試合の論点
アーセナル vs マンチェスター・シティのトーキングポインツ。
Making a statement.
Enjoy the highlights from today’s 5-1 success over Manchester City at Emirates Stadium, Gooners 🍿 pic.twitter.com/waZ4NP5SjJ
— Arsenal (@Arsenal) February 2, 2025
宿敵マンシティを5ゴール粉砕。宣言となる大勝利。アーセナルの勝因は……
冒頭にも書いたように、ぼくはアーセナルの試合でこんなにエキサイトしたのは、いつぶりのことかちょっとわからないくらい。あの試合を観たアーセナルファン全員が興奮状態だったと思う。あの試合を現場で観ていた人たちがほんとにうらやましい。
それはもちろん、シティのようなチャンピオンチーム相手に異例の大量ゴールを決めたこともあるし、なにより、アーセナルとしてはこの試合にかけるものがあったから。
PLで12連敗という天敵のような長らくつづいたほぼ一方的な力関係から、直近2シーズンはPLタイトルを直接争うライバルとして彼らとの関係がシフトしていくなかで、仮にPLで直近3試合敗けなしだったとしても、まだなにかが足りないという気分はつねにあった。
事実、9月のアウェイ試合では、アーセナルはエティハドでは9年ぶりの勝利を、あと数秒のようなところで逃している。確実に相手を追い詰め、惜しいところまで行きながら、また勝てなかった。
だから、長らくEPLを席巻してきたチャンピオンの彼らに対し、われわれが証明すべきことがあった。クオリティが追いついただけでなく、追いつき逆転したという文句なしの証がほしかった。できれば、彼らが115違反の罰で表舞台から退場する前に。
この試合ではそれに加えて、ご丁寧にシティのストライカーがまるでプロレスのように火に薪をくべてくれていた。アルテタには“Stay humble”「大人しくしていろ」。MLSには“Who the fuck are you?”「お前、誰だよ?」。エティハドでは最後にビッグガビの後頭部にボールをぶつけるなんてことまでやったね。これはもう、やるしかないでしょう。
そして、今回やってくれた。みごとに。期待以上に。
思い上がりも甚だしい傲慢なお山の大将の鼻っ柱に強烈なカウンターパンチをお見舞いした。もっとも憎い相手をこのような大舞台でコテンパンにするというこんなカタルシスはなかなかないだろう。
ということで、試合の流れをざっと振り返ってみよう。
90分間の攻撃モメンタムはこのような感じである。
まず、試合開始から1分。バックラインでボールを持つシティにアーセナルの選手たちがいやらしい位置でハイプレス。トロサールがAkanjiのミスをさそい、こぼれ球をライスがワンタッチで前にいたハヴァーツへ。シュートに行くかと見せかけて隣にいたオーデガードにパス。そのままズドン。試合が始まって103秒で1-0。電光石火でリードしてしまった。これは、シティのゴールにつながるエラー。ハイプレスでそれを強いたのは、計画どおりだっただろう。なんという幸先のよさ。
さらにその3分後には、今度はマルティネリがゴールを決めるがこちらはオフサイド。しかし、試合の序盤にはアーセナルが勢いを見せた。
しかし、その後はシティが徐々にボールを持って落ち着きはじめ、アーセナルはハイプレスからミッドブロックへ。このあと後半にゴールが決まるまでは、アーセナルは高い位置でボールを追うことをやめ、ボールのうしろに全員が引くようなかたちになり、かなり慎重なアプローチになったと感じたものだった。1-0でしかないリードで、もう守りに入ったかのようで、まるでリードしている試合終盤の10分の攻防を観ている気分にもなった。
あれがアルテタらしさ(キャラガーなどにモウリーニョと云われてしまう理由)でもあるし、今回のゲイムプランだったのだろうが、ビッグゲイムとはいえホームでさすがに保守的すぎるとは思ったものだ。あんな調子ではどうせ最後まではもたないのだし。
HTには、Sky Sportsの中継に出演していたティエリ・アンリも、アーセナルは慎重すぎるというような苦言を呈していて、個人的にはわりと同意だった。
