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【ヴェンゲル】Wengerballとアーセナルの戦術【ボール?】

ここしばらく新監督についての議論などで、「Wenger Ball」または「Wengerball」という単語をたまに見かけるようになってきた。「アレグリはヴェンゲルボールにそぐわない」みたいな使い方。

邦訳もされているエイミー・ロウレンスの『インヴィンシブルズ アーセナルの奇跡』(Amazonリンク)でも、第2部8章がベルカンプから始まったアーセナル流のプレイスタイルについて触れた章で「ヴェンゲルボール」と名付けられているが、このところヴェンゲル退団で急にみんながこのことばを使い始めたような印象がある。気のせい?

ヴェンゲルボールとは何か。まあこのヴィデオを見ればわりと説明の必要もないんだけどね。



Wengerballとは?

2016年9月のQuaraに「What is Wenger ball?」というそのものズバリの質問スレッドが立っている。

トップ回答がBarun Kalitaさんというアナリスト。その回答がこちら。

なぜアーセナルのアーセン・ヴェンゲルは大したトロフィもないのに、こんなにも長い間アーセナルにいるのか。

それはつまり彼の素早いゲームプレイの魅力のためだ。

アーセナルがベストのときは観るのが楽しいチームだ。最近では2016年4月のEPLリヴァプール戦の最初の数分間にアーセナルのベストを見た。彼らがその試合に勝てなかったのは試合を通して同じインテンシティをキープできなかったからだろう。

Wenger Ball

ファストでクイックなショートパス。とくにファイナルサードにおける狡猾さと迅速さ。それがヴェンゲルボールとして知られているものだ。ヴェンゲルボールのもっとも素晴らしいところは、選手たちのシンクロナイズドプレイだ。どの選手も完全にチームメイトのポジションを把握している。クイックなワンタッチプレイとオフボールでのポジショニング、それがこのゲームプレイの重要な側面だ。別のいい方をすれば、ヴェンゲルボールはメッシの魔法のようなワンタッチフットボール、クイックなパスに非常に近く、違いがあるとすれば全員があんなふうにプレイするということ。

選手たちの動きは流動的で、スーパーなボールコントロールとデリケイトに組み合わさったものだ。まるでボールじゃなくて羽と遊んでいるみたいに!

だな。

要するにぼくたちの大好物な、常時2~3、4人のユニットがワンタッチパスで前へ前へとつないでゆくアーセナルの流れるような美しい攻撃。それをヴェンゲルボールと呼んでいると。

いわゆるティキ・タカがとりあえずボールを奪われないためのプレイだとすると、それと比べてよりゴールへ直線的に向かう縦に速い攻撃という感じだろうか。

そしてSquawkaもつい最近(おとといのファイナルデイ後)にWengerballについて記事をアップした。

Wengerball explained – and the top five world class players and managers he influenced

So what is Wengerball?の部分だけ引用しよう。

で、ヴェンゲルボールって結局なんなの?

ポゼッションはヴェンゲル・アーセナルがしばしば試合を支配するときの基本的な戦い方だったが、ヴェンゲルボールはそれ以上のものだった。

ヴェンゲルボールは、ヴェンゲルのダッチ・トータル・フットボールのコンセプトに基づくヴァリエーションのひとつで、それによって彼のチームは自由に創造性を発揮してチームを押し上げ、選手たちを捕まえにくくするものだ。

そのスタイルはパス・アンド・ムーブだ。アーセナルの選手たちは、簡単なタッチでパスを出して動き、ふたたび別の場所でボールを受けるために彼らのマーカーを外すようなポジションを取る。

これは選手たちがピッチ上でフィニッシャーがゴールするまで小さなグループをつくってパスを廻し続けたとき、彼らはしばしば相手ディフェンスの間に浮いているように見えた。

そしてさらによく見られたのが、この動きの中ではフィニッシャーは必ずしもストライカーではなかったこと。一連の動きの最初の部分に関わったミッドフィルダーが、動きを止めずに最後までピッチを駆け抜けていく。

13/14シーズンにおけるキーとなる例が、ノリッチシティ戦のジャック・ウィルシャーのゴールに見られる。これはBBCのゴール・オブ・ザ・シーズンになった。

この記事のなかでもエイミー・ロウレンスの『インヴィンシブルズ』に触れられている。

ロウレンス:トレーニングでときどきヴェンゲルはゴールをピッチの角に置いた。アングルのある状況をつくるために。またサイドチェンジのパスを集中練習するために。

ボールを地面に落とさないようにする練習もあった。たくさんのトリック、たくさんのディーテイル、たくさんの正確さ。それがみんな合わさって、このスピーディで饒舌なアプローチを生み出す。

それがヴェンゲルボール。

戦術進化の流れのなかで

フットボール全般の戦術論に興味がある人ならお気づきのように、昨今いわゆる戦術家たちの戦術がたびたび語られるのに比べて、アーセン・ヴェンゲルの戦術といったものが話題に上ることは極端に少ない。そう思わないだろうか。

要するにヴェンゲル監督は、ファンがなるほどと思わず唸るような、何か語りたくなるような目新しい戦術上のプランをほとんど持っていなかった。ほんとにそうかは知らないが、少なくとも試合の結果を見ればそう思われたとしても仕方がないだろう。

