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【マッチレビュー】24/25 UCL SF アーセナル vs PSG(29/Apr/2025)ホームのファーストレグを落とす

試合の論点

アーセナル vs PSGのトーキングポインツ。

PSGが強すぎる件。ホームでの敗けでアウェイで勝利が必須。ファイナル進出はかなり困難なタスクに

これは1-0というスコアライン以上の差を感じる試合だった。アルテタがいつも云うように、それがわずかな差だとしても、たしかに差があるように感じられる。

これは、ここ数年のアーセナルの試合を観ていてもあまり感じなかった感覚だ。シティもリヴァプールももちろん強いが、チームプレイでは年々アーセナルが劣っているようには感じなくなっていたし、トップに近づいている実感があった。去年(敗けたバイエルンとか)と今年ここまでのCLでもそう。

だが、このPSGはちょっと別格に思えるほど強く感じた。10月に対戦したチームとは別物だという覚悟はあったが、ここまでのクオリティとは。もちろん、QFのレアル・マドリッドよりも。

インテンスなハイプレス、圧倒的ポゼッション、そしてドリブル。これに、アタッカーが超強力でフロント3は9のDembere含めて、全員が足の速いウィンガータイプ。ポゼッションもできるし、カウンターも脅威。これはめちゃくちゃいやなチームだ。

とくにハイプレスは、かなり効果的でビッグマッチにしゃっちょこばったアーセナルのディフェンスラインは、ボールを持ったときもタジタジに見えた。プレスがうまく行く手応えからエナジーを得て、さらにインテンスに行けるという好循環。

そしてなにより、CMのVitinhaのゲイムメイキング。これはヤバい。

ビルドアップ/ポゼッション時にはミドルサードのどこにでも顔を出して味方を援護。パス&ムーヴを繰り返しながら、ボールを着実に前に進めていくという。アーセナルにおけるオーデガードの役割とかぶる部分も多いが、それよりももっともっと潤滑油として機能しているように見えた。まあ、この比較においてはこの試合含めてMØの最近の低調っぷりも考慮する必要はあるけど。

 

MØとVitinhaの比較

PSGボスのルイス・エンリケは、全員で攻撃して全員で守れる、個人スターに頼らないという意味で、アーセナルは自分たちと似ていると云っていた。

今回のPSGを観ていて、これはアーセナルのなりたい姿なんじゃないかと思わないでいられなかった。プレイ精度の高いチームプレイと完璧なボールコントロールによる試合の支配があり、ウィンガーの単独でのワイドからの攻撃はつねに鋭い。この試合の序盤で彼らが見せたチームプレイのテンポとスピードは、まさに圧倒的だった。

もちろん、この試合を決めることになったあの4分のDembéléのゴールは、あのようなボックスの密集地帯を抜けゴールポストの内側に当たって入るというちょっと出来過ぎなゴールなので、あれがなければこの試合は0-0で終わっていた可能性もある。だが、そのほかのお互いの具体的なチャンス、あるいは試合展開からしても、アーセナルの選手たちも自分たちが勝ちにふさわしかったと胸をはって云えるような試合じゃなかったと、きっとわかっているだろう。フェアに云えば、アウェイのPSGのほうがアーセナルよりもずっと勝ちにふさわしかった。90分を総合的に観て、そういう試合内容だった。

ならば、なぜゆえにこのような試合になったのか。試合前はおそらくこれほどはっきりとした差を見せつけられるような試合になるとは、アルテタも選手たちも想像していなかったんじゃないか。チームと個人のクオリティ差が最大の要因だったとしても、そこまでの大きな差ではなかったろうし、それがすべてだったという気もしていない。

考えられるまずひとつは、アーセナルの選手たちは、ちょっと緊張していただろう。みんながこの試合を「最大の試合」とかなり気負っていたことが、裏目に出たんじゃないか。平常心じゃなかった。

序盤に圧倒されていた時間はとくに、相手のインテンスなハイプレスの前にふだんならやらないような悪い判断がそこかしこにあった。周囲が見えず、最高の選択ができない。そして、高い位置で何度もボールを失って、自ら危険を招いた。あのときの彼らは、おそらくふだんの精神状態ではなかった。

相手のクオリティに面食らったこともあるかもしれない。試合が始まってからいきなりあれほど一方的にやられる想定ではなかったとすれば、まずそれに驚いた側面はあるように思える。その証拠に、試合がある程度落ち着くとアーセナルの選手たちも落ち着くようになり、流れが変わっていったから。あの試合が始まって3分という怒涛のどさくさで1点失ったことが悔やまれる。