そんななかで、前半のハイライトのひとつはラヤのセイヴ。彼は3度ほど重要なセイヴをやっていて、もしあれが防がれていなければこの試合は違った結果になっていた可能性もある。ひとつは片手による完全なファインセイヴだった。試合後は大活躍したアウトフィールド選手たちの影に隠れがちながら、隠れMOTMは間違いなくラヤだろう。
それと、26分のハヴァーツのショットミス。ライスのタックルからのハイターンオーヴァで、絶好の好機だったが、彼は外してしまう。後述するように、ぼくはあのプレイにはけっこうショックを受けた。あれを決めていれば前半で2-0だった。
後半に入っても、似たような展開がつづくが、先にシティのゴールが決まる。アーセナルは守備ブロックをつくるも、ボックス内に侵入されたところから小さなクロスを上げられ、マーカーのサリバの前に出たHaalandが滞空時間の長いジャンプからみごとなヘッダーでゴール。55分。サリバも完全に出し抜かれてほとんど何もできず、あれはやはりトップストライカーのゴールだったろう。1-1。
しかし、この試合ですごかったのは、アーセナルがすこしも意気消沈せずに、すぐに反撃したこと。Haalandのゴールからわずか1分後、Fodenのパスをパーティが高い位置でインターセプトし(ふたりのあいだにはちょうどレフリーがいたためそれがパスミスの原因かも)、彼はそのままボックス外からシュート。相手DFにあたって軌道が変わったボールがネットへ。56分。2-1。ふたたびアーセナルがリード、アーセナルファンががっかりした時間はたった1分しかなかった。
そのあとMLSのゴールが62分。フロント5の左HSにいたMLSにライスがパス。ハーフターンでボックスに侵入していくあの挙動を観たときに一瞬まさかとは思ったが、彼は単独でゴールに向かっていき、素早いモーションで相手DFをかわして右足でシュート。それを決めてしまった。3-1。
攻撃モメンタムのチャートを見てもわかるように、3-1になった時点でシティの選手たちは意気消沈してしまった。そのあとの30分間で彼らが勢いを取り戻すことは二度となかった。このゴールのあとの時間に限っても、ポゼッションはアーセナルが60%とだいぶ優勢になった。
76分にはシティに押し込められるなか、オウンハーフでボールを奪ったパーティが素早く縦にパス。センターサークル付近からネリとハヴァーツでカウンター発動。2 v 2状況で、ネリがアウトサイドに走り込んだハヴァーツにボールを渡すと、ボックスでインサイドに小さく切り替えした彼は左足シュート&ゴール。今シーズンのシティはカウンターから失点が多いということで、彼らには典型的なやられかただったのかもしれない。4-1。試合を殺した。
スコアで大差がついたその後の時間は、アーセナルが選手を入れ替えたりと余裕をもって試合を進め、勝負としてはすでに終わっていた。
そして追加時間3分の93分。トロサールと交代でRWに入ったワニエリ。しばらく右サイドで大きく手をふってボールを要求していたところで、ライスからクロスフィールドの正確なロングボール。すでに意気消沈してやる気のないシティディフェンスの面前で左足を振り抜くと、大きなカーヴを描いたボールはそのままきれいにネットに突き刺さった。サカ譲りの彼のトレイドマークな左足ゴールで5-1。パーティタイム!
💥 Watch Ethan Nwaneri’s BANGER against Man City from the stands! 🔥 pic.twitter.com/tNeoUEVzCq
— Connor Humm (@TikiTakaConnor) February 2, 2025
ちなみにあのゴールまでのパスは、1分54秒つづいた36本つながったパスだったという。アーセナルのアウトフィールド選手が全員触った。
Ethan Nwaneri’s goal ended a passing sequence of 36 uninterrupted passes in a move that lasted one minute & 54 seconds and involved every Arsenal outfield player.
