ぎになるようなこともなかった。バイエルンのファンは違う感想を云うかもしれない。

セカンドレグへの展望

さて、ファーストレグがこうなってしまったので、つぎのセカンドレグをどうするか。まだ終わっちゃいねえ!

誰かが云っていたのは、バイエルンのホームでは、両チームが今回とまったく逆の立場になるだろうという。まったく同意。

バイエルンが主導権をもって試合をコントロールしようとして、アーセナルはもっと守備的にプレイし、カウンターに活路を見出す。

ファーストレグが2-2でも、アウェイゴールを2倍でカウントするルールはなくなったので、いずれにせよわれらは試合に勝たねばならない。

今回の反省を活かすとすれば、ひとつは人選だろう。LBはトミヤスかジンチェンコ。6はもしかしたらパーティ。LWはジェズースかも。

トミヤスのLBやパーティの6は、週末のPLで試すんじゃないかと予想する。そろそろ変えてもよさそうなタイミングでもある。

それと、守備のストラクチャ。今回はトランジションではかなりバイエルンのやりたいようにやられてしまった。アーセナルはコントロールしたいのに、混沌がだいぶ這い寄ってた。試合後のアルテタは、何度も相手のランを許したことについて言及していた。

したがって、なるべくオープンな状況にしないよう、エティハドやアンフィールドでプレイしたときのような、より厳格な守備ストラクチャで臨むはず。

スタジアムの難しさもある。バイエルンのファンはファーストレグのうっぷんをためているはずで、よりいっそうアウェイチームにプレッシャーをかけてくるに違いない。なかでも、今回のことでサカはかっこうのターゲットになる。彼は、もともとプレッシャーをかけるべき中心選手だが、そこに不正でペナルティを得ようとした下心へのヘイトが加わる。そう考えると、今回の有利な環境で勝負をリードできなかったことが非常に悔やまれる。

バイエルンはLBのAlphonso Daviesがいきなりカードを受けて、つぎがサスペンション。彼はサカにかなりよい対応をしていたので、彼がいないなら助かる。

それと、途中交代になったグナブリはハムストリングのケガが深刻なようで、来週不在の可能性が高い。

もちろんタフな試合だが、トロサールも云っているように、アーセナルが本来の実力を出せばきっと勝てるはず。

より経験を積むためにも、まだ敗退したくない。なんとか勝ちたいものです。

 

この試合については以上。

※コメントくださるかたにお願い
プレヴューエントリでは、試合の結果がわかるようなコメントはお控えください
お互いリスペクトしあって楽しく使いましょう

2 Comments on “【マッチレビュー】23/24 UCL アーセナル vs バイエルン・ミュニック(9/Apr/2024)悔いの残るドロウ

  1. PLでもキヴィオル左SBで勝てていた時期もあるので、左サイドの停滞は彼だけじゃなくて、ジョルジーニョが機能しなかったのが大きいでしょうね。

    ミドルブロックが分厚いのでジョルジーニョもウーデゴールも頻繁に下がってしまい、危険なエリアにスルーパスする機会自体が制限されましたよね。

    とはいえ2点目はキヴィオルにかなり過失があるのは事実。抜かれたあとにつかんで止めようとしてたけど、させる暇もなくぶち抜かれたのでさすがサネというところでしょうか。

    ジョルジーニョも追いつけなかったし、そもそもあーいうトランジション勝負を挑まないようなゲームプラン、人選だと思うので、そこは失敗というか、やはりバイエルン。

    正直敵わない相手とは思えないので、ミュンヘンでリベンジですね!

  2. キヴィオルもマガリャンもサイドを気にして中を空けてしまう癖があり、
    もっとコンパクトに守る必要があると感じます。
    CLでバイヤンに対して、
    目一杯広がってポゼッションをして中スカスカ&ジョルジアンカーってのは
    ちょっと舐め過ぎましたね。
    ビルドアップでジョルジはケインとムシアラに消され、敵の速攻に対しては自動ドアに。

    一失点目でアルテタが気づいて修正すべきでしたがそれはなく、
    似たような形で二回やられたのはトゥヘルの方が一枚上手だった印象です。
    HTからのジンチェンコに交代ってのもホームならではの采配で、
    アウェーでそれはハイリスクだし1週間で修正できるかなかなかハードな課題です。

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