それと、戦術的な準備でもやや落ち度といっていいのかわからないが、不備があったんじゃないかとも思う。

試合後会見でアルテタは試合中にあることを修正したと述べているのは、おそらく事前に想定していなかったことがあったからだろう。たとえば思っていたよりもハイプレスが積極的だったとか。アルテタが具体的に語らない以上、実際それがなんだったのかはわからないけれど。

とにかく、試合中に選手にやりかたを変えさせる必要性が生じた。これは、比較的スケジュールに余裕がありかなり日数をかけて準備してきたであろうチームとしては、あまり理想的ではない。逆に、そうだとすると、PSGは戦術的にホームチームの想定の裏をかくことに成功したわけだ。アウェイチームのPSGは、堅守が自慢のエミレーツでいきなりトップギアに入れたスタートに成功したわけで、ここはこの勝負においては意外に見逃せない部分だと思う。

細かいところでは、先日PLパレスでターゲットにされていたというラヤのポジショニング。今回74分にあったPSGの選手によるラヤの不在を狙うようなロングレンジのショットは興味深かった。あれも事前のスカウティングの痕跡のように思える。

それと、試合後のファンのあいだで否定的に語られているのはホームサポーターの応援。エミレーツではそれが強みのはずなのに、まずファンが意気消沈してしまった。まるで、かつての「ライブラリー」が戻ってしまったようなスタンド。中継の音声からも聞こえてくるのは、PSGウルトラスの皆さんのノイズばかり。アルテタが口を酸っぱくしてお願いしていたサポーターからのエナジーが、この試合ではとんと感じられなかった。

プレイが一時的に止まったときなど、アーセナルの選手たちが事あるごとにスタンドを盛り上げようと両手でアピールする姿もちょっと痛々しく感じたものだ。本来ファンのアツい応援というのはチームのいいプレイに呼応して自然発生するもので、選手が催促するものじゃないはず。

だから、それはサポーターのせいというよりは、チームのパフォーマンスのせいだろう。ファンの声の大きさはチームのパフォーマンスの鏡。いつものチームとサポーターがお互いを高め合う好循環が、今度はどちらもエナジーを下げていく悪循環に陥ってしまった感さえある。試合を観ていて、“Arsenal! Arsenal!”ってここでみんな叫んでPSGのファンの声をかき消してくれねえかなあと何度も思った。

というわけで、セカンドレグはかなり厳しいことになった。あのチーム相手に、アウェイで1-0以上の結果が必要。もちろん、何が起きるかわからないので、ここで絶望的になる必要はない。だが、今回のファーストレグで得た教訓は来週の試合では確実に活かされなければならない。アストン・ヴィラの試合をみんなで観たほうがいいかもしれない。あのレジリエンス。しかもそれをアウェイでやるチャレンジ。奇跡を信じるしかない。

セカンドレグに向けて

ファーストレグのこの試合を観るまでは、ぼくも楽観的だったのだけど、いまはちょっと……。いや、でもわからない。少しでも希望があるなら、最後まで信じよう。それが信者のメンタリティ。

「ボールを持たなきゃ、死ぬ(If we don’t have the ball, we die)」。この試合のウォームアップ中、デクラン・ライスがチームメイトたちにかけたということば。その意味では、選手たちにとっては悔いの残る試合になってしまったように思う。相手のボールを許しすぎた。

だから、セカンドレグのアーセナルは、アウェイだとしても、ファーストレグよりももっと勇敢にボール保持にこだわるんじゃないか。あんなふうにゆうゆうとボールを持たせたら自由にやられることを痛感したはず。もっとそれに抗わないと。

ホームでこの結果で、来週のセカンドレグに向けては悲観的になりそうな状況ではあるが、そのことも含めてポジティヴな点がいくつかある。それをまとめておこう。

まずはもちろん、トーマス・パーティの復帰。試合後のメディアやファンの声としても、彼の不在をアーセナルの劣勢の理由として挙げられることが多かった。

彼は経験豊富で優秀なCMだから、もちろんそれもある。今シーズンはほとんど彼とともに過ごしてきたチームだ。つぎの試合もカギになるであろうミドフィールドにはかなり安定は戻るはず。