It was the longest passing move leading to a Premier League goal since September 2023. pic.twitter.com/l0w9yeR0SB
— Opta Analyst (@OptaAnalyst) February 2, 2025
完璧なエンディングで試合終了。めでたしめでたし。
この日のいちばんの勝因を考えるに、やはりシティの守備の不安定さはあった。
アーセナルはプレスでたびたびハイターンオーヴァをやっていて(※試合を通してファイナルサードリカヴァリは8)、それだけ彼らは危険な位置でボールを失っていたし、そのうち失点につながったものもある。逆にアーセナルはそれが2しかなかった。
そういえば、試合前に彼らのロングボール戦術について書いたが、とくに多いという印象はなかったような。そのおかげでバックからのビルドアップをプレスでハメることができた。
それと、今回もHaalandをシャットアウトしたこと。彼はゴールを決めたのでシャットアウトというと語弊があるが、彼が仕事をしたのはあのゴールだけである。試合中、彼が受けたパスはわずか6で、彼自身のタッチは10。パスはたった40%の精度しかなかった。逆に、それだけ制限されながらもきっちり仕事はしているのが、すごいということなんだろう。ショット1でゴール1という効率。
あとは、アーセナルのフィニッシュ。ここしばらく、アーセナルではフィニッシュの精度がかなり問題視されてきたが、今回は1ゴール分のチャンスで5ゴール。そうとうに高効率だった。
シュートへの積極性も指摘しておきたい。オーデガードが自分の課題だと云っていたゴールを決めたことはよかったし、5ゴールのうちのふたつはボックス外ショットだった(パーティとワニエリ)。パーティのゴールはディフレクションでラッキー成分が含まれているのはたしかだが、去年のネリのシティでのゴール同様、シュートを打つことに意義がある。行けるときは躊躇しちゃいけない。宝くじは買わなきゃ当たらないし、シュートも打たなきゃ入らない。ゴールに貪欲だったり積極的だったりすることは、それだけでいいことだ。
アーセナルは相変わらずロウブロックをやるチームには苦労するが、こういう試合で決めたゴールのイメージをそういう試合でも思い出してもらいたいものだと思う。
そうそう、エミレーツの雰囲気も忘れちゃなんねえ。ぼくはヘッドフォンで試合を観ていたので、迫力あった。ホームサポーターのラウドな声援。アルテタもぶっ飛んだ(mind-blowing)と云ってたので、そうとうだったと思う。おもしろかったのは、ぼくのメモによると65分くらい? MLSが劇的なゴールを決めて3-1になり興奮したスタンドからいつものチャントが盛大にこだまするのだが、興奮しすぎたのかバラバラという。あれは、なんだか興奮が生々しくてむしろよかった。
さて、この試合結果はシティのサポーターよりもリヴァプールのサポーターのほうが怒っているらしいが(笑)、たしかに追われる彼らにしてみればアーセナルが、調子を落としているとはいえあのシティに5ゴールぶっこんで粉砕したという事実は、けっこうなプレッシャーになりそうに思える。
彼らとシティがPLの2強を独占してきた期間、アーセナルはリヴァプールだけでなくシティとの相性も最悪だったのだし、彼らのチームとはあきらかにクオリティ差があった。それが、エミレーツとはいえほとんど逆転したことをここで示したのだ。ようやく。いまだって彼らに5ゴールを決められるチームはさすがに多くはない。
これは宣言となる勝利と云っていいだろう。おもにリヴァプールに向けて。アーセナルはチャンピオンをコテンパンにしてPLタイトルを競えることを証明したし、シーズン終了までまだトップをあきらめていないと彼らに伝えた。このままプレッシャーをかけつづけよう。
このあとわれわれに必要なことは一貫性だ。アーセナルはこれで17試合PLのビッグ6チームに敗けていない記録を更新中だが、なぜか勝てそうなミッドテーブルチームにポインツを落としてしまう。どんな相手でもポインツは同じ。それではタイトルは取れない。
この試合結果は大いに自信になった。それを利用して、今後は勢いをつけてプレイをしていく必要がある。