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Arsenal, Controversy, Player, Tactics

アーセナルでのESRの将来

土曜の興奮がいまだ冷めやりませんな。

ええ、そうでしょうとも。あんなんだったのだから。

AFCの新コンテンツではこれがよかったな。ど頭のベニー・ブランコ。

あの日以来、そうした界隈のポジティヴな余韻にひたっているいっぽうで、ぼくはなんとなくESRことエミール・スミス・ロウのことを考えている。

彼は、あの試合で、トロサールの負傷によりアクシデント的に前半にピッチに入ると、LWとして大きなインパクトも残せず(※アシスト1は記録した)、なんと最後のホイッスルを聞くまえに下げられてしまった。その交代で入ったネルソンがあのような劇的なかたちでヒーローになった影では、ESRのフラストレイションがあっただろう。

まあ、今回のことをとくに深刻にとらえる必要もないのかもしれない。ないことじゃないから。ましてやあのスクランブル状態で。

だが彼のファンのひとりとして、いまのチームと、若干そこに取り残された感のある彼を観ていて、彼の将来になんだか一抹の不安がよぎることも否めないでいる。



ESRが2023夏の売却対象という馬鹿らしいうわさ。だがしかし……

先日、ぼくがtwで某イタリアンメディアによる移籍ゴシップのニュースをRTしたところ、いくつかの反応をもらった。

それはアーセナルが夏にデクラン・ライスのようなトップターゲッツを取るための資金を獲得するために、売却候補が6人いてそのなかに彼が入っているというもの。

まあ、彼だけでなくジャカも入っていたりと、いまのアーセナルを知っている人間からすれば、およそ信じる価値のないゴミ記事だったのだが、なぜにそれが気になってRTしてみたかというと、redditなどのファンベイスで、最近ESRのアーセナルでの将来を危惧する声を、いくつか見かけていたからだった。

そう、冷静に考えると、いまのチームのなかでESRの居場所はどこなのかと問われたとき、一瞬考えてしまうのだ。

大躍進22-23年式アーセナルをほとんど未経験のESR

アーセナルはシーズンのこの段階にあっても、まだリーグのトップをキープしていてタイトルを争っている。シーズン前なら、ファンでさえ想像もしなかった一大事である。

そして、それを実現したのは、今シーズンのチームにある明確なステップアップであることを否定できるものはいないだろう。

今シーズンは、アルテタが来てからこれまでの準備期間があったとはいえ、アーセナルはそれまでとはかなり変わって、わりと「突然に」完成度が高まった。閾値を超えた感がある。ブレイクスルー。

その原因は、ジェズースやジンチェンコのような新加入の選手たちであり、ジャカのポジション変更であり、サカのさらなる成長でありと、さまざまな理由があるが、それはともかく。

とにかく、今シーズンのアーセナルはかなり変わった。突然に完成したすがたに変貌したみたいなところがある。だが、そこにはESRの姿はない。

そのあいだ、彼はなにをしていたかといえば、9月に鼠径部の手術を決断するまでずっと低空飛行で(手術前までのシーズン序盤にプレイした4試合はすべてサブ)、そのあとまるまる2ヶ月離脱し、さらに復帰後も小さなセットバックもやっていたり、PLではまだスタートした試合がない。記録によれば、彼のここまでのPLでのプレイ時間は7試合で102分。シーズン全体でここまでせいぜい1試合分という程度。

9月に手術を行ったときは、シーズン後半にフレッシュな活躍をしてくれることがだいぶ期待されたものの、いま実際にそのようなタイミングが訪れていて、あのときのような空気は正直あまり感じていない。彼不在でも、チームがかなりうまくいっているということもある。

去年のESRはLWのポジションをマルティネリと争っていて(あれは非常に健全な競争だった)、一時はESRのほうが優先されるような時期もあったり、PLで二桁ゴール(G12)も記録したりと非常に先行きの明るいパフォーマンスがあったのに、LWとしてはいまでは完全にマルティネリに先を行かれてしまった。

つまり彼が不在のあいだにこのチームはだいぶ変わってしまっていて、いざ戻ってきたはいいが、以前とくらべてもポジションと役割がわりとはっきり固まって、彼の居場所がなくなってしまっているんじゃないかという。

ESRの適正ポジションはどこか? 彼のユニークすぎるプレイスタイルと完成間近の理想のチーム

アルテタからヴァーサティリティが称賛されているジェズースが、そうは云いながらもほぼCF(フォルス9)でのプレイに固定されているのに対し、フロントラインのどこでもプレイできるとアルテタからつねづね称賛されているESRは、彼のもっとも適切なポジションがどこなのか、いま現在はっきりしていないように思える。

ポジション別に観てみると。

まずアルテタのチームの下で彼がブレイクしたといえる、4-2-3-1におけるNo.10。いまはもうチームは4-3-3の3MFにシフトしていて、そのポジション自体がなくなっているのと、仮にNo.10的ポジションがあるとしても、それはキャプテンのオーデガードが圧倒的ファーストチョイスだ。