だからこの「ヴェンゲルボール」が、みなが語りたくなるようなほとんどたったひとつのヴェンゲル監督の戦術らしい戦術だったということが興味深い。

しかしそれでさえ、いまこのヴェンゲルボールを現代のより洗練されたフットボール戦術の進化史の流れのなかで考えたとき、残念ながらそれは戦術と呼んでいいかどうかさえ躊躇われれるものになってしまっている。

「オフェンスはディフェンスから」

ヴェンゲルボールが自分たちがボールを持ったときに創造性や自由・発想を最大限に活かした攻撃の方法であるのに対し、先進的な現代フットボールの戦術は単なる攻撃というよりも、もっと守備やオフ・ザ・ボールの動きに比重が置かれた厳密なものだ。自由とかインスピレーションなどといったロマンチシズムからは遠い、もっとリアリスティックで、相手のイヤなことをしようとする陰険で意地悪なものだ。

アーセナルの戦略はそういった相手の弱点を突こうとか、相手の長所を消そうとかそういう視点に欠けている。問題はあくまで自分たちがどうプレイするかということだけ。

しかもヴェンゲルボールは、選手個人のタレントに多くを依存したプレイスタイルであることは上の13/14シーズンの映像を見れば一目瞭然だ。カソルラもロシツキもおらず、13/14のような流麗なプレイを今シーズンわれわれは果たして何度見ただろうか?

攻撃から守備、守備から攻撃へのトランジション。プレッシングの位置や場所。セカンドボール・サードボールを見越したポジショニング。いかに追い込んでボールを奪うか。そして奪われないか。エトセトラ。こういったことが戦術だとすると、ヴェンゲルボールを戦術と呼んでいいかは迷うところだ。タクティクスというよりはメソッドというほうが近いかもしれない。

ヴェンゲルボールはあくまで攻撃のためのメソッドやコンセプトであり、その前段階のボールを奪うことについてはアーセナルは恐ろしく無頓着だった。オフェンスはディフェンスから始まるというシンプルな原理について考慮されていない。ただ速く美しく攻撃しようという行動原理のみが愚直に追求されていたのだとすると、それは現代的な価値観からはあまりに素朴だ。

アーセンズ・アーセナルの愛すべきユニークさ

アーセン・ヴェンゲルは確固たるモダンな守備戦術を持ち合わせていなかったために、この戦術進化をリードしている、あるいはキャッチアップしているライバルたちにどんどん勝てなくなっていった。そう思っている。

しかし、それでも多くの試合に勝ったし、相性のいい相手ならときどきは美しく勝ちもした。

シーズンを通してファンは多大なストレスを被ったが、アーセナルが弱かろうが勝てなかろうが、それでも攻撃に偏重したフットボールで多くの人を魅了していたことは確かだ。ときにカミカゼアタックといわれようとも……。

これは根拠のない憶測だが、アーセナルの結果が出なかったここ数年でもファンは増えこそすれ減りはしなかったんじゃないだろうか。もちろん勝てなかったときは観ていておもしろくなかったが、そんなときでもファンは辛抱強く勝つまで待ち続けたし。中立のファンでも週末にはアーセナルのプレイに何かおもしろいものが観られるのではないかと期待していた人はけっこういたと思う。それに勝てないからといってマンUのようにプレイしようなどとは決してしなかった。そういう誠実さ(頑固さ?)だけはあったと信じている。

いい意味でこういう個性的なチームがひとつ失われてしまうことは、フットボール世界にとっては損失かもしれない。ウルトラビッグビジネスと化したプレミアリーグで、こんな笑えるビッグクラブはもう二度と現れまい。

「魅力的だが弱いアーセナル」アルテタはどう進化させるか

アレグリがユーヴェに残りそうだという報道もあり、いまパトリック・ヴィエラとともにミケル・アルテタがネクストマネージャー本命に急浮上(再浮上?)している。

彼はグアルディオラはもちろんのこと、元チームメイトのポッチェティーノなどとともに、アーセン・ヴェンゲルを監督として大変リスペクトしていることが知られている。彼がアーセナルのボスに就任した際に、ヴェンゲル路線をどの程度継承していくのか。

強くそして美しい進化。それがわれわれガナーズファンの望みである。

そしてできればそのときには、ヴェンゲルボールも忘れないでほしい。



2 Comments on “【ヴェンゲル】Wengerballとアーセナルの戦術【ボール?】

  1. いつも読ませてもらってます。ヴェンゲルボールを改めて見て、ジャカの存在意義無いなと実感しました。あの判断が遅いからサイドチェンジがなければ去年も今年も4位以内でしたよ。次期監督にはジャカの代わりを取ってほしいです。

    1. こんにちは。コメントどうもです。

      ジャカはなあ。彼は今季のパス本数リーグ1位で、アーセナルがチームのポゼッションの中心に彼を置こうとしてたのは間違いないんすよねえ。でもどうしても彼を経由すると遅攻になってしまって、ヴェンゲルボールみたいな素敵プレイを求めることはできない。

      確かにイライラはさせられますが彼が利いてる試合もあるんで、ジャカをどうするかっていうのはエジルの次くらいに悩ましいっすねえ。。あのポジションで彼に守備センスがあればすべて解決だったんですが。

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