しかし、彼が復帰することによる効果は本人が戻るだけではない。彼が6のポジションに戻ると、ライスが元のLCMに戻ることができ、メリーノが9に戻ることができる(戻る?)。これはかなり大きい。

この試合でもライスの存在感は抜群で、彼が後ろを憂えることなくより前めでプレイできるようになれば、アーセナルのチームとしての攻撃脅威はぐっと上がる。あのボールを持ってグイグイ行くランは、アウェイでも相手には脅威だろう。

それと、今回の試合を観ても、PSGは空中戦はさほど得意なチームではなさそうなので、メリーノがターゲットマンとして高い位置にいれば、ダイレクトプレイは大きな武器になりうる。この試合のラヤのロングボールは8/18(44%)と悪くなかった。ロングボールならビルドアップでボールを奪われるリスクもなく、これはとくにアウェイでは有効になるはず。ポゼッション、ハイプレスをやるような彼らのようなチームは基本的にダイレクトプレイが嫌いだろう。相手が嫌がることをやらないと。

こういうシステム変更があるとLWでマルティネリとトロサールのどちらかがベンチになるだろうが、まともなベンチオプションができると思えばそれも悪くない。この試合のサブを観ていればとくにそう思う。試合中に流れを変えることができる(とアルテタが信じられる)サブがベンチにほとんどいないのは、致命的だ。

パーティが戻ることは、間違いなく戦力アップになる。

つぎに、PSGのセットピースの脆弱性。

彼らはセットピース守備がよろしくないという説は、今回のメリーノの幻ゴールでも証明された。あれがオフサイドでなければ、この試合は1-1ドロウだった。ひきつづき、アーセナルはセットピースにも活路を見出すべきだ。ベストを出せないときだって、なんとかなる。そう、セットピースならね。そういやニコはえらい怒ってた時間あったな。あれは何に怒っていたのか。

コーナーキックとフリーキックで毎度プレッシャーをかけよう。ポゼッション率で試合が決まるわけじゃない。最後には勝てばいいのだから。

あとは、運。われらには運がまだある。

あんな内容でたったの1失点で済んだんだから、フットボールの神様はアーセナルを勝たせようとしているとしか思えない。

17分、ボックスでKvaratskheliaを腕でつかんでもジュリティンがペナルティを取られなかったし、相手は終盤にあったあのようなセミファイナルを終わらせることができるレベルのビッグチャンスを連続して外してくれた。仮にホームで2-0や3-0で敗けていれば、精神的打撃は計り知れなかった。

メリーノのゴールがオフサイドで取り消されたり、サカが不当にファウルを取られて大きなチャンスを潰されたりもあるが、概ね運にはまだ見放されていないはず。運がどれだけ大事かは、われらもここまでいろんな場面で観てきた。

そして運といえば、吉兆。AFC女子チーム。

男子に先んじて行われた女子CLのセミファイナル。アーセナル・ウィメンはOLにホームのファーストレグで2-1で敗れながら、セカンドレグのフランスでのタフなアウェイ試合を4-1勝利でみごと大逆転でファイナルへ。不可能を可能にした。これに勇気づけられないでいられようか。

女子のファイナルの相手はバルセロナで、男子もファイナルの相手がバルセロナということは当然ありうる。アーセナルファンにとって、バルセロナはなにかと思い入れもあるチームだろう。かつてアーセナルがCLファイナルまで進出した唯一の機会で敗れたのも彼らである。憎きクラブ。

アーセナル・ウィメンがやったこと。これをわれわれも来週再現せねばならない。

よし、勝てる気がしてきた。

 

この試合については以上

 

さて、アーセナルのつぎの試合は土曜のPLボーンマス(H)。これもまたタフな試合だ。アウェイではあれほど苦戦させられた相手であり(サリバの退場の前も)、ホームとて油断はできない。そして、そのあと来週水曜にはPSGとのセカンドレグが待っている。どういうチームセレクションでこの試合にのぞむのかも悩ましいところだが、とにかく勝たねば。

 

ではまたプレビューで。

COYG



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One Commnet on “【マッチレビュー】24/25 UCL SF アーセナル vs PSG(29/Apr/2025)ホームのファーストレグを落とす

  1. これが決勝でなくてよかったと言わずにはいられない。ただ幸運なことにあと90分もあるわけで、そこでひっくり返すのみ。
    おれらのladsを信じてます!

    チェンさんもいつもありがとうございます。

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