彼の現在の8/10ロールは、完璧にアルテタのチームにハマっていることを考えると、ESRがそのセカンドオプションであるかどうかもあやしい。なぜなら、オーデガードとESRのプレイスタイルはまったく異なるから。

つぎにLW。これは、ジンチェンコのInveterFBロールと表裏一体のところがあるが、結局両WGは、アルテタがシティでもやっていたタッチラインウィンガーで決まってしまったところがある。

サカとマルティネリの左右ワイドではややストラクチャが異なるとはいえ、どちらも基本的に彼らはタッチラインでプレイすることや、単独での1 v 1の打開が求められる。アルテタがシティ時代に、サネやスターリングを一人前にしたと云われるロールとほとんど同じだろう。ウィングに関しては、アルテタはアーセナルに来てからニコラ・ぺぺの対応など、なんとか既存のチームと戦術のすり合わせに苦慮してきたが、いまの状況を観ていると結局彼の理想はシティで成功したやりかただったと思える。

去年のESRのLWも、彼がインサイドに入って空けたスペイスをオーヴァラッピングFBのKTが使う、というところまでがセットであり、ジンチェンコがLBに入り、ジャカが高いポジションを取るようになったいま、そのスタイルはアルテタにとり過去のものになってしまった。

また、先日の劇的逆転勝利のボーンマスでは、アルテタがESRに変えてネルソンを入れた理由について、試合後に「相手を引き付けられる選手がほしかった」と述べているが、あれは云い方を変えれば「ピュアウィンガーがほしかった」という意味だろうと受け取れる。もっと云えば、今シーズンのウィンガーに求めている、相手がふたりマークをつけることを余儀なくされるようなプレゼンス(ESRのようなタイプではない)がほしかった。

だからあのサブは、ある意味、象徴的に思えた。アルテタの理想のシステムのなかで、もはやウィングはESRに合ったポジションではないと。

いまのチームのなかで、おそらく中長期的にも、KDBに憧れる彼がプレイすべきと広く考えられているポジションは、いまジャカがプレイしている左8だろう。先日『The Athletic』も将来のアーセナルの左8というテーマで記事をアップしていた。

だが、そのポジションも現在ジャカが絶好調であり、このままだとおそらく契約延長も時間の問題だ。そしてこれまでの起用法を観るに、現状のアルテタの左8のセカンドオプションはおそらくファビオ・ヴィエラ。さらに、アーセナルの夏のトップターゲットはデクラン・ライスと云われていて、100m近い金額をかけるかもしれない彼が来れば、左8のファーストオプションになると考えられている。また、ずっと噂のティーレマンスもこのポジションの候補だろう。

と、このようにESRがプレイできるポジションをあらためて振り返ると、彼の復帰が熱望されていると云えるポジションが現状ない。

彼のあのスタイルは、ただでさえユニークなものに思える。

自分がボールを持つことにほとんど執着せず、周囲の選手を使いながら、パス&ゴーを繰り返し、タイトなスペイスへ侵入していく。そのようなスタイルの選手は、このチームのなかにひとりもいない。

数年前に彼がチームで台頭してきたときは、アーセナルと彼の明るい未来を感じたものだった。血管に血が通い出したような、機械に潤滑油を差したような、とにかく彼がチームに加わることで全体がいきいきと動き出したような感覚があった。

だが、彼にとっては不幸にも、ケガで席を空けているあいだにチームはアルテタの理想のチームにどんどん向かっていってしまった。

ESRは、アルテタがアーセナルに来てから3年~のトライ&エラーのなかの小さなブレイクだったと思う。シティのようなほとんど理想的なチームから来たアルテタは、アーセナルでいだいた理想と既存スクワッドの現実というギャップにだいぶ苦労して、ESRはそのなかでようやく見つけた光のひとつだった。

だが、それはあくまで既存スクワッドをどうにか活かそうという試行錯誤のなかで、彼が現実に適応できた数少ない成功例のひとつであり、他方でおそらくずっとアルテタのあたまのなかには、理想的なチームのかたちが確固としてあった。それが証明されたのが今シーズン。いまでは、彼がなにをやりたいか、なにをやりたがっていたかがはっきりわかるようになった。

こういうことを云うとひんしゅくを買いそうだが、アーセナルとアルテタは、結局は金をかけて理想の選手を取ることで、目的を達成しつつある。ジェズースやジンチェンコのような既知の選手ですぐさま現れた効果を見れば、苦労して選手に合わせたシステム(チーム)をつくるよりも、理想のシステムに合った選手を入れるほうがよほど手っ取り早いと学んだだろう。なんという身も蓋もなさ。

ESRが、No.10というアイコニックなナンバーを与えられたあのときから、状況はかなり変わってしまったと云わざるを得ない。

いまクラブが、ESRにNo.10を与えるかどうかを考えてみれば、わかることだ。

もしいまESRに巨額のオファーがあったら?

とはいえ、ヘイルエンド育ちのファンフェイヴァリットの彼が、簡単に売却されるようなことがあるとは思えない。当然だろう。

これからの彼に期待していないファンなどいないのだし、アルテタだってきっとそうだと思う。

ただ、うんこメディアの釣り記事ではないが、もし彼にいま巨額のオファーが来たら何が起きるかということをつい考えてしまうこともある。

ご存知のように、チームのなかではジンチェンコにポジションを奪われてしまったKTもいまかなりつらい立場で、最近はニューカッスルとのリンクがよくリポートされている。彼らはKTを£30mで買えると考えているとかなんとか。

このインフレしたフルバックのマーケットでそんな安値はありえないとか、いや彼はそもそもケガがちで今シーズンはプレイタイムもほとんどないから妥当とか、ファンのあいだでもいろいろな意見がある。

そんななか、もし、仮の話として、ニューカッスルから夏に「KTとESRにあわせて£80m」みたいなオファーがあったら。

これはけっこうクラブとしては心が揺らぐんじゃないか。

サカやマルティネリなら、単体でも£80mでは売らないと即断できるだろうが、いまのESRに、仮に£40-50mのような「ある意味でリアルな」オファーがあれば、ちょっと考えてしまうと思う。

うえに書いたように、現状で彼はどのポジションでもセカンドチョイスかそれ以下が現実であり、その規模の金額で自分たちが育てた、しかもバックアップ選手が売れれば、ユースプロジェクトでは間違いなく成功のひとつになる。

このまえ、このブログでも紹介したように、チェルシーがFFPルール違反を回避できている理由のひとつは、彼らがユース選手をうまく売って収益を上げているからだという。

いっぽうでアーセナルの商売ベタは特筆すべきレヴェルであり、選手売却ビジネスではチャンスをうまく生かしていないという批判も根強い。売れるときに売らず、結局売りどきを逃していると。たしかにそう。

ESRを使ってクラブにその悪評を覆してほしいとは、誰も望んでいないだろうが……

チームのさらなる進化のカギを握るESR

と、なんだかネガティヴトーンでずっと書いてきてしまったが、このブログの読者さまはご存知のとおり、ぼくはずっと彼の大ファンである。彼がこのチームからいなくなるなんて、考えるだけでゾッとしない。

彼は、とくにチームにとって重荷でもなんでもないのだし。高給でもなければ、ドレッシングルームのガンでもない。積極的に売る必要もない。

現状を憂いながら、同時にぼくが考えているのは、ESRがアーセナルで成功する未来のこと。

いまアルテタがつくっているチームは、やっぱりシティに似ていて、この先もなんとなく完成形も観えている。そんなふうに思わないか。

だからこそ、そこにセンスオブワンダーがほしい。これから、ペップもクロップも誰も観せたことがないようなチームに進化するために。

そこにESRの輝く場所があるんじゃねえかなと。

彼のあの独特なプレイスタイルは、いまのチームのなかでもアクセントになりうる。ポジティヴな異質要素になりうる。それはミケルさえもまだ気づいていないような。

それができるのがESR。きっとそうだ。ていうか、彼じゃなきゃだめ。ほかの誰にもできない。

ヨシ。大丈夫。

ELで大活躍するESRをひとつプリーズ。

 

おわり



※コメントくださるかたにお願い
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お互いリスペクトしあって楽しく使いましょう

5 Comments on “アーセナルでのESRの将来

  1. 記事拝見しました。
    素晴らしい内容であるとともに、自分の考えに通ずるものがあり、没頭して読みました。

  2. まだ何も勝ち取ってはないですが、勝ち始めるとそれだけでは物足りなくなるような。その足りないモノが、ESRでありエンケティアでありネルソンでありの活躍。もちろんウーデゴールやジンチェンコやジェズスらの活躍も嬉しいですが。今後はクラブとの繋がりをより強く感じられる選手が活躍してくれることを願ってます。
    あと、アルテタはもう少しローテーションして欲しいな。選手交代も遅いし少ない。もちろん勝ってるからいいんですが。

  3. まさに私がモヤっとしていたことを言語化して頂いたような記事で、感銘を受けました。
    20/21雪のWBA戦の、スミスロウ→サカ→ラカ→スミスロウ→サカのあのThe Arsenalなゴールは、スミスロウがただのワンツーじゃなく、3人目の連動まで信じて全速力でパス&ゴーを行ったから生まれたものだと思っています。
    スミスロウのあの唯一無二のドライブ感をまた見せて欲しいなー。

  4. ジョルジーニョが来た今、ESR 出すくらいなら来夏別にライス取らなくて良くない?と思う。

  5. モーに新契約を与えた今のアーセナルがヘイルエンド育ち、PL二桁得点実績あり、no.10、22歳、ファンフェイバリットのスミスロウをたかだか€40、50mで手放すとは思えないですね。
    個人的にはKTやスミスロウより、トミが放出候補にならないか心配です。アルテタのチームは同ポジションにタイプの違う選手を置くことを目指しているように見えるので、ホワイトと比較的役割が近いトミはどうなるかな、と。アルテタならもっとプレイメイカータイプかFBタイプを欲しがりそうな気がします